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    shmw_1818

    @shmw_1818

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    shmw_1818

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    前作セーマンの話の続き。デカラビアの言動に振り回される幼なじみの話。

    さよならセーマン 前編 セーマンは俺の幼馴染だ。親友だ。先日、恋愛相談をしたら俺の好きなエマちゃんがクラスのイケメン、シヌーンと付き合っていることが判明し急転直下の失恋に打ちのめされたかと思ったのも束の間、何故かセーマンにブッチュとキッスされ、しかも続きを試させろと求められている。どうしてこうなったんだ。一日で起きていい情報量ではない。

    「で、返事はまだか?」
     しれっと真っ昼間の休憩中の教室でそんなことを言ってくるのがセーマンだ。せめて声を顰めて欲しい。
    「しーっ教室で聞くな馬鹿……おま、本当そういうとこだぞ?」
    「ふむ、何か問題だったか?では帰りに今一度問うとしよう、それまでに答えを出しておけ。流石に待ちくたびれたぞ」
     あれから一週間経っていた。先延ばししておけば、いずれ興味を失って諦めてくれるかと一縷の望みを託していたのだが無駄だったようだ。返事をしなければいけない。しかし困った。俺は別に男が好きなわけではない、エマちゃんへみたいな普通に可愛い胸の大きい女子が好きだ。いや、好きだった。セーマンは確かに綺麗な顔はしているが、同性だしそれより何より友達とそういう関係性になるつもりはない。気を抜くとずっとあの日の事を反芻して何とも言えない妙な気分になってしまってはいるけれど、それはそれ、これはこれだ。
    「今日、俺、倉庫の掃除当番だから遅くなるぞ?明日じゃダメなのか」
     苦し紛れの言い訳を言ってみるが、ケロッとした顔でセーマンは答える。
    「構わんぞ、課題でもして待っている」
    「真面目だな……」

     掃除どころではない。放課後、急いで倉庫に向かうと箒でざっくりと塵を集めて綺麗にした雰囲気だけ出した。元々雑多に物が置かれた場所だしバレはしないだろう。明日の掃除当番には悪いが、俺は部屋の隅に放置された木箱に座り込んで考えを巡らせた。たとえば、断った時の反応。伊達に長年幼馴染をやっていない、セーマンは突拍子もない性格だけれど俺ならば多少の推測はできるはずだ。まず、同性だから興味が無いしそういう気が起きない……という理由で断ろうとしても多分無駄だ。この前急に迫られた時にうっかりドキドキしてしまったのは見透かされていたし、あそこでピシャッと跳ね退けていなかったのは失敗だった。友達、という理由もどうだろうか。友達だから出来ない、という理由は普通のヴィータなら問題なく通用するだろうがあのセーマンだ。どうして友達だと出来ないのかその違いは何なのか追求してくるに違いない、そしてそれを上手く説明できる気がしない。俺はあいつほど賢くないのだ。
    「だって友達だから、友達とはしない。そういうもんだから」
     練習のつもりで軽く口にしてみたが、頼りげのない説得力の欠片もない声が倉庫に響いただけだった。却下だ却下。あるいは嘘も方便で別の女子を好きになったからそういう気が起きない、とかだろうか?俺が変わり身の速すぎるヤバい男になってしまうが、それなら辛うじてわかってくれる可能性もある。そこまで考えたあたりでまた別の疑問が首をもたげる。断ったら、もし断ることが出来たらあいつはどうするのか。あいつは別に俺と付き合いたいわけじゃない、単にヴィータの色恋沙汰の仕組みやらそれに伴う行為を知りたくなっただけなのだ。そして丁度近くにいたのが俺だった。つくづく異常な考えだとは思うが本当にそうなのがわかってしまう。そんな状態で俺が嫌だと言ったら恐らく、別の相手を、クラスの子かは分からないが適当な相手を探すだろう。少し考えがまとまってきた、まず第一に好きでもない相手とそんな事したらヴィータとしてダメだと教えないといけないだろう。
    「遅すぎるぞ」
    「うわあああ⁈」
     倉庫の入り口にセーマンが立っていた。すっかり帰り支度を済ませている。
    「セーマンおまえ、課題は?」
    「あんなもの数分あれば終わる。それに半刻は待ってやった。お前こそぼんやりと何を座り込んでいるんだ」
    「いや、え、そんなに経ってたか?」
    「答えは出たか」
    「……おまえ、その、あの、もし俺が断ったら別の相手探したりするか?」
     セーマンはクスクスと笑いながら首を傾げた。これはやらかす顔だ。
    「さて……どうかな」
    「おま、やる気満々だろそれ、ダメだって。えーとまずな、そこを教えるよ。こないだは急すぎてビックリしたしその後にお前を避けて、有耶無耶にしたのは悪かったよ。気まずかったんだよ。ごめん。話しあおう、な?」
    「ほお、いいだろう。時には愚者の講釈に耳を傾けるのも悪くない」

