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    ぶらちん

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    ぶらちん

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    アマレンドラとマヘンドラが手合わせする話。
    バラーラデーヴァ国王と、国軍最高司令官のアマレンドラの平和アース。

    #バーフバリ
    baahubali

    手合わせ遠い。
    どれだけ登ってもたどり着けなかった滝の上よりも遥かに。圧倒的な存在は大きく、己の前に立ちはだかっていた。
    父は穏やかな人だ。物腰は柔らかく、無駄な争いも犠牲も好まない。
    母といる時なんて、父が気圧されてしまうほどだった。あの国軍最高司令官も、母が相手では敵わないのだ。それほどに、とにかく優しい父の背中をずっと見てきた。
    王族としての在り方、振る舞い、勉学、すべてにおいて完璧な見本となる人物が一番近くにいてくれた。
    なのに、どうしてこんなにも遠いんだ?

    ぎゅ、と柄を握り直すと、マヘンドラは前を見据えた。姿勢良く剣を構える父──アマレンドラがもう一度深く息を吸い込んだ。
    来る!
    地面を蹴った足が大きく踏み込む。ぐん、と鼻先が目の前まで来るほど近くなる距離にマヘンドラが怯んだ。向かって来るとわかっているのに、一切迷いのないその動きと威圧感が、マヘンドラの動きを鈍らせる。
    ぶつかり合う刃が金属音を広場に響かせて、マヘンドラは振りかざされる剣に受け身を取るので精一杯だった。何とかその動きに付いていけているだけで、押すには程遠い。
    力比べじゃ、父に劣るわけじゃない。互角か、それ以上の自信はあった。それなのに、全く歯が立たない。
    奥歯を噛み締めて、改めて気合を入れようという時、勝負はついた。

    「……ッ!」

    小さく息をつく間もなく、ぴたりと首に当たる刃に息が止まる。首が跳ねられるのは安易だった。横からあとほんの少し力が込められれば、あっという間にマヘンドラの首は宙を舞っただろう。

    「っはあー、駄目!ぜんっぜん駄目だ!」

    緊張の糸が一気に途切れて、その場にばったりと倒れ込んだ。弱気な言葉の裏に隠れた悔しさの滲んだ顔を見て、アマレンドラが手を差し伸べた。

    「少し休もう。休息も必要だ」

    すっかり父の顔に戻ったアマレンドラに引き上げられる。そうして聞こえてきたのは、ぐうう、と鳴いたアマレンドラの腹の虫だった。

    「まだ早いけど、休息は……お昼に変更する?」
    「ああ、そうしてくれると助かる」

    アマレンドラは恥ずかしそうに頬をかくと、マヘンドラの提案を受け入れた。





    「何をそこで捻くれてる」
    「……別に、あんたには関係ない」
    「全戦全敗、だったか。カッタッパから話には聞いてるぞ」
    「っう……」
    「あれだけやって、まだ一度も敵わんとは。バーフバリの名も大したことない」
    「煩い!」

    聞き捨てならなくて、マヘンドラが木から飛び降りた。相手が国王だろうが関係ない。
    俺のことはいい。だけど俺のせいで父上も馬鹿にされるようなことがあったら、誰であろうと許せなかった。

    「それ以上何か言ったら、」
    「剣を抜け」
    「…は?」

    噛みつく勢いで、その胸倉に掴みかかったというのに、その威勢は呆気なく挫かれた。
    思わず素っ頓狂な声が出てしまったじゃないか。

    「その腰にぶら下がってる剣を抜けと言った」

    何度も言わせるなと、苛ついた様子のバラーラデーヴァに、マヘンドラは渋々と言われるままに剣を抜くしかなかった。
    何を企んでる?

