オレンジまだ日が昇らない暗闇の新横浜。紺色の柔らかいマフラーを巻いて、ロナルドは境内に続く階段を登った。手袋を付け忘れて出てきてしまった。指先に息を吹きかけながら登りきったそこには色違いの白いマフラーをつけた半田が辺りを見廻すように突っ立っている。指先をコートの袖口に潜らせている。彼もまた手袋を忘れたのだろうか。
「半田」
名を呼ぶと彼は振り返り、ぱぁっと顔色を明るくさせていつもの悪戯な表情で駆け寄ってきた。手には緑色の凶器を持って。
「んぉッぺぱおラっpアーーー!!!」
満面の笑みの半田を奇声とともに投げ飛ばした。
「あけましておめでとうございますだぞ馬鹿め!!」
「なんて新年の挨拶だ今年もよろしくお願いします!!」
わいわいと騒ぎながら二人は先へ歩いた。
「先にお詣り済ますか?」
「うむ。お詣りしてから初日の出を見て、お焚き上げをしてから新しい御守りを買うのだ」
石造りの鳥居の前で一礼してから境内に足を踏み入れ、本堂に五円玉を投げ入れ手を合わせる。目を閉じると研ぎ澄まされる。人の気配も疎らで静かな空間の中、お焚き上げをするための炎のぱちぱちという音が厳かに響いていた。
すんと顔を上げて、半田が礼をするのにつられてロナルドも一礼する。
「なに願った?」
「今年こそはロナルドを倒すと誓ってやったわ」
「俺たち恋人だよなぁ!?」
ウハハハ、と半田が高らかに笑う。ふと、オレンジ色に辺りが輝いた。その方向を見たら美しい初日の出が今にも昇ろうとしていた。
「きれいだな」
「うん」
半田の琥珀色の目に反射して光量を増したきらきらのオレンジ色に向けた言葉だとは、たぶん思われていないだろう。寒くていつにも増して白くなった肌に頬の赤みが増していたその精巧な作りの顔を飾る朝焼けは彼のためにあるみたいで、綺麗だなと思った。
ロナルドは一瞬見惚れそうになりながら、気恥ずかしくなって初日の出に目を向けた。
かという半田はしっかりとロナルドの柔な銀髪がキャンバスのように吸い込む鮮やかな橙色の光を余すことなく見つめていたのだが、そんなことは知らなくていいのだ。
日が昇り切って元旦の朝が来る。青色の空に包まれて爽やかな冷たい風が吹いた。
「ひえ〜寒っ、半田!甘酒飲みにいこうぜ!お焚き上げのとこで配ってる」
「ん、うむ、」
付け忘れた手袋に今は感謝している。冷たい手と手を触れ合わせて、ぎゅっと握った。
二人で火にあたりながら飲んだ甘酒は濃厚で美味しくて、笑みが溢れた。