     流石に倉庫は学校の誰が来るかもわからないので、ひとまず帰路についた。人通りのまばらになってきた町の広場のベンチに腰掛ける。正念場だ、何とかこいつを説得してみせる。
    「えーっと……何から説明するんだったっけ、その、結論からいうと別の相手は探しちゃダメだ」
     ちらと横を見る。セーマンは予想に反して大人しく座ってこちらをじっと見ていた。続きを話せという事らしい。
    「何故かというと、その、お前が知りたい事は端的にいうと、好きじゃない相手とはしちゃダメなんだよこれはヴィータの社会通念的な意味で。そこまでは前、話しただろ?ついでにいうと場所も選ぶ、往来で堂々とそういうことやってる奴は滅多に居ねえだろ。二人きりの時に、邪魔の入らない場所でする」
    「ふむ」
    「それに社会通念がどうこうよりも、俺はお前が……恋愛感情も無しに適当な相手とそんな事するの嫌なんだよ、凄く」
    「クックック、嫌の意味がわからん。もっと詳しく説明しろ」
    「な、その、お前は俺の友達で、だから悪いことするのは見過ごせないって言ってんだよ」
    「俺が何をしようとお前に何の影響があるというのだ?悪い、というのもよくわからん」
     やはり説得には骨が折れそうだ。でも話は聞いてくれるからまだ可能性はありそうだ。
    「好きな相手とするのが普通だから、勘違いされちまうんだよ。それって相手が可哀想だろ、騙してるのと一緒だぜ。だから悪いことだ」
    「勘違いされなければ良い話ではないか?現にお前は大丈夫のようだが?」
    「そりゃ俺はセーマンと付き合い長いから、お前が本気じゃねえってわかっちまうんだよ」
    「お前以外でも平気そうな者がいるぞ」
    「はあっ⁈一体誰だよっ」
     とんでもないセリフに比喩ではなくベンチから飛び上がる。人付き合いの少ないセーマンに限ってそんな相手がいるわけがない。
    「まあ聞け。お前がここ数日あからさまに俺を避けるからな、色々順序を違えたのだろうと思ってそれなりに反省はしたのだ。そこで俺なりに研究と考察をしてみることにした。書物で学ぶのが手っ取り早いと思った」
    「えっ、ちょっとまさかそれ買いに本屋に行ったんじゃないだろうな?」
    「俺のナリでは売っては貰えんだろうが」
    「た、確かに」
     中等部に上がって多少伸びたとは言え、セーマンは背がそれほど高くない。それ以前に幼さがはっきり残る顔立ちでは店のババアに間違いなく止められる。俺ですらギリギリ止められるだろう。シヌーンなら大人っぽいし、しれっと買えるだろうか。
    「そこで父親の本棚にあったのを拝借して読むことにした。ご丁寧に背表紙を逆にして題名を隠して奥にしまってあったからな、確かにヴィータはそういったものを隠したがるのだな」
    「おじさん可哀想すぎるだろ」
    「ん?まあ父親にバレてはいないぞ、薬や毒の本と違い比喩や婉曲がやたらと多く読みづらくはあったがある程度は理解出来た。学びは多かった。その中に色を売る職業のヴィータが出てきたのだ」
    「おいおい、雲行きが怪しいぞ」
    「今まで気にも留めていなかったが、この街にも宿場や酒場にそういった格好のヴィータがいたことを思い出した。道ゆく行商人やら旅人に執拗に声をかけていたのはその為だったのかと合点がいったわけだ」
    「ダメだあああああ」
    「ん?」
    「ダメ!どうしてお前そう極端から極端に走るんだよ、知ってたけど酷いな」
    「何が酷いというのだ。そやつらは金銭をやり取りし、互いに恋愛感情なしで生殖行為を行うと本に書いてあったぞ、どうやら金を払う価値のある行為らしい」
    「ああ、もうお前、ほんと頭いいのに馬鹿だよ」
     頭のネジが数本飛んでいるとしか思えない。いや、そもそもの構造自体が違うのかもしれない、ヴィータじゃないと言うだけある。しかしこのままだと友人がおかしな方向に突き進んでしまう。
    「そういう職業のヴィータと関わるな、えっと、危ないから」
    「何が危険だ?」
    「あーえーっと……びょ、そう、病気になるかも!」
     そうとも限らないが、それぐらい派手に脅しておかないと学校帰りにパンを買う位のノリでふらりと立ち寄りかねない。
    「ふむ、そこまではあの本に書いていなかったな。感謝してやろう。では行商人か旅人にするか。流れ者相手ならば町で噂も立つまい、我ながらいい考えだ」
    「なんでそっち行くんだ!ダメだ知らない人は、酷い目に遭うぞマジで」 
    「ん?なぜそう決めつける。……俺の姿かたちは加虐心を掻き立てられるか?」
    「あっ、うん、いや違う、そういう事じゃねえよ、ああもう上手く説明が!」
     次から次へとぶっ飛んだ考えを語る様に自分の説得が追いつきそうもない。論点がどんどんずれていく。何でもありかよこいつは、どうやって止めたらいいんだろう。
    「ふむ、つまりお前ならば酷い目には遭わせないと……そう言っているのだな」
    「え?」
     斬新すぎる解釈に斜め上から殴られた気分だった。セーマンは深く長いため息をつきながら、肩を竦めて微笑みかけてくる。
    「全く、お前の講釈は回りくどすぎて理解に手間取った。もう少し端的に答えられんのか阿呆」
    「セーマン、違う違う、勘違いしてる。俺が相手するとかそういったつもりじゃ」
    「では一体どういうつもりだ、普通のヴィータはダメだ、商売のヴィータはダメだ、流れ者相手ですらダメだと言って」
    「……あ」
    「どうしてそこまで俺に執着するのだ。ん?」
     セーマンは軽く口を尖らせて明らかに不満げな顔でこちらを見つめていた。そこで気づく。自分でもうっかりしていた。ヤバそうな出口をとにかく塞ぐだけ塞いで、導いて、セーマンを必死に守ろうとした結果がこれだ。これでは俺以外と付き合うなと言っているようなものではないか。
    「セーマンごめん、でも俺お前とは友達で……友達のままでいたいんだって」
    「そこがわからんな、たかが行為ひとつではないか。それで何故、友人関係がなくなる話に繋がるというのだ?」
    「馬ッ鹿かお前、そりゃ繋がるだろ!だって俺多分、そういうことしたらお前のこと本気で好きになっちまうもん」
     