    「構えてみろ」
    「何だよ? 稽古なら父上につけてもらうからいい」
    「そうか。このまま負け続けたいと言うのなら、好きにしろ」

    納めかけた剣が止まった。

    「くそっ、偉そうに」

    だがバラーラデーヴァは、過去に父と対等にやり合っただけじゃない。いくつもの戦を戦い抜いてきた、紛れもない実力の持ち主だ。まだ二人がうんと若い頃の話を、カッタッパから耳にタコができるほど聞かされてきた。競い合い、高め合ってきた仲なのだと。
    悔しいが、これから何度やっても父には勝てそうになかった。それは事実だ。
    だけど気に食わない。
    よりによってこいつに教わるだなんて!
    ただ、本当はわかってる。長いこと父と手合わせし、戦術を肌で感じていたのがバラーラデーヴァなら、もしかしたら何かを得られるんじゃないかって。
    それでもやっぱり頼りたくなくて、意地が勝ってきたから、これは最終手段だった。

    「……わかった。ただし!次に父上と手合わせするまでの間だけだからな」

    マヘンドラは乱暴に言い放ち、バラーラデーヴァに向かって指をさす。無礼にも程がある振る舞いだが、この国でその態度が許されるのもマヘンドラくらいなものだ。



    バラーラデーヴァのつける稽古は、父とは対象的だった。何より剣を扱わせなかった。体術が主な割合を占め、身体の基本的な身のこなしや、力の受け流し方なんかを徹底的に教え込まれた。
    バラーラデーヴァ曰く、「お前は身体が固い」だそうだ。
    父も厳しい人だとは感じていたが、バラーラデーヴァはもっと容赦がなかった。
    ようやく剣を握れる頃になったと喜んだところで、バラーラデーヴァにはとても及ばなかった。
    これが己の実力。
    父に負けた以上に、大きな無力感に襲われていた。追いつこうともがいても、また一つ壁が立ち塞がったような感覚。
    一体どれだけの壁を乗り越えれば辿り着けるのだろう。

    「殺す気でやらなければ、到底勝てぬ」
    「そんなこと言ったって…!」
    「言い訳はよせ。相手が父ではなく、敵だったなら、お前はとうに死んでいるというのに」

    父に勝てなければ、死ぬ。
    それを聞いて、自分の甘さを痛感する。これは親子の"ごっこ遊び"なんかじゃない。
    覚悟が足りていないのだ。
    手合わせ、訓練、なんとでも呼べるが、すなわち負けは死を意味していることを、忘れかけていたが、ここではっきりわかった。
    父の息子であることが甘えとなっていることに。

    「立て、マヘンドラ」

    結局、バラーラデーヴァからは1本も取ることが出来なかった。
    力勝負に加え、身体の使い方、どれをとっても強い。それだけは違いない。歳を重ね国王となった今も、衰えを知らない肉体は過去の産物ではなかった。





    「一本勝負、それでいいな?」

    マヘンドラは頷き剣を構える。腰を下げ、息を長く吐き出した。
    集中しろ。
    神経を、研ぎ澄まして。
    まずはマヘンドラが一歩踏み込んだ。乾いた砂埃が舞い、アマレンドラが受け身に走る。
    マヘンドラの顔つきが違うことに、アマレンドラはすぐに気付いた。
    一撃一撃は重いのに動きは滑らかで、隙も少なくなった。以前までの、がむしゃらな攻撃は姿を消し、マヘンドラの力の強さはそのままに、身のこなしは軽くなったようだった。
    しかし、剣の振りがまだ大きい。
    甲高くぶつかり合う刃物と刃物。アマレンドラが強く力を込めると、マヘンドラは負けじと振りかぶり、さらに力を込めて剣を振るった。

    「あっ!」

    ぱき、と割れる音がして、マヘンドラの剣が真っ二つに折れてしまった。
    また力を入れすぎた。
    アマレンドラは上手にマヘンドラの自慢の力を引き出し、強すぎる腕力を逆手に取った。
    折れてしまった剣を見て、アマレンドラが一度、やり直しを図ろうと気を緩めた瞬間。マヘンドラはしゃがみ込んで脛を蹴った。足を取られ体勢を崩すと、マヘンドラは折れた剣を拾いあげ、アマレンドラに向かって投げつけた。

