ファミユ・エト・グリモワール【4】モリスを召喚して契約を結んでから数日後。
律は仕事から帰ってきたとき、家に人……といっても悪魔だが、他人がいることに慣れずにいた。
約10年もの間、それこそ本来の長嶺律の人格形成が完了するはずだったあたりから人生が狂い、一人で生活をしてきたせいでそう簡単に慣れやしないのだ。
夜中の帰宅であれば、部屋の電気がついているか否かで人の存在を知ることができるのだろうが、あいにく律は夜勤のため帰宅は比較的明るい早朝である。
ぐったり疲れて一刻も早く寝たい状態で廊下を歩いていると自分の部屋の辺りから朝食の良い匂いがしてくる。
その匂いが自分の部屋から漂ってくることは確かなはずなのに、まるで他人事のようにフラフラと歩いて自室のドアを開けたときにモリスが見えてようやく「ああ、そうだった」と現実を認識していた。
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