けんえおう最近不思議な夢を見る、その夢には毎回川が出てきて夢の始まりはボルサリーノは川を挟んだ向こう岸を見ている状態だ
向こう岸には花畑や心地よさそうな風が吹いているのが見える、そして誰かが手を振っていたり手招いていたりしている、ボルサリーノが特異な体験をしていなければ流れに任せて向こうに渡っていたかもしれない、しかし違う今までの経験上これは絶対に何らかの霊障だ
そこまで分かっているので何度同じ夢を見ても向こう岸には渡らないのだが
しかし何故こんなに同じ夢を見るのか、最近変わった所に行った記憶は無いし何が悪いものを見たり感じたりした記憶もない
穏やかな日々を過ごしていた、まぁ過ごせているのはサカズキやクザン果てはセンゴクさんやガープさんに片っ端から寄ってくる霊を吹き飛ばしてもらっているからなのだが
毎日全員にすれ違うとか用事とかで会っているが何か悪いものがついていると言われてもいない
じゃあこれは何なのか
まさか普通に自分が死にかけてるとか?
ありえない健康診断では悪く言われたことは無い(体力が無いので運動してくださいとは言われたことがあるが)
じゃあ何なのか
そう考え始めると不安になる、まさか本当に死にかけてる?いやいや、週にそう何度も寝てる間に死にかけるわけが無い、だが今の現状はどう説明するのか
ダメだ1度考え始めるとキリがない、自分の死について、どうこう考えた事は無いのだが(死ぬ時は死ぬので)ベッドの上で突然死とかは勘弁したい嫌すぎる
普通の海兵ならベッドの上で眠るように死ぬなんて最高だと思うがボルサリーノはそうは思わなかった、なんか間抜けじゃないか若いという訳では無いがよほど年寄りという訳でもないのにベッドの上で突然死とか
そりゃ自分が年寄りであったなら眠るように死ぬなんて大歓迎だが、今は別に眠るようには死にたくない勘弁して欲しい
なんて考えている間にも川はさらさら流れている訳で……
(どうしたもんかねぇ)いや声も出ない
夢の中で声が出せない感覚は何とも苦しいような気持ちが悪い、そのため意図的に声を出すと言うモーションはしないようにしているがため息もつけないのは辛い
いつもどうやって起きていたか…不思議な事に起きた時どの様に夢から覚めたか覚えてない、だから毎回手探りで起きているらしい
ウロウロしながら川を観察してみると流れが変な事に気がつく、流れが速いところと遅い所があるしかも深さまで違うようだ
(参ったねェ…どうやって起きようかァ…まったく……)
相変わらず声は出ないがパクパクと口は動く、声を出そうとしたくなかったが、文句の一つ言わないとやってられない
途方に暮れて川を見ていた、サラサラと流れるばかりで変化は無い
川の終わりも始まりも見えない
「ボルサリーノ」
後ろから声をかけられた、今までにない現象にボルサリーノは振り返った、いや振り返ってしまった
振り返った瞬間あたりの景色が変わった
ここは…この場所は
血や死体が転がる荒地、しかし喧騒はあり海賊と海兵が殺しあっている
「おい!しっかしろよぉ!」
声の方へ向くと自分が居た、若い時の自分だニット帽にサングラス紛れもなく自分だ、その自分が一心不乱に何かをしている
「おい!」
どうやら心臓マッサージしているらしい肋骨の折れる音までハッキリと聞こえる、体が激しく動き必死さが伺える、それにしても自分があそこまで必死になっているのも珍しい…それに不気味なのが過去に誰かを心臓マッサージした記憶はボルサリーノにはなかった
ボルサリーノはゆっくりと自分に近づき横たわる誰かを見ようとした瞬間、首が締ま
「はっ!…っはぁ…はぁ」
目が覚めた、ひったくる様にベッドサイドのサングラスをとってかける
体は汗だくで息は絶え絶えだボルサリーノは頭をおさえながらベッドから足を下ろす
「覚えてる……」
今までとは違い起きる瞬間の夢を覚えている、今までああやって覗き込もうとして起きていたのだろうか?
いや一瞬なにか首に…何だ…何が…
それに横たわっていたのは誰だったのか、それになぜ今日は覚えているのかボルサリーノはフラフラとキッチンへと向かいコップに水を注ぐ
時計を見ればまだ夜中だ変な時間に起きてしまったと舌打ちをしたが、もう一度眠る気は起きない
コップに入れた水を見つめるていると夢の中の血溜まりを思い出し飲む気が失せていく、あんなに穏やかな川の夢だったのに何故急に戦場に変わったのか、自分に問題があるんだろうか…何かストレスがかかる事最近したかと言うと別にこれと言ってない
夜風でもと窓を開けると渦巻くような星月夜だ美しい円を描く丸い光は何処にもない、何か胸騒ぎがする
不味いかもしれないとボルサリーノは電伝虫に手を伸ばしおぼつかない手つきで電話をかける、しばらくしてガチャリと電話が取られた、ボルサリーノは相手が話すよりも先に声を出した
「サカズキィ」
「ボルサリーノか、なんじゃこがぁな時間に」
「それがねェ…ちょっと不味い事になってるかもしれなくてェ」
「あ?騒がしくてよう聞こえん、なんじゃ」
「だからァ…不味い…」
そこまで話してはたと気がついた、騒がしい?
