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    jukaino_hito

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    ##ファミユ・エト・グリモワール

    ファミユ・エト・グリモワール【4】モリスを召喚して契約を結んでから数日後。
    律は仕事から帰ってきたとき、家に人……といっても悪魔だが、他人がいることに慣れずにいた。
    約10年もの間、それこそ本来の長嶺律の人格形成が完了するはずだったあたりから人生が狂い、一人で生活をしてきたせいでそう簡単に慣れやしないのだ。
    夜中の帰宅であれば、部屋の電気がついているか否かで人の存在を知ることができるのだろうが、あいにく律は夜勤のため帰宅は比較的明るい早朝である。
    ぐったり疲れて一刻も早く寝たい状態で廊下を歩いていると自分の部屋の辺りから朝食の良い匂いがしてくる。
    その匂いが自分の部屋から漂ってくることは確かなはずなのに、まるで他人事のようにフラフラと歩いて自室のドアを開けたときにモリスが見えてようやく「ああ、そうだった」と現実を認識していた。
    「お!おかえり♡……って今日はまた一段と疲れた顔してるな」
    「……ただいま。持ち場に日中の従業員のミスがあっていろいろ忙しかったんだ」
    「ふぅん、まあお疲れ。飯、できてるから食ったらすぐ寝なよ」
    「助かる」
    律の17cm上から降ってくるおかえりのキスには慣れたもので、なぜか朝起きてから出かけるまでと、帰宅後のキスと飯、風呂、就寝という部屋に入ってからのルーティンと化していることに関しては不思議と受け入れることができていた。頭が追い付いていないのは帰路から自宅のドアを開けてモリスを確認するまでの間だけなのだ。
    律は低すぎるローテーブルをひっぱり出して座り、何を言わずとも並べられていく出来立ての朝食を口に運ぶ。
    「あ、待った。トーストそのままでいい?バターとかジャムとかいらないの?」
    「いらない。焼いてあるだけで充分うまい」
    「うまいのハードルが低いんだよ。今までの食生活が目に浮かぶわ」
    モリスはいつも通り、律の向かい側に腰を下ろした。

    律の退魔師の収入にはムラがあるため、一つ大きな仕事が入れば数百万円は稼げるが、そんな大きな仕事というのはしょっちゅう入るものではない。
    退魔師の収入の大半は相談料や、悪魔ではなく気のせいが原因の依頼人に魔除けや悪魔祓いを気休めとして施すことで小銭を稼いでいる。依頼人を騙しているようで悪どい商売かもしれないが、テレビ局の集金よりはマシだと思うことにしている。
    そんなわけで、今までは100万や200万稼いでもモリスの資料集めに消え、残りで生きていくにはできるだけ生活費を切り詰めなければならなかった。税金、保険料、光熱費、水道代、携帯料金、たまに医療費、食費にエトセトラ……なにかと現代人は払う金が多すぎる。

    そもそも律は朝ごはんはパン派かご飯派かと聞かれても「朝は食べない」の一言で済んでしまうタイプの食の細い人間だった。
    カリカリに焼かれたトーストを頬張りながら、生活費が困窮した時にパンの耳をもらっていたパン屋を思い出す。
    目つきも愛想も悪い自分に親切にしてくれた奇特な人だった。
    「お前、このパンどこで買った?」
    「え、そこのスーパー。6枚切り」
    「もう少し行ったところにパン屋があるんだ。昔世話になったから、今度からそこで買ってくれ。明日は休みだから一眠りしたら案内する」
    「へえ、意外に食こだわりあるんじゃん。でも明日にしない?アンタ疲れてるでしょ。パンはまだあるし」
    確かに朝食を食べながら寝そうな勢いで眠い。
    パン屋に行くだけなら今日はゆっくりして明日の朝行くのがいい。
