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    ぎの根

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    ぎの根

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    りゅじてん現パロ同居ルートにおける、じ不在のりゅてん。まだもどき。

     丶蔵と仲良くな、と言い残して仁が外出してから、どれくらい経っただろうか。部屋の灯りがつけられて始めて、もうとっくに日が暮れていたことに気づいた。ソファの上で丸くなったまま瞬くと、帰ってきたらしい丶蔵がうわっと声を上げた。
    「いるなら電気つらいつけろよ」
     驚かすな、と苦笑しながらリビングを通り抜けた丶蔵は自分の部屋に入り、すぐにまた戻ってきた。
    「仁は、ああ、今日が泊まりか」
     竜三が返事をする間もなくひとりで頷いている丶蔵の声を聞くともなしに聞きながら、ソファの上でのそりと身を起こす。
     伯父の志村は相変わらず仁に過保護で、何かと仁に構っている。仁にしても昔と変わらず懐いていて、以前はしばしば志村の家へ泊まりに行っていたらしい。竜三や丶蔵と暮らすようになってからはたまに夕飯を供にするくらいになっていたが、今日は久し振りにゆっくりしていけと誘われて断りきれなかったのだと言っていた。
     仕事で数日会えなくてもどうってことない。しかし仁が志村と会うとなると話は違う。仁は伯父よりも自分達を優先してくれている。そう分かっていても、いつか仁がそのまま志村の許から戻ってこなくなるのではないかと考えてしまう。仁がいないだけで嫌な方へと流れる思考を断ち切ったのは、目の前にぬっと突然現れた缶ビールだった。
    「飲むか?」
     顔を上げると、いつの間にか風呂を終えたらしく首にタオルをかけた丶蔵が両手に缶ビールを持ってすぐ傍に立っていた。黙ったまま手を伸ばして一本受け取ると、丶蔵はもう一本を開けながらどさりと竜三の隣に腰を下ろした。
    「うっま」
     ひと口飲んでうあー、と息を吐くおっさん臭い丶蔵の声を聞きながら受け取った缶を開けてビールを口に流し込む。そういえば飯も忘れていた、と冷たいアルコールが空っぽの胃に広がるのを感じ竜三もふうと息を吐く。
    「飯は?」
    「食ってない」
     正直に答えると、ふうん、と気のない声が返ってくる。俺ももうつくる元気がないしなあ、とぶつぶつ呟きながら丶蔵がテーブルに飲みかけの缶ビールを置いて立ち上がった。
     黙ってちびちびとビールを飲んでいると、しばらくして丶蔵が戻ってきた。とん、と目の前に置かれたのは、買い置きのカップ麺だ。
    「ほら、あんたも食べろ」
     ほい、と箸を差し出され、のろのろと受け取る。また隣に座った丶蔵が前屈みになりながらいただきますと告げて麺を啜り始めた。ふわりと漂う匂いに唾液が湧き出るのを感じ、竜三もビールを置いてカップ麺に手を伸ばす。箸で摘まんだ麺を少し口に入れると、何処かに消え去っていた食欲が帰ってきた。静かに食べている丶蔵の横で、竜三もただ黙々と箸を運び、あっという間にカップ麺を食べ終えて汁まで飲み干してしまった。
     空の器を置いてふっと息を吐いた竜三に、ビールを呷った丶蔵がくすくすと笑う。
    「なかなか旨かったな」
    「ああ」
     揶揄の気配もないただの感想に、竜三も素直に頷く。たしかに旨かった。
     ビールを空けた丶蔵が二人分の空いた容器を片手に重ね持って立ち上がる。竜三も残りのビールを飲み干し、空き缶を片手に丶蔵を追いかけた。流しでざっと容器を洗いごみ箱に捨てる丶蔵を後ろからぼんやりと眺める。
     丶蔵はいつもと違い、竜三をからかってこない。普段なら一言多い丶蔵に竜三が食って掛かることも多々あるし、仁のことで竜三が妬くのも日常茶飯事だ。丶蔵にはそれを楽しんでいる気配すらあったが、今日の丶蔵はただ竜三を気遣っているような態度で接していた。
     弱っている自覚は多分にある。それに、仁がいないだけで寂しくてたまらないのだ。
     片付け終えた丶蔵が濡れた手を拭いて振り向き、目の前にいる竜三に一瞬目を瞪って苦笑する。
    「迷子みたいな顔するなって」
    「どんな顔だよ」
     ぼそりと呟いて丶蔵の体を囲うように両手を伸ばし、片手を流しの縁につきながらもう一方の手で持っていた空き缶を流しの中に置く。丶蔵は逃げもせず、竜三の頬を指先でつついた。
    「仁に置いてかれた、って顔」
     その通りだ。両手で流しの縁を掴み、がっくりと丶蔵の薄い肩に顔を伏せて押しつけると宥めるように背中をぽんと叩かれた。
    「すまん、悪かった」
     小さく唸りながら丶蔵の腰を両手で抱き寄せ、肩に顔を擦りつける。
    「おいおい」
     微かに焦ったような声を上げながらも丶蔵は抵抗しようとはせず、竜三の好きにさせてくれた。それどころか頭や背中を労るように優しく撫でられる。仁よりも細い体を抱き締め、首筋に鼻を埋めてすんと鳴らす。
     嗅ぎ慣れた石鹸の香りと、その奥に微かに感じる、仁とは違う汗の匂い。仁ではないのに、こうして傍にいることが自然になっている。
     どうしようもない気分でただ鼻先を肌に擦り付けていると、丶蔵が大きくため息を吐いて竜三の髪を軽く引っ張った。
    「竜三」
     しぶしぶ顔を上げた竜三の頬に丶蔵の手のひらが宛がわれる。
    「なんだよ」
     目の前にある顔がすいっと寄せられて唇がちゅっと啄まれた。思わずじっと見つめた先で、丶蔵が眉を下げて微笑む。
    「仁のかわりに、俺とするか?」
    「代わりじゃなくてあんたとしたい」
     食い気味に答えたそれは、本心だった。丶蔵は一瞬目を瞪ったがすぐにくしゃりと相好を崩して、仕方ないなあ、と呟いた。拒絶はされなかった。それだけでも竜三は救われた気分で丶蔵の唇をそっと食んだ。
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