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    piiichiu

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    piiichiu

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    花ちの親戚関係を捏造しています。花ちが中学生から一人暮らししてる話

    子どもが、法律上何歳から一人暮らしできるか知ってる?

    答えは何歳からでも。
    法律上、未成年者の住まいは親権者が決めるよう義務づけられているが、一人暮らしをすることの年齢制限は設けられていない。親権者が同意して、それが児童の育児放棄だとみなされなければ、極端な話小学生でも一人暮らしは違法ではないのだそうだ。

    洋平がそのことを知ったのは、中学一年生の終わり頃だった。洋平はびっくりした。子どもというのは大人と一緒に住まなければならないものと勝手に思っていたからだ。

    花道はこれから一人暮らしをするのだという。

    静岡に、父親の妹、叔母が家族と住んでいて、花道のひとつ年上の従姉がいるという。初めは、父親を亡くした花道はそこに引き取られる予定だった。葬式の時はそういう話になっていて、洋平は神奈川から静岡まで行く方法を何通りか調べたのだ。だがその従姉が、花道が同居して同じ中学校に通うようなことになれば、自分は学校に通えないと言い出した。
    それで花道は、神奈川には友だちがたくさんいるから、引っ越したくないと言い出した。
    それで週に3回叔母が通う形で、花道は一人暮らしをするという。
    まあまあ近所に住んでいる洋平の家に、その叔母が菓子折りを持って挨拶に来た。どうか気にかけてやってくださいと洋平の母親に深々と頭を下げた女は、善良そうな人間に見えた。洋平は腹が立って仕方がなかった。花道の従姉を、なんと嫌な女だろうと思った。父親を亡くしたばかりの従弟を気遣うより、そんなに自分のことが大事か。花道がこのまま近くに住んで同じ学校に通えるのは嬉しかったが、同じくらい強く、会ったこともない花道の従姉への嫌悪感があった。
    洋平がちらりとそんなことを言うと、花道は必ず怒った。洋平、女の子にそんな言い方すんな、ミキ姉ちゃんの言い分が正しい、従姉弟とはいえ、年頃の男女が同じ家では気まずいだろうし、オレはこんなだから学校でからかわれるだろう。ミキ姉ちゃんは来年受験生だし。オレも、本当にこっちから離れたくなかったからよかった。洋平達が近くにいた方がずっと楽しい。
    聞き分けのいい花道が悲しくて、洋平はまた怒りを感じた。こんなってなんだよ。花道は何も悪くないのに、なんで父親を亡くしたばかりの花道がそんな気遣いしなきゃなんねーんだ。

    花道は中学の修学旅行に行かなかった。
    宿やバスのキャンセル料発生前ならほぼ全額戻ってくると教師に確認して、修学旅行には行かなかった。花道が行かないならと、洋平たちも行かなかった。代わりに、その間に花道の家に泊まって遊びたおした。
    花道の叔母は、月の初めに花道の家に最低限の生活費を紙封筒に入れて持ってくる。足りないことや、物入りなことがあったら遠慮なく言ってねとその女は毎回のように言うが、多分花道は一度も不足の連絡をしたことがない。
    洋平は新聞配達のバイトを始めた。
    金が欲しかった。
    大人になりたかった。
    花道の同級生で良かったと思うのと同じくらい、花道を守れる大人だったら良かったと思う。いくらでも美味いもん食わせて、修学旅行にも何の憂いもなく行かせて、誕生日にはご馳走を用意できる大人になりたかった。

    中学卒業の後は就職するつもりだと花道は言った。ベンキョーなんかどうせ嫌いだし、オレは働く。そう言った花道に、洋平は頷いた。

    「そうか。じゃあオレもそうする」

    「なっなんで」と花道は焦った声を出した。洋平は行った方がいいと言う花道に、洋平ははっきりと言った。花道が行かないなら、オレも行かないって。花道はしばらくわめいていた。ヒキョーだ、オドシだって。でも気持ちは決まっていた。花道の言う通り、どうせ勉強が好きなわけでも得意なわけでもない。中学出たら、大工かなんかのところに入って、手に職つけるのも悪くない選択肢に思えた。それが花道と一緒ならもっといいだろう。早く金を稼げるようになりたいのは洋平も同じだった。だから、洋平は説得したつもりも、脅したつもりも、反対したつもりさえない。
    花道が高校行かないなら、オレも行かない。
    ただ、そう決めただけ。
    花道はうーうーふぬふぬと憤って、何度か洋平を説得しようと試みていた。

    「洋平、やっぱ高校は行った方がいい。社会出ても中卒は舐められるって言うし、おじさんもおばさんも洋平に高校行ってほしいと思う」
    「中卒舐められるって理由なら、花道も同じだろ。それに花道のオヤジさんも、多分そう思ってたと思うよ」
    「ぬ……っ、……でも、洋平はオレよりベンキョーできるだろ」
    「似たり寄ったりだし、オレも別に勉強好きなわけじゃねーしな」
    「…………ふぬぅ」

    洋平は、別にどっちでも良かった。
    中卒でどっかに勤められたら、花道と二人暮らしがしたいなとまで思っていた。中卒でも、働いてたらもう大人だ。早く大人になりたかったその時の洋平にとっては、その選択肢は悪いことばかりではないように思えた。

    花道は、それから数日間落ち込んだ様子だった。萎れた花みたいな様子は可哀想だったが、洋平は自分の意思を変えるつもりはなかった。
    数日後、花道は意を決した様子で、洋平に言った。高校行くって。洋平と同じとこ行きたいって。
    洋平は嬉しくて、花道を抱きしめた。
    この選択が本当に満開花丸大正解だったことを、洋平は何年かのちに知る。

