欲しい×タイミング※高校2年
両親の仕事の都合上でも、よっぽどじゃない限り泊まることはしなかった。オジサンは遠慮しないで来なさい、なんて言うけれど…。
でもあの時の彷徨は様子がおかしかった。なんて言うか…
ぼっ。
急に思い出して熱くなってしまった。あの日だけはかなり強烈な記憶だ。
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side M
丁度台風が来た日だった。真っ暗な自宅で1人になるよりなら、とオジサンが泊まりなさいと呼んでくれた日だった。
「…で?結局帰れなくなった、と。はいはい、分かったよ」
電話口で話す彷徨とオジサンの声。仲の良い檀家さんと旅行の帰り、乗り換えの電車が停まってしまったので、そのまま別でホテルを取って泊まる事になったそうだ。だから今日は本当に彷徨と2人だけ。台風対策、なんて言ってもちょっと窓を固定しただけで大丈夫かな、なんて思う。
深夜になると、いよいよ風が強まって大きくガタガタと音が鳴る。逆に怖かった。用意してもらっていた客間を抜け、ボンヤリと淡い光が灯っている場所は彷徨の部屋。大方いつもの寝る前の小説読みだろう。
軽くトントンと合図。
「…彷徨ぁ…まだ起きてるなら、ちょっとだけ、いい?」
「あぁ」
部屋にお邪魔する。布団の中に突っ伏している体勢で、小説のページをめくる音。
「ごめん、ちょっと風のガタガタが…」
「あぁ…ビビってんの?」
「う…じゃ、じゃあ!ここで寝るのは「ダメ」」
バッサリ切られた。いつもそう。彷徨は絶対わたしをここで寝させようとしない。理由も絶対教えてくれない。
そりゃ1人になれる自分の部屋なら、簡単にテリトリーに入れたくないのは分かるけれど。わたしの立場、オジサン以外でなら、彷徨の範囲の最も1番近い所にいられるものじゃないのかなと思ってしまう。どうして拒むんだろ。
「…何で彷徨の部屋で寝ちゃダメなの?」
「……ダメ」
「どうしてよ…布団が並ぶのが嫌なの?じゃあ布団めっちゃくちゃ離せばいいでしょ?どう?」
我ながら名案だと思う。でもその首は横に振られた。
「そういう問題じゃねぇの。風が落ち着いたらでいいから、そしたら部屋に戻れよ」
「ちょっといくらなんでも酷い!ね、眠いわよわたしだって、風止むまでなんていつになるかも分からないのに、眠気越える程の体力持つ訳ないじゃない!」
あんまりだ。
「…おまえは絶対理解してないよ。ここで寝たいとかさ…だから困るの」
「何がよ」
「ガキじゃねぇんだから、女友達と下世話な話くらい出るだろ?何組と何組の誰と誰があーだこーだしてとかさ……。そんで…」
「…」
パタリと本が閉じられて、彷徨がわたしを後ろから急に抱き込んだ。ぎゅーっと密着するからわたしも焦る。
「な、なになに」
「おまえさ…彼氏の部屋に深夜に来るなよ……バカっ…」
ボツリと耳元で聞こえるちょっと低めの声。頭に、全身にギューって響く。心臓、バクバクする。
なんか、彷徨の様子が変だ。
「風呂上がりの…匂いとか……全部ヤバい事になるんだっつの…」
グイッと顔の向き変えられて、ゴツっと額同士がくっつく。
「ハッキリ言うぞ?深夜におれの部屋に来るのは襲って下さいって言ってるようなもんなの。本当にそうされたらおまえ絶対パニックになるだろ」
カプッ、と唇くっ付いて下唇を甘く噛まれて、ペロッと舐められて、それから匂いを嗅がれているみたいに首元までを辿るように鼻筋がすーっと擦れて擽ったい。
いつもと雰囲気も変だ。やっぱり身体がきゅーってなる。ザワザワする。変な声、出そうになる。
「だからがっつきたくないんだよ…おまえも、そう思ってくれないと意味ないからさ…」
「ぁ…彷徨…?」
後ろからだから彷徨の顔全然見えないけど、抱えられている身体がすごい熱い。多分彷徨も…
「未夢………抱きたい…」
「……っ」
耳元で拾った声、全身に、響く。ぶわわっと鳥肌と体温がさらに上がった気がする。
「ぁ……ぇと……わた、し…」
「風の…音止んでる。もういいだろ早く部屋に戻れ」
襖が開いて、ぺいっと押し出された。
「か…!」
反抗のスキも与えられずピシャンと襖がしまった。
身体あっついまま、心臓バクバクいってる。こんな感覚、初めてだ。
「……彷徨…」
彷徨の本心。あぁ、そういう事か。言い方よく分からないけれど、我慢、してたんだ。わたしをこの部屋で寝かせないようにしたのはそのせいだった事に気が付いた。
部屋の中、寝ちゃったのかな静かだ。
「……彷徨になら……」
いつかは、そうありたい。
今は、まだ頭と気持ちが追い付いてない。そっか、だからか…
─────だからがっつきたくないんだよ…おまえも、そう思ってくれないと意味ないからさ…
そう言ったんだ。
パジャマの裾をキュッと握って、その場を離れて客間に戻る。
まだ、心臓バクバクしていた。
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side K