    まだ朝食は食べかけなのに、お腹が満たされてきたからかぬるま湯に浸っているような心地よい眠気が襲いかかってくる。
    しかし、モリスはそんな律の状態を知ってか知らずか、いや絶対に理解した上でまだ寝かせる気がないようだった。
    「ところでさあ、俺が好きかどうか確かめるのはどうなったわけ?キスなんて結構な回数したでしょ?」
    モリスは、結論を聞くのをずっと後回しにしていた話題をとうとう振った。
    正確には何度か聞こうとしたがその度にセリィによる突然の来訪や、来客、郵便、電話などさまざまな邪魔が入ったから聞けていなかったのだ。
    聞こうとすると毎回絶妙なタイミングでやって来る人間たちに関しては、おそらくセリィの差し向けたささやかな妨害工作なんだろうけれど。
    「ああ……嫌いではない、と思う……」
    「煮え切らねえな〜好きじゃねえの?ダンナ様はこんな献身的な妻を愛してくださらないわけ????」
    「あ、愛し…………ま、まだわからない!!アンタとのキスは好きだし、アンタとの生活も幸せだけど好きとか愛してるとかわかんないんだよ!!黙って飯食わせろ!!!!!!!」
    それはもう好きだろ、愛しちゃってるだろ、と思ったがモリスは言いつけ通りに黙っておいた。
    モリスとしては別に律が自分のことを好きだろうがなんだろうがどうでも良いのだが、色欲の悪魔である性質上相手が自分に惚れている状態の方が何かとやりやすい。あと野良猫がだんだんと懐いてきたみたいでかわいい。
    それに、律は恋愛経験が乏しいからその辺をつっつくと面白い反応が返ってくるのだ。
    律はまだ精神的に幼い面があり、主導権を握れなくなると途端に取り乱すから不得手な恋愛やこの手の話に関しては殊更その取り乱した姿が簡単に見られて楽しい。
    しかし、律も一筋縄ではいかない。
    「そういうお前はどうなんだ。悪魔に好きだの愛してるだのがわかるのか?」
    「わかるよ!馬鹿にしてんな!?悪魔だって結婚して子供産んで家族いるやつもいるよ」
    「人の話じゃない。お前のことを聞いてる」
    「俺は……アンタしかいないけど?」
    心の中で「今はね」と付け足した。

    地獄で生活していた頃のエムプエヴィネには家族がいなかった。
    悪魔は単独で生まれることもある。モリスはそのパターンだった。
    そのため、もちろん恋人や友人なんてものもいなかった。
    単独で生まれた悪魔は人間のように赤ん坊から始まるわけではなく、エムプエヴィネは見た目は人間でいう20代前半で生まれてきた。
    とにかく最初は自分の身を守るため、色欲の悪魔としての務めを果たして人間の寿命の吸収や魂の回収さえしていれば衣食住に困らなかったから生き延びることができた。
    自分のことを好きだという律のような人間に寄生することもあれば、知り合いの悪魔共と酒池肉林の毎日を送っていたこともある。

    そんな中エムプエヴィネはとある地獄の貴族に呼ばれ、家庭教師のようなものとして雇われた。
    なぜ自分がそんな大層な役割に選ばれたのかさっぱりわからなかったが、大金の匂いがしたので一つ返事で承諾した。
    地獄の中でも閑静な住宅街の奥地にある豪華なお屋敷までご丁寧に送迎され、談話室のような場所に通される。
    専用の運転手からメイドまでいるこの大豪邸が、屋敷の主が自分とは天と地ほども地位が離れた完全なる別世界に住む悪魔であることを物語っていた。
    「突然お呼びしてごめんなさいね。単刀直入に言うと、貴方には我が家の息子に悪魔の何たるかを教えてあげて欲しいの。うちの息子は潜在能力的には優秀なのだけれど、力のコントロールができていないし、少し世間知らずでまだ甘い部分があるから……色々教えてあげてくださらないかしら。もちろん謝礼は弾むわ」
    母親であろう女性から提示された金額は分不相応なくらいに大金で、余計によくわからなかった。
    母親ならそのくらい自分でしろよ、とも思ったがこのなんともいえない態度からして怠惰か傲慢かどこかその辺の悪魔なのだろう。同属の匂いではない。