    湘北高校で、花道はバスケットボールに出会った。

    洋平は、高校に入るとバイトをいくつか掛け持ちした。金を稼ぎたい、早く大人になって、必要な時に花道を守れる人間になりたいという思いがずっとあった。中学の時に悔しかったから、高校の修学旅行は一緒に行きたいとも思っていた。それで、一年の時から金を貯めるつもりだった。湘北高校の修学旅行は、沖縄に三日間。教師に聞いたら、ご家庭が払うのはだいたい10万くらいだという。思ったより安い。
    中学の時の新聞配達のバイトで貯めた金がすでに10万を超えている。16になったら、原付の免許を取りたい。花道を乗せて旅行に行くのも楽しいだろう。
    花道がバスケ部に入ってすぐくらいに、洋平の方からアヤコさんに部費について聞いた。5万近い部費を、洋平は花道に無断で勝手に払った。中学の頃から毎日毎朝新聞を配り続けた甲斐があったと思った。

    わざわざ聞いたわけではないが、花道の家に入り浸っていてわかることがある。
    花道の叔母が訪ねてくるのは、当初の週3から週1以下に変わっていた。それは花道の方から言ったらしい。もう高校生だから、そんなにヒンパンに来なくてダイジョーブって。生活費は高校に入っても多分大きく変わっていない。3人前は余裕で食べる花道の食費にはとても足りなくて、花道は商店街にその日の商品の残り物を貰って食べていた。

    花道の叔母は、毎年洋平の家にお中元とお歳暮を送ってくる。洋平はそれにも腹が立っていた。そんな気遣いをするくらいなら、花道に米の一袋も送ってやればいいのに。花道がどれくらい食べるのかを、多分知らないのだろう。花道の叔母が悪人というわけではないことを、洋平は頭ではわかっている。それでも、無闇に嫌悪感があった。論理的ではないだろう。色々な理不尽に対する憤りが、全部会ったこともない花道の従姉と、あの善良そうな叔母に向かっているのを自覚していたので、洋平は出来るだけそのことについて考えないようにしていた。

    そんな事を、洋平は25の時に思い出した。
    花道の従姉という人が、洋平の実家に電話をかけて来たというのだ。

    結婚式の招待状を出したいが、アメリカにいる花道の連絡先を知らないかと聞かれたという。

    洋平は、久しぶりにあの嫌悪感を思い出した。無力な子どもだった自分たち。花道にひもじい思いだけはさせたくなくて、米だけは足りなくならないように、バイト代が入るとまず30キロの米を買った。おかずは商店街で貰っていた。花道。今はアメリカでバスケットボールの選手として活躍している。有名になった従弟に今更すり寄ろうとしてるんじゃねーのか、という嫌な推測が浮かぶ。どっちにしろ、花道は渡米してから一度しか日本に帰ってきていない。その時は大楠の結婚式だった。シーズン中も、オフシーズンの間も、全てをバスケットボールに捧げている。

    こんなどうでもいい事、伝える必要さえないと思った。意地の悪い気持ちがあった。嫌な女。今更、ずうずうしい。だがそれを決めるのは洋平ではなく花道で、花道の少ない親戚関係を洋平が無断で断ち切っていいはずもない。洋平は国際電話で花道に伝えた。花道は、数秒迷った後、今は行けねーなと答えた。それに洋平は、ちょっと満足感を覚えた。自分でも性格が悪いと思うが、そんな女のために花道が動く必要はないと思った。花道はそれから、祝電を打ちたいと言った。花道に頼まれて祝電の手配をした。その件はそれきりだった。

    それから数年後、花道がNBAを華々しく引退して日本に帰国し、洋平と同居して一年が経った頃、本当に偶然に花道の従姉に会った。
    ショッピングモールで洋平と花道が歩いていると、声をかけられた。「花ちゃん?」という声に振り向いた後も、花道はしばらく相手がわからなかった。子連れの夫婦だった。相手の方がおずおずと従姉のミキだと名乗ると、花道はパッと顔を明るくした。

    「おお、ミキ姉ちゃん!久しぶり!叔母ちゃんは元気ですか?」
    「うん、元気だよ。本当に久しぶり」

    洋平は一歩下がった場所で、腕を組んだままその女をまじまじと見やった。
    何度か見た花道の叔母と、雰囲気は似ている気がする。それほどよく覚えてはいないが、多分似ている。善良そうな女。雰囲気の柔らかい女。

    もし良かったら一緒に食事でも、という誘いに、花道がこの後用事があるのでと答える。それは事実で、この後実際に用事がある。女は少し口籠ってから、小さな声で言う。

    「花ちゃん、あの時はごめんね、ずっと謝りたかった」
    「……??何をですか?」
    「花ちゃんはお父さんを亡くしたばかりだったのに、私自分のことばっかりで」
    「……ああ。イエイエ!オレ、高校ですごく良い出会いがあったから、そっちの方が良かったんですよ。気にしないでください」

    子どもが、母の服を掴んで引っ張る。それが合図になって、じゃあ、とぎこちなく別れた。向こうの夫がぺこりと頭を下げる。洋平もゆるく会釈をした。

    しばらく無言で歩いた後、何かを告白するような気持ちで隣の花道に言う。

    「オレ、さっきの女がこの世界で何番目かに嫌いだった」

    花道が洋平の方を見て、ふっと笑う。

    「知ってた。洋平は、オレに優しくない人キライだもんな。ミキ姉ちゃんは別に悪い人じゃねーけど、でも洋平がオレのために怒ってくれてるの、知ってた」

    そういうとこも好き、と呟いた花道に、オレはなんだか急に全部世界がやさしくなったみたいな妙な感覚があって、人も多いショッピングモールなのに、花道と手を繋いで歩いた。
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