ここは、冷たい宇宙の真っ只中。ただ記号で呼ばれるだけの座標点の一つでしかない、どこでも無い場所。
あの日、プラズマスパークに伸ばしたオレの手は、その禁忌に触れるまでもなく軽く叩き落とされた。栄光の、ウルトラ兄弟の三番目に。あの強大な力に挑戦することさえ叶わなかったのだ。
罪に問われたオレは、テクターギアとかいう巫山戯た枷を取り付けられた姿で宇宙に放り出され、課された罰は、国外永久追放。思うように体が動かせない上、ディファレーター光線も満足に浴びられない状態となると、どこかの恒星に身を寄せながら、ひっそりと過ごすしかない。
放り出された宇宙はどこでもないし、なにもない。孤独なところだ。けれど、孤独なのは光の国にいた時と何も変わらない。
何が栄光の兄弟だ。光の戦士だ。ウルトラマン、だ。オレが孤独からもがき抜け出そうとする、そのチャンスさえ奪ったくせに。
この広い宇宙で独り生き残るために、手頃な恒星を探さなければならない。しかしそんな気は到底起きなかった。
この、どこでも無い宇宙で。誰にも知られることなく。このまま——。
「ゼロ師匠ー!」
アンドロメダの方角から、声がした。
他の誰でも無い、オレを、呼ぶ声が。
「やや?何やら厳つい鎧を身に纏っておられますが、ゼロ師匠、でございますよね?」
「……好きでこんなもん付けてる訳じゃねぇ」
その声の主は変わった目をしており——いや、言葉遣いも変だ。
「つーかオマエ誰だよ?オレは師匠じゃ、」
「おれはゼットです!どうぞ、ご唱和ください!」
「いやしねえけど。」
今更なのに食い気味に答えられた上、ご唱和ってなんだ、ここにはオレとオマエしかいないんだが。やっぱコイツ変だ。
「で、何しに来たんだ?オマエは散々オレのこと師匠と呼ぶが、オレはオマエみたいなヤツなんざ知らねえぞ、ひと違いだろ?」
オレには知人どころか、親族もいないのだから。
こちらが突き放すように言っても、相手は元気良く返事をする。
「はい!おれ、ゼットは、ウルトラマンゼットは、ゼロ師匠、ウルトラマンゼロに弟子にしてもらいたくて、やって来ました!相手を間違うなんてことありません!」
なんだと?
「いやー、師匠が追放されて、あんまり遠く離れて行ってなくて良かったです!そんなに探さずに済みました!」
「そんなことはどうでも良い。」
それよりも。
「オレは、もう……ウルトラマンじゃねえ」
赤い手に強い力で叩き落とされた。その時に言われた言葉にも、痛みを感じた。手と言葉、どちらに痛みを感じたのか、分からない程。
だったらどうしろってんだ。ウルトラマンとして認められることは諦めろってか?ウルトラマンでは無い者としてなら、認めてもらえるのか?光では無く、闇としてなら……?
「そうなんでございますか?」
呑気な光が首を傾げる。
「なら、ウルトラマンゼロ師匠じゃなくて、ただのゼロ師匠……?でも、どっちにしても、ゼロ師匠はゼロ師匠ですよね!」
「は?」
ウルトラマンでも無い、なんでも無いオレのことを、コイツは認めると言うのか?どこでも無いこの場所で。
「なんで、」
「はい?」
「なんでオレ、なんだ?」
弟子入りなんて。
「もっと、ウルトラ兄弟とか、色々居んだろ」
そこで、呑気な光はまた首を倒した。
「いや〜、あのウルトラ兄弟の御方々だと、流石に身の程知らずと言うか。」
「……は?」
「いやだってホラ、栄光のウルトラ兄弟ですよ?近寄りがたいと言うか、そもそも恐縮ですし、地位が地位ですから、恐れ多いと言うか、遠慮の気持ちが湧くと言うか、」
「はぁ?」
「それに比べて、ゼロ師匠なら、栄光どころか追放されちゃってますし!」
思わず拳を握った。何が、えいこーとついほーってちょっと響き似てますね!だ?
「……オマエ、それ、オレにケンカ売ってんだよな?」
「ええっ!?そんな!?メッソーも無い!?」
「オレにメチャクチャ失礼だってこと、分かってねえのか?」
「そ!?そそそんなつもりは!?」
コイツ、変なヤツ、変なヤツだとは思っていたが。
「アホなのか?」
「ウルトラショック!」
「ぜってー弟子になんかしねー」
「ギロチンショック!」
ギロチン……?
「もう良いよ。オマエ、どっか行けば?」
しっしっと手を払って遠ざける仕草を見せると、ソイツは余計にショックを受けたようだった。自業自得だと思う。
「そんな〜っ!一緒に行きましょうよ師匠ぉ〜っ!」
「ルッセエ師匠じゃねえ。つーか、行くって、どこに。」
「え?だって光の国を追放されたんでしょう?早くディファレーター光線を浴びれるところに行かないと。」
コイツ、オレの追放に付き合うつもりなのか。それを聞いて、態度はともかく、コイツが本気で弟子に成ろうという気が有ることが分かった。
さっきまで恒星を探す気力も無かったが、それにコイツを巻き込むことも無いと思い、早く早くと急かす相手に、大人しく続くことにした。
「こっち!こっちです師匠ぉ〜!」
「るっせ。だから師匠じゃねえって!つーか、なんでそっちに向かってるんだ?あっちの星の方が近いんじゃないのか?」
迷い無く真っ直ぐ進む、オレより淡い青、それから銀と赤、黒?自分も大概じろじろ見られる色だが、目の前の背中はその上を行くようだった。そこへ問い掛ける。
「あ、いえ。あの星はもう、滅んでしまっているので。それに、こっちの星の光の方が、あったかくて気持ちが良いですよ!」
「あ?オマエ、行ったことあんのか?」
「いいえ?」