    「あの、失礼ですけどなんで俺なんです?他に優秀な人なんていくらでもいるでしょ」
    「あら、貴方は生まれが地獄ではないでしょう?その身一つの環境から現在に至るまでの功績を上げたことは、この辺りでは結構有名な話ですわ。アスモデウス閣下直属の部下からも、エムプエヴィネ様は仕事熱心だと伺ってましたの」
    仕事をするしか選択肢がなかっただけだし、明らかに格上の悪魔が、格下の悪魔に様付けするのはモリスにとって最早嫌味でしかなかったが背に腹はかえられない。
    それに、もし貴族に気に入られたらいろいろと都合が良い。
    「はあ、なるほど。そこまで言ってくださるのであれば、とりあえず依頼は謹んでお請けします。それで、そのご子息は?」
    「ありがとうございます。セリィ、入って先生にご挨拶なさい」
    自己紹介を受けるまでもなく、部屋に入ってきた時点で何を司る悪魔なのかわかるくらいには目に見えて魔力が駄々洩れな子供だった。
    少年のような小さい体の許容量を越えて漏れ出している強い魔力は、コントロールできていないのなら周囲にいる人間に害を及ぼすこともある危険なものだ。
    「初めまして、セアルリグと申します。その、すみません。不愉快ですよね……」
    「あー……まあ、平気。俺はエムプエヴィネ。長いから知り合いはエムとかエミとかエンヴィーとか好きに呼んでる」
    「エムプエヴィネ、様……」
    「そんな堅苦しい呼び方しなくてもいいよ、よろしくなセリィ」
    セアルリグは幼少期から強すぎる力に母子ともに悩まされていた。
    まだ生まれて25年ぐらい、見た目は人間でいえば15歳やそこらの少年だった。
    自分も地獄ではまだまだ若造の部類だが、想像していた子供より若く幼いセアルリグに様々な方向に嫌な想像を働かせたモリスは早くも家庭教師に嫌気がさした。頭の良い子供は嫌いだ。
    そこからは割愛するが、エムプエヴィネは約100年ほどかけて色欲の悪魔であるのにも関わらず、管轄外の嫉妬の悪魔の子供にいろいろ教えこみ、セアルリグとは子弟あるいは兄弟のように仲を深め、セアルリグは嫉妬の悪魔の名の通りに異常にエムプエヴィネに執着するようになった。エムプエヴィネもその執着が実害が出ていない程度のかわいらしいものである上に、嫉妬の悪魔の性質である以上放置を決め込んでいた。これは軽率だったとしか言いようがない。
    その結果が先日の突撃長嶺家訪問である。

    そういった過去もあり、兄弟もどきやセフレ、悪友はいるにはいたが、モリスには本物の家族や恋人と呼べる存在はいなかった。
    「人の話として知ってる程度なら、本当に愛情が理解できると断言するには足りないんじゃないか」
    「微妙に痛いところ突いてくるな……本当の意味で知らなくても生きていけるんだよ別に。俺の性質的にも」
    「じゃあ俺のことを笑えないじゃないか。笑うな」
    「嫌だよ、おもしろいんだもん」
    そういう情に縛られるのは嫌いだ。何百年か生きてきて、家族を必要としたことはなかったし、恋人もいらなかった。セアルリグよ存在ははたまたまそうなってしまっただけで、むしろ色欲の悪魔である以上家族や恋人がいたら仕事をやり辛いまであるだろう。
    そんな悪魔に家族や恋人、恋心や愛情を求めてくるのだから律もおかしいのだ。適任がどの悪魔かと言われたらわからないが、少なくともモリスは律の願いをかなえるならセリィの方が向いていると思う。
    律の場合はモリスでないと意味がないとは言われているし、その意味も理解してはいるのだが。
    「もしアンタが俺にマジで惚れちゃったらどうすんの?」
    「どうもしないな。むしろ夫婦である以上そうあるべきだ。だから本気で好きになろうと努力はしてる」
    「あー、そうなんだ……えらいな……」
    順序が逆どころか何もかもがメチャクチャだが、事実上夫婦なのだから好きになるように頑張るという律の姿勢は好ましいものではある。
