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    ぶらちん

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    ぶらちん

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    死んだ兄と、残された弟

    #ランガスタラム

    大役 神さまは残酷だ。
     家族のため、誰かのため、村のためにと奮起する人こそを、真っ先にこの世から連れて行ってしまう。善行を成そうとする立派な人々はみんなそうだった。まだまだ現世でやることがあるにもかかわらず、悪どい連中から命を刈り取られる瞬間を神さまはただ見ているのだ。
     あなたが創った世界の、ほんの小さなひと握りのなかで、もがき苦しみ、それでもより良くしようと立ち上がった人々が、この世を去ることを引き留めてはくれない。
     まだこの世で生きなさいと示してはくれなかった。



     兄貴が残してくれた村は、少しずつだが新たな道を歩んでいる。痛みや苦しみを乗り越え希望となって、この村をいい方向へと導いてくれている。高利貸しによる理不尽な取り立てはなくなり、自殺者はうんと減った。村の家族が泣いて苦しむこともない。俺は兄貴がくれた補聴器によって耳が聞こえるようになり、妹は学校へ行けるようになった。学校で妹は、兄のようにたくさんのことを学んで、そしてまた村により良い風を起こしてくれるのだろう。そんな人々がきっとまたこの村を変えていくんだ。

     不可能だと思っていた変革は、兄貴が起こした風によって村全体を奮い立たせてくれた。先陣を切って歩く兄貴が誇らしくて仕方なかった。俺には政治がどうだとか、村をどうこうする力なんてなかったから、大きく動き出した波の中心に立ちながらも、泳ぎ方も知らないままでいた。ただ兄貴のそばで、できることをやろうとしたんだ。
     難しいことは俺にはわからない。村を導くことは、俺にはできない。
     その役目は兄貴の役目だ。
     あれが俺の兄貴なんだと胸を張って言えるのは素晴らしいことだった。兄貴は人のために動ける男で、それが家族でなくても見過ごさない。もちろん俺だって殴られっぱなしでいるわけじゃない。この手でやり返してやることはできる。だけど兄貴は俺と違って頭がいいから、根本的な、解決すべきことをよくわかってた。どうすればいいのか、兄貴は泳ぎ方を知っていたんだ。
     俺はそれを隣で見ていた。
     兄貴が恋人との約束を曲げてまで、村のために何を成そうとしていたのか。聞こえない耳でも見てればわかる。変わり始めようとする村をこの目で見てきた。
     兄貴はこんなにもたくさんの人の意識を変えた。そのきっかけを与えてくれたし、俺にこれがどれだけ必要なことなのかも教えてくれた。だから保身のために金を受け取った時、兄貴のためにしたことでも家族は怒った。村のために戦おうとしていた最中だったから、きっとこれは俺が間違っていたんだよな。
     恐れずに立ち上がってくれた兄貴がいなければ──亡き人々がいなければ、きっと村はこうはならなかった。ずっとあのまま人々は声を上げなかったかもしれない。尊厳を守るためには、誰かが先陣を切らなければならなかった。
     その誰かは、どうして兄貴だったのだろう。どうして兄貴を選んだのだろう。その答えは頭のいい兄貴だって教えちゃくれなかった。

     俺は多くのことを望んじゃいなかった。これっぽっちもだ。贅沢な暮らしを望んだこともなければ、今の生活を嘆いたこともなかった。学がなくて難聴でも、村の外の世界をまともに知らなくても、笑って暮らせる家族が俺にはあったから、それでいいとすら思ってた。
     だけど兄貴は、俺とは違う。
     兄貴には俺以上に、この村のためにできる力を持っていた。知恵持ち、その力を誰かのために正しく振るえることができてしまうから、見過ごすわけにいかなかったんだ。それがどんなに凄いことか。
     必要なことだと兄貴は説いた。誰かが動き出さなきゃならない。そんなこと、痛いほどよくわかっている。だから俺だって、兄貴の隣で立ち上がった。兄貴のためになりたかった。
     善行を成すのに許可はいらない。誰だっていいことをしたいと思うものだろう。当然だ。でもそれは命があってこその話だ。
     命に代えてまでも、村に変革を生み出す大役。
     兄貴は、チッティ・バーブの兄でいてくれればそれでよかった。誇らしくても、頼もしくても、行かないでほしかったんだ。誰かのために、大役を果たせてしまうとしても。それ以上のことなんか、何も望んじゃいなかったのに。


    「兄貴のことが、誇らしいよ」

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