     思わず口元を抑えた。ぽろりと零れ出てしまった言葉に自分で驚く。おそらく、本音だ。一気に顔に血が昇る。
    「ほお?」
     セーマンがすかさず顔を覗き込んできた。揶揄うような、満足そうな笑顔を浮かべて。
    「!いや、今のなし!」
    「それならそれで良いではないか、俺は一向に構わんぞ。何を躊躇っているのだお前は」
     長いまつ毛をパチパチと瞬かせて、更に顔を近づけてくる。形のよい薄い唇が動くのを見ていると一週間前の出来事が否が応でも蘇って、心臓がバクバクとうるさい程に音を立てていく。
    「だ、ダメだ。だってお前は別に俺のこと好きじゃねえだろっ!そういうのは嫌だし」
    「気付いているか?お前は今実に矛盾した事を言っている」
    「えっ?」
    「行為に及べばお前は俺を更に好くらしいな?その理屈ならば逆も考えられるだろうが」
    「はあ?何だよ、まさかお前が俺を好きになるって事か?な、ありえないだろそんなのっ」
    「クックック……これは酷い言い草だな、可能性の話をしているのだ。わからんぞ?俺もヴィータだからな、お前に夢中になるかも知れん」
    「こんな時はヴィータ面するのかよ、お前は…むぐっ」
     また急にキスされるのかと思ったら口に人差し指を突っ込まれた。意味がわからない。
    「……」
     そのまま指が差し込まれくるりと上顎をなぞられる。くすぐったいような、心地良いような妙な感覚がして反射的に歯を立ててしまった。セーマンが一瞬顔を顰める。
    「つッ」
    「ング、あ、ごめ、む」
     何故俺が謝るんだろう。意味のわからない事をしているのはセーマンの方なのに。
    「構わん」
     そう言って俺の口からスイと指を引き抜く。涎でベトベトの指をどうするのかと思ってただ見つめていると、セーマンはそうするのが当たり前のような顔で自分の口元にそれを運んだ。
    「え?セーマン?」
     指を丹念にゆっくりと舐めている。何してるのか意味がわからないけれど、俺は物凄く恥ずかしい。それにセーマンのその姿が変に色気があって、またこないだのような妙な気分になりかける。これはまずい。手首を引っ掴んで止めにかかる。
    「馬鹿、お前何してんだよ」
    「味を確認している、ふむ……本の描写の味とはまた違うな」
    「はあああっ?マジで何してんだよ恥ずかしい」
    「いきなり接吻をするなとお前は先日えらく怒ったからな、配慮してやったのだ」
     しれっとそんなことを言いながら赤い舌がちろりと動く。いきなり接吻よりタチが悪い。
    「なに勝手に続きをおっ始めようとしてんだよ」
    「何か問題があるか?要は俺がお前を更に好くのが望みなのだろう?」
    「それ、は」
     言葉に詰まる。的確に否定する為の言葉がすぐに見つからない。こんなはずじゃなかった。言いくるめられているのはわかるのに、セーマンの言葉が正しいとすら思えてくる。いつもこうだ。セーマンは頭が良くて、頭がおかしくて、鈍感かと思えば肝心の所は鋭くて、そうやって普通の常識の枠外から人の脳をグラグラと遠慮も無しに揺らしてくる。