    この律の欲求がもっと簡単な肉欲に基づいたものであったらどれだけ仕事が簡単だったか、と余計なことを考えてしまうくらいに悪魔には眩しすぎるけれど。
    「悪魔は人の心を論理的に理解して模倣することはできても、本当の意味で同じ感情を味わったり共有することはできない。それなら俺ぐらいはアンタに真摯であるべきだろ。アンタはてきとうに模倣してくれるだけでいい」
    モリスの中で律には欲があるのかないのかすらあいまいになってきた。おそらく律の根底にあるのは諦めだろう。
    本物の家族も恋人も戻ってこないのだから、悪魔で代用しようという潔いほどの諦め。家族というつながりには執着しているのに、それが本物か偽物であるかにはこだわらない歪さがモリスは個人的に好きだった。
    確かに悪魔は人の心を完全に理解することはできない。人間の喜怒哀楽、その他複雑な感情に関しても「こうなるとそういう現象に陥る」といったような薄っぺらい理解でしかない。
    かといって悪魔に喜怒哀楽がないわけではなく、むしろ人間より激しく直情的だ。ただ、人とは思考回路が違うとでもいうべきか。そもそもの倫理観が違うからいろんなものが変わってくる。
    「テキトーに模倣ねえ……俺はアンタのこと結構好きだけどな」
    「……どうせ口だけだ」
    「ハハ、そういう性分なんだよね。それに100%嘘でもないぜ。俺が見てきた人間のなかでトップレベルにイかれてるところとか好きだな」
    「面白がってるだけだろ」
    からかわれてムッとした律は用意された朝食をすべて食べ終えると、モリスとは目を合わせないままシンクへ向かった。
    後ろ姿からちらりと見える律の白い耳がほんのり色づいていることが、怒っているわけではないことを教えてくれている。
    モリスはもう少しいじりたかったが、からかいすぎても可哀想かと見ないふりをして律を寝かせるための布団を敷いた。
    この布団も新しいもので、前までのものはあまりに薄くサイズも小さすぎたため、数日前にモリスが勝手にそこそこ良い羽毛布団に買い替えた。
    ふかふかの布団に家主より先に横たわりながら、食器を片付ける律を待つ。
    就寝時の添い寝は習慣化していた。
    悪魔に睡眠は必要ないとはいえど手持ち無沙汰になるのも嫌だったので一緒に眠っていたら、いつのまにか横になると眠る癖がついてしまっていた。
    律の心の変化をからかっていながら、自分もたかが人間にここまで影響を受けていることにむず痒いものを感じてしまう。
    セリィの時もわかりやすかったのだが、モリスは自分が情に影響を受けやすいことも理解している。だからこそ情は嫌いなのだ。

    やってきた心地よい眠気にウトウトとし始めた時、ピンポーンとインターホンが鳴る。
    宅配を頼んだ覚えはないし、来客の予定もない。
    ちらりと玄関の方を見た律を制して、布団から立ち上がる。
    「あ、俺出るから。洗い終わったら先寝てな」
    「悪い、任せる」
    どこか足取りのおぼつかない律に布団へ行くように指示し、一瞬気配を探るが悪い感じはしなかったので、玄関のドアを開ける。
    「ハーイ、どちら様…………」
    「あっ!エ、も、モリス様……おはようございます!お隣、引っ越してきちゃいました……」
    「セリィ……」
    特徴的な赤い2本の角と、炎のようなカラーリングの髪色、横に長い羊の耳は消えて綺麗に整えられた茶髪を1本の三つ編みに纏めた姿の若い男性は、人間界に適応する姿になったセリィだった。
    「引っ越してきちゃいました……って、こないだまで隣って人いたよな」
    「数日前に退去されたみたいです。大家さんに聞いたら空いているとの事でしたので即入居しました」
    モリスが思うに、おそらくセリィの無意識による嫉妬の圧力で退去するように働いたのだろう。
