朝 もしかして今日寒いんじゃない?
掛け布団から出ていた鼻と耳がやけに冷たくて身震いした。傍らの体温があたたかいから余計に寒く感じる。つい何日か前までまだ夏だと主張するように暑さがしつこく残っていて、ちょっと夜に運動したら汗ばんでいたのに気づいたらこれだ。いつの間にか湿度が減って冷たい空気が容赦なく体温を奪っていく。堪らなくてジュウォンを抱き寄せるとすべすべの肌が気持ちよくてあたたかい。彼も寒かったのか身体を寄せてきた。目はまだ閉じているのにしっかり手を伸ばして俺を捕まえるんだからかわいいったらない。
風邪をひいちゃいけないからね、なんて誰に言い訳をしているのかわからないまま抱きしめる。あーあったかい。少し冷たい朝に二人きり。自分のものじゃない体温が染み渡る。俺はこの人が自分の元にあることがたまに夢なんじゃないかと思う時があった。美しくてまっすぐな青年が自分みたいな人間を好きでいてくれることが信じられないような心地。そして信じられないくらい幸福だとも思う。すべてを壊して俺を救いに来た俺の救世主。さすがに言ったことないけど。
本当に風邪をひかせたくないなら起こして服を着せるべきだし、そろそろ起きる時間なのだけれど、この二人きりの朝がもう少しだけ続いてほしい。かわいい恋人の寝顔を見る幸せをもう少し許してほしい。
しばらくそうしていたらやがてジュウォンが起きてしまった。飽きることなく見ていたから彼の彫刻のような顔が動いて、まつげが震えて、瞼をあげるのをとっくりと眺めていられた。
ぼやっとした目が俺をとらえてほのかに緩む。そして「……さむい」と言ってちょっと布団の下にもぐって俺の胸にすり寄った。かわいくてびっくりした。え、なに、朝から俺を仕留めようとかそういうやつなんですかハン・ジュウォンさん。髪の毛が当たってくすぐったいけどそんなのは些細な事だ。
「ジュウォナ、起きないの?」
「だってさむい」
そうだよね寒いよね。もう秋だもの。俺は掛け布団を引き上げて自分も布団にもぐり、ジュウォンのつやのある黒髪にキスをする。それに気づいた彼が顔を少し上げたので唇にも。
「……これはおはようのキスですか」
「いいえ、もう少しここにいましょうのキスです」
俺の言葉に賛成です、とジュウォンが言ってもう一度触れるだけのキスをした。
今日は寒いから、もう少しこのまま体温を分け合って、お腹がすいたら布団から出ることにしよう。二人きりの朝だもの、何をしたっていい。