翌朝、台風が抜けて行き、朝食食べてすぐ未夢は自宅に引っ込んだ。朝は普通でいたような気がしたけれど、朝食の後片付けの間、おれはやってしまったと膝から崩れ落ちる感覚が拭えなかった。
「あー…ヤバい事言った…マジで…ドン引きレベルだろアレじゃ…」
中学の時の感覚とは全然違う。高校入って以降急激に回り始めた熱と欲。独占欲だけならまだ可愛いものだと思う。
"未夢が欲しい"、"自分のものにしてしまいたい"、その思考と感覚が全身に回るからだ。理性のコントロールなら徹底して来たからまだ我慢はできる。でも蓄積しているのは明らかで、いくら鈍感な未夢にだっていつかバレる。
昨日だって、後ろから抱き込んで密着してしまった時、じわじわと下腹部中心に籠る熱の感覚があった。ヤバいと思って咄嗟に無理やり足を組み替えたけど、下手したら気が付かれていたと思う。
「最悪…」
あまつさえ、熱が灯る中結局ついぶつけてしまった、本心。彼女を異性として抱きたい気持ち。
「ったくもー…何してんだよおれ…」
欲望に流されるな、まだ、その時じゃないと言い聞かせて理性を総動員させる。怖がらせたくない、アイツはまだそのつもりの可能性が低い。なら、してやれる事は待つ事。
昨日部屋から無理に追い出して襖をしめた後、籠った熱を抑え込むために無理やり寝込んだ。正直、キツいし、このままだと限界が来て確実に本能のままに襲って泣かせる事になる。
「…勘弁しろよマジで…」
「何がじゃ?」
「うわっ」
いつの間にかオヤジが帰宅していたらしく、その事にも気が付いてなかった。普段尖らせているはずの神経がこうも鈍い。
「お前達は昨日大事なかったか?」
「あ、あぁ…さっき飯食って帰ったから大丈夫だろ」
「未夢さんが今出て来れないかと玄関でおまえを待っておるぞ」
は?
「それ先に言えよ…」
慌てて玄関に向かうと、俯いて表情が見えない未夢がそこにいた。忘れ物でもあったなら勝手に取っていけばいいのに。
「忘れ物か?」
横に振られる。
「どうした?」
正直、昨日の今日。朝も朝食の間あんまり話してないから気まずい所がある。とりあえず立たせたまま話すのもどうかと思い、自室に連れて行った。
(…あ…居間にすりゃよかったな…)
しまったと思った。昨日の今日。本当にまともな思考が働かない。
ふと背中に、ぽすんと寄り掛かかって来た未夢。
「ちょっ…」
「…ごめんね…昨日」
「…え?」
「彷徨の気持ち…に対応出来なくて…まぁ追い出されちゃったけど」
(あぁ、そういう事か…)
「あ、あれは……おれが悪い。ちょっと口滑った。だからって、おれに合わせる必要はないから」
「…わたしもね、いつか、そうしたいなって、そうありたいなって思ってる」
だけど、今すぐは無理だと言う事。
「頭ではね、分かってるよ。でも身体と気持ちが、その…追い付いてないの」
丁度腰あたりに回ってる未夢の腕に少し、力が入っている。
「だからいいんだよ、無理しなくて。昨日も言ったけど、おまえ絶対パニックになるだろうから」
「うっ…それは否めない…」
「そんな事言うためにわざわざ戻って来たの?」
「そんな事って…だって結構、我慢してんだなって思ったから…でも、今すぐには応えられないけど、あの…その…」
コイツのそういういじらしい所に思わず笑ってしまう。同時に可愛くて仕方ないとも思う。
「ちょっと腕離してくんない?」
言って見れば、少ししゅんとしたような。ばーか、嫌なんじゃないっての。
「どうせなら正面からいいですか?顔見えないし」
自分だって昨日後ろからしたのは棚に上げておく。そっと彼女を正面から抱き締めた。
「あのね…クラスの友達が言ってた。彷徨はヘタレなんだなって」
「ハァ?誰だよそれ」
それはちょっとムカつく。
「でもね、わたしの事大事にしてんだねとも言ってた」
「…」
「そうなんだ?」
ふふっと笑っている。
「……そうだよ。おれの独り善がりで暴走して……傷付けたくないの…大事にしてんだよこれでも!」
やばい、めちゃくちゃ顔熱い。
「えへへ…優しいなぁ。後…もうちょっとだけ、待ってくれる?」
言われなくてもそうする。言うつもりでいたら、頬にされた柔らかなリップ音。
(あぁ…くそ…)
こんな事されたらもうせっかく固めた理性を崩されかねない。返事の代わりにくしゃりと頭を撫でてやる。
「あ、あのね!ちゃんと、"ハジメテ"は彷徨にあげたいし」
「ぶふっゲホッ…」
「きたなっ!」
爆弾投下された。狙ってんのかコイツ。
「おまえ、なぁ…」
「な、なによう!」
「はいはい分かったよ!精々楽しみにさせてもらおうかな」
その時まではちゃんと待つから、その時は覚悟してもらいたい。
(今だって余裕なんかないから、更に余裕無くすだろうけど…)
は、敢えて言わないでおく。
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後書き
さくみよ、てめぇこれじゃただエッしたい彷徨くんじゃねぇか!内容が酷すぎる。いいじゃん高校生になったらきっと理性の格闘してたと思うよでもタイミングは未夢待ちにして耐え忍んでいたと思うよ鋼鉄の理性で耐え忍んでいただろうよ!