おはようとおやすみを「おはよう、魈」
「!? し、鍾離様。おはよう、ござい……ます」
明け方望舒旅館へ戻ると、露台に鍾離が立っていた。なぜ、ここに。と思ったのだが、鍾離は籠を背負っており、何かのついでにここに来たのだろうとすぐに予想できた。
「タケノコを掘った帰りに挨拶がてら望舒旅館へ寄ったのだが、丁度会えて良かった」
「はい……」
「では、また」
「も、もうお戻りになるのですか!?」
「ああ」
本当に挨拶だけをする為に望舒旅館へ寄られたようで、そそくさと鍾離は階段を降りて、あっという間に帰離原を歩いている姿が見えた。
ぽつんとその場に残された魈は、鍾離の歩いていく姿をしばらく見守っていた。姿が見えなくなった頃、本当に鍾離は挨拶だけをしにここに来たのだということを、やっと飲み込めていた。
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