    「っ、!」

    顔のすぐ横を風が切り、髪がふわりと舞う。アマレンドラが躱さなければ、頬を斬りつけていただろう。そして避けることに意識を向ければ、その他は疎かになる。
    すばやく、低く身体を落とし、腹部へ肘鉄を喰らわそうとするのをアマレンドラは寸前で防ぎ、腕を捻り上げた。

    「つ、ぅ……っ!」

    マヘンドラは痛みに顔を顰める。けれどお陰で懐まで潜り込めた。
    隙を作り、近接に持ち込んで、力で押す。バラーラデーヴァが勝ち筋として残した戦術。
    力の強さなら、バラーラデーヴァにも引けを取らなかったのだから、父上にも勝てるかもしれない。
    あとは、なんとか抑え込めれば──
    すぐさまアマレンドラの構えた剣先が、マヘンドラへの横っ腹に向かう。
    ちぇっ、そう簡単には勝たせてくれないか。
    マヘンドラは、ぐんっ、と頭を後ろに逸らすと、アマレンドラの額に向かって頭を思い切りぶつけた。手加減はしていない。全力の頭突きだった。
    もろに頭突きをくらい、衝撃と痛みに、アマレンドラから呻き声が漏れた。頭を抑え、よろ、と後ずさるのを、すかさずマヘンドラは身体ごと突進させ、地面に突き倒す。
    最早手合わせ、というより組み手に近かったが、マヘンドラの猛攻は止まらない。
    のしかかり腕の動きを封じて、これで決めると決意を込めて拳を叩き込もうとするマヘンドラに、今度はアマレンドラが下から顎に向かって頭突きを繰り出した。

    「ぃっ、づ、ぅ!」

    マヘンドラの脳味噌がぐわんと揺れる。
    危うく舌を噛むところだった。
    途端、身体は押し除けられてしまい、アマレンドラは大きく踏み込むと、剣先をマヘンドラの心臓めがけて一直線に突き刺そうとした。
    刹那、こちらを覗くアマレンドラの瞳とかち合う。今まで見てきたどんな父の表情とも違う。
    その目付きと、殺気。
    マヘンドラは初めて、父からそれを肌で感じ取った。恐怖で足が竦むとは、こういうものなのか。震えた足は、全く動くことが出来なかったのだ。

    「そこまで! 剣を納めよ、バーフバリ」

    剣が下ろされても、まだ心臓の音が煩かった。
    未だに圧倒され続ける強さに、武者震いがするようだった。伸ばしても伸ばしても、届かない手だけれど、父の本気を引き出せたような気がした。それはつまり、今までよりずっと父に近付いている証拠でもあった。マヘンドラは、さらに強く拳を握りしめる。
    その目はまだ、決して闘志を失ってはいなかった。





    「あんな顔、暫くぶりに見た。本気だっただろう」
    「つい楽しくなってしまって」
    「強がるなよバーフ」
    「あはは。ああ…、大きくなったものだ」

    アマレンドラは笑う。
    その横顔は嬉しそうで、たとえ負けたとしても、同じように笑っただろう。
    父とはそういうものだ。

    「それにしてもあの動き、バラーにそっくりだ。いつから隠れて稽古を?」
    「数日前、あいつが不貞腐れてるのを見掛けてからだ」
    「負けず嫌いは母譲りだなぁ」
    「何呑気なことを」
    「ああ!そうだぞバラー。今に私もお前も……背だけじゃない。あの子に抜かされる日が来るのだろうな」

    我が子の成長を感じて、待ち遠しいと目を輝かせる。これからが楽しみで仕方ないと言うように、アマレンドラは声を弾ませ続けていた。
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