    セリィほどの魔力の量と強さになると、隣人に退去しろと命ずるまでもなく無意識で隣に住みたいと思うだけで向こうがそう動いてしまう。
    やはり今回もかわいらしい程度のものだが、この無意識が最悪の場合人間や悪魔をも殺しかねないのだ。
    「お隣は別に良いけど、もっと他に良いところあったでしょ。何もこんなボロ屋に来なくても……」
    「ボロ屋で悪かったな」
    「ひっ……!律さん、あ、あの、お休みのところお邪魔して……その、申し訳ありません、これ、つまらないものですが……」
    半分眠りに落ちていたけれどモリスがなかなか帰ってこないため起き上がって玄関にやってきた律は、いつもより3割り増し目つきの悪い顔でセリィを睨み怯えさせる。
    セリィから手渡された紙袋をその場で見てみると、律はあまり詳しくないが美味しそうな焼き菓子の詰め合わせだった。
    「ふん……隣に越してこようが何しようがまあいい、契約は守れよ」
    「は、はいぃっ!もちろんです!!!!!」
    「それにしたってセリィ、なんで人間界に定住しようとしてんだ?」
    モリスの至極真っ当な問いに、セリィは落ち着かなさそうに垂らした三つ編みを指先でいじりながら困ったように話し出す。
    「いえ、その…自分のせいではあるんですが、律さんとの契約は自分にとってのマイナスが大きいので、契約が終わるまでの間そのマイナスを取り戻せるよう人間界でたくさん魂を回収しないと……と思いまして」
    「俺のそばにいるためじゃないんだ、ふぅん」
    「あっ!いや、それもあります!!!!大いに!!!!」
    「じゃないとわざわざ隣に来る必要ないもんな」
    「あっ……す、すみません……」
    モリスにいいように弄ばれているセリィは焦ったりしょぼくれたり忙しなく表情を変えていたが、悪魔としてはあまり良くないが自分に正直なところがモリスは気に入っていた。
    セリィとは血も何もかも繋がっていないけれど、今となっては唯一自分が気を許せる悪魔の一人であることに変わりはない。
    何年経ってもなっても弟分はかわいいものだ。
    「いいよ、別に。ただ本当に契約に触れるような真似はしないこと」
    「はい!」
    「朝っぱらから夫の前でイチャつくな。用が済んだなら早く帰れ」
    「あ、わ、わかってます!多分、忙しくてあんまり来れないと思うんですが、また顔出しにきますね!」
    「おー、待ってるよ」
    「来るな!!!!!!!!!」
    「では!し、失礼します!」
    隣でカッとなって怒鳴っている律を宥めながら、セリィを行かせてぱたん、とドアを閉める。
    律も本気でセリィを嫌っているわけではないだろうが、いかんせん出会い方と相性が悪いのだろう。
    「な〜眠くて機嫌悪いのはわかるんだけど、セリィも悪気はないんだ。もう少し仲良くできない?」
    「いやだ」
    「そっか〜じゃあ寝ようか〜」
    「ん」
    セリィと会話している間にも眠気が限界に達している律は受け答えこそできているものの、子供のように癇癪を起こしたかと思えばもうほとんど寝ていた。
    律を布団に押し込んで、横にモリスも潜り込む。悪魔は人の形をとっていても人間より体温は低い。
    体が寝る準備をしているせいでポカポカしている律の体温がうつり、モリスもぼんやりと眠くなってくる。
    「おやすみ」
    セリィが来たおかげで、これからもっとバタバタするだろう日常を想像して軽いため息をこぼす。静かで暇よりはマシかもしれないが、律を刺激しないようにしなければならない。
    セリィも怒らせようとしているわけではないし、落とし所が見つかればもう少し3人でいても平穏に過ごすことはできるはず。
    考え事をしていたけれど、頭にモヤがかかったように眠気がやってくる。
    意識を落とす前に、律の前髪に隠れた額におやすみのキスをした。
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