    「ああ、言っておくが、お前は俺の出会ったヴィータの中でも善良で上等な部類だ。嫌いじゃないぞ?まあお前の望みはそれ以上のようだが……そうなるよう努力はしてやろう」
    「セーマン、俺今日アホなこと言い過ぎた、全部忘れてくれないか」
    「お前が阿呆なのは今に始まったことではない、しかし愚者は愚者なりに矜持があるものだな、お前の葛藤する様を見るのはなかなか楽しかったぞ」
    「俺はお前を説得するつもりだったんだって」
    「考え自体は十二分に伝わったぞ、安心するがいい。案外お前は俺を好いているのだな。しかし続きはまたにするとしよう。これ以上遅くなると両親が喚くのでな」
    「や、待ってくれ、マジでこれ以上はするつもりな…」
    「週末ならば授業もない、次の日曜あたりがちょうど良いだろう」
    「日程までサクッと決めるなお前!付き合わねえよ⁈」
    「ふむ、そうか。お前が付き合わないならば別のヴィータを……」
    「セーマン、それはもはや脅しだろ⁈さっき俺が言った事忘れたのか⁈」
    「クックック……忘れろだの忘れるなだのと忙しないな。家まで迎えに行ってやろう。安心するがいい。お前が出てこなければ諦めて他を漁るとしよう」
     それだけ言い放つとセーマンは背を向けてさっさと帰ってしまった。毒気に当てられた俺はしばらく呆然と広場のベンチに座っていた。


     セーマンはやはり変なやつだ。
     そしてそれを長いことずっと見守ってきたつもりの俺も相当変になっているのかもしれない。

     でもまだ俺は正気だ。あいつがただの興味本位でそうしているのはわかるし、他のヴィータを無闇に巻き込むのだけは避けなきゃいけない。だから仕方ない、仕方ないから付き合うのだ。これすらも言い訳なのか。心のどこかで週末を、あの続きを期待している自分がいる。自分が怖い。あり得ないとは思っても、セーマンの心がこちらにぐらりと傾くその瞬間が見たい。

     最悪の気分のまま、あっという間に週末だ。
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    shmw_1818

    DONE前作セーマンの話の続き。デカラビアの言動に振り回される幼なじみの話。
    さよならセーマン 前編 セーマンは俺の幼馴染だ。親友だ。先日、恋愛相談をしたら俺の好きなエマちゃんがクラスのイケメン、シヌーンと付き合っていることが判明し急転直下の失恋に打ちのめされたかと思ったのも束の間、何故かセーマンにブッチュとキッスされ、しかも続きを試させろと求められている。どうしてこうなったんだ。一日で起きていい情報量ではない。

    「で、返事はまだか?」
     しれっと真っ昼間の休憩中の教室でそんなことを言ってくるのがセーマンだ。せめて声を顰めて欲しい。
    「しーっ教室で聞くな馬鹿……おま、本当そういうとこだぞ?」
    「ふむ、何か問題だったか?では帰りに今一度問うとしよう、それまでに答えを出しておけ。流石に待ちくたびれたぞ」
     あれから一週間経っていた。先延ばししておけば、いずれ興味を失って諦めてくれるかと一縷の望みを託していたのだが無駄だったようだ。返事をしなければいけない。しかし困った。俺は別に男が好きなわけではない、エマちゃんへみたいな普通に可愛い胸の大きい女子が好きだ。いや、好きだった。セーマンは確かに綺麗な顔はしているが、同性だしそれより何より友達とそういう関係性になるつもりはない。気を抜くとずっとあの日の事を反芻して何とも言えない妙な気分になってしまってはいるけれど、それはそれ、これはこれだ。
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