嵌らないピース────なんでなんだよあの人…
「シンク聞いてんのかー?」
「うるさい!何の用」
横からガンガンギャンギャン吼えるように呼びかけて来るルークにウンザリしながら、聴いていたイヤホンを外した。
(なんでこうなる…)
学年が違うから対応したくないのに、どれだけ追い払っても全く懲りないルークはまたしてもシンクに近寄る。自分のパーソナルスペースにグイグイ入って来て正直面倒臭いはずなのに、でも何故か無下に扱えないのがルーク。
「聞いてるかって!んでさぁ、アッシュがグチグチ言うんだよな、マジ面倒でかったりぃってーの!」
「僕からすればアンタの方が面倒でかったるいタイプなんだけど?毎回毎回何?いくらトモダチ作る根性はないくせに僕に来る根性は何なの?」
「だー、うるせぇーいいじゃん別に!先輩と後輩が仲良くしたってバチ当たんねえから!」
(マジでだる絡みも大概にして欲しいんだけど)
とは面と向かっては結局言わないでしまうの自身にもシンクは面倒になった。
────その日、街は猛吹雪だった。
電車が止まってしまい、動き出すまで時間を潰すしかない生徒ら。シンクも部活がなかった日なので、仕方なく交通の便が解除されるまで教室で時間潰ししようとしたらルークに見つかり絡まれたのだ。
「シンクさ、どこに住んでんの?」
「なんでアンタに個人情報教えなきゃいけないの?」
「俺普段はチャリだけど、今日は車が迎えに来るからさ、乗せてやろうかと思って!」
「オココロヅカイカンシャシマスガボクハアンタトハカエラナイノデオキヅカイナク!」
一息で吐いた言葉のナイフ。これ以上入って来ないで欲しい拒絶。効いたか知らずかルークはムスッとしたが。
「…心の底からの断りかよ。一緒に帰りたかったのによ」
また一打。吐いても跳ね返して来るのだ。
「…何なのアンタ…マジでやめてよ。そんなに僕が気になるの?」
まるで一方通行に想われてる感がある。そんな趣味はない。
「前言ったじゃん?運命的レベルでなんか気になるって。マジだぞ?」
「バッカじゃないの!悪いけど、男に惚れるような趣味僕にはないから!」
席を立つ。もうウンザリだ。上流階級は話の通じないヤツらばかりと逃げるように教室を出る。
「おいシンク!」
ルークは追いかけて来なかった。
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翌日の休日。
街中でシンクは朱色をたまたま見付けてしまった。
(ゲッ…なんで)
思わず物陰に隠れてしまったが、彼はどうやら今日は1人ではなく、隣に誰かがいる。あれは、ルークと同じ部活にいる最上級生のユーリだ。会話しながらも、頭をぐしゃぐしゃに掻き回されてギーッとムキになっているが、満更でもなさそうなルークがそこにいた。
「なんだ、トモダチじゃないけど親しいのは他にいるんじゃん。呆れた…」
なら付きまとわないで欲しいはずなのに。
思い出したのは、『先輩と後輩が仲良くしたってバチ当たんねえから!』。友人でなくともルークが親しくする人間は他にもいる。ユーリもルークからすれば仲の良い方の先輩なんだろう。
(変な気分…)
ただ、今日その隣にいるのは自身ではないのが妙に居心地が良くない。
「────なんでなんだよあの人…」
毎回勝手に人のパーソナルスペースにズカズカ入ってだる絡みしてくるかと思えば学校外では、別の人の前では自身の全然知らない楽しそうな顔をしているのだ。
(前からそう。意味が分からない…)
モヤっとする何かの正体をシンクはまだ、知らない。
END