「映画でもかけちょるんか?」
「いや…何もォ…」
「ボルサリーノ?おい!ボル…」
電伝虫がひとりでに切れ、ボルサリーノの視界はぐにゃりと歪む、ボルサリーノはそのまま力無く床に倒れた
ザザーっと水が流れる音で目を覚ました、ボルサリーノが体を起こすと、またあの夢の中で川が流れている向こう岸には屍の山川の色は赤黒く血なまぐさい、手を着いた地面はグジュグジュと泥のようでぬめり、まとわりついてくる
(やばい…)そうは思っても体は上手く動かない声も出せない苦しさが続く、そのうち川からズルリズルリと手が伸びてくる、ボルサリーノは必死に足掻くが身体中を捕まれ川に引きずり込まれた、能力者であるボルサリーノは赤黒い水の中でパニックに陥っていた、思考は渦巻き口から空気が漏れボルサリーノは夢の中で意識を手放した
「ボルサリーノ」
名前を呼ばれてボルサリーノは目を開ける、気がつけば阿鼻叫喚の渦にいたあの荒地だ空を見上げれば落ちてきそうな星月夜だ、ボルサリーノの体は若い頃まで巻き戻り、目の前には若い頃のサカズキが横たわっていた、力無く浅い息を繰り返している
ボルサリーノは体からドッと汗が出るのを感じて思わず大声で叫んだ、わけも分からずサカズキの肩を揺する
「おい!しっかりしろよォ!サカズキ!」
サカズキは浅い息さえ止めてしまい血の気が引いていく、ボルサリーノはサカズキの胸に手を置いて
そこで気づいた(これあの時見た…)ボルサリーノは胸に力を込める前に後ろを振り返った、そこには大人の自分がぼんやりと突っ立っている、その後ろ得体の知れない真っ黒な影が居た、影は口の様なものを開いた
「これはお前の罪だ、罪深きものは川を渡るのに苦労する」
そう言って大人のボルサリーノの首を黒い手で締め上げる
「死んでしまえ、その者もお前のせいでやがて死ぬ」
地の底から響くような恐ろしい声だったサカズキ指さし呪詛のように呟く、あのまま閉められ続けたら自分は死ぬんだろうか、今の自分が死んだら…わっしは…それに…サカズキも…
頭の中がこんがらがっている、ここにいるのも自分であそこにいるのも自分だ、ボルサリーノを凄まじい不安が襲う、サカズキの方に向き直り、必死に心臓マッサージを開始する肋骨が折れる感覚が手に伝わってくる、ボキボキと言う何とも言えない音が耳にこびりつく
せめてサカズキだけでも
「サカズキッ!サカズキッ!起きろよォ!」
ジュウと焼けるような音がする自分の両腕がマグマに触れた音だ、つまり
「サカズキィ…」
「おう、じっとしとれ」
サカズキはむくりと起き上がり黒い影の方を向く、黒い影は焦るように揺らめいた
「何故入ってこれる…」
「おどれの方が勝手にボルサリーノの夢に先に入ったんじゃろうが」
サカズキの熱が煮えたぎるマグマの赤い光が空も荒野も照らし始めている、グツグツとマグマが気泡を吹き出す度サカズキは若い姿から大将の姿へと変わっていく
「去ね、わしは死なん、ボルサリーノも殺させん」
サカズキは黒い影を引っつかむと凄まじい熱で焼き始める、大人のボルサリーノを引っ張り離し若いボルサリーノの方へと突き飛ばす
「自分じゃ受け止めぇボルサリーノ」
ボルサリーノは倒れゆく自分に手を伸ばした
マグマが空も大地も染めて、夜が終わるようだった
「ッ!!!」
ボルサリーノが勢いよく起き上がると、自分の部屋のベッドに居た、どこから入ったのかサカズキがボルサリーノの手をがっちりと掴んでいた
「サカズキ……!」
「ん……起きたか…」
「大丈夫なのかィ?」
「大丈夫じゃ、夢の中の奴なら、きっちり焼いた」
「そうじゃなくてサカズキは大丈夫だったのォ?」
「わしは大丈夫じゃ、どうもなっとらん……電伝虫が途中で切れて妙じゃと思って家に来たら何回呼んでも、おどれが出てこんから開いとる窓から入った……うなされとってどうやっても起きんから…」
「側で寝たの?」
「ほうじゃ、そしたら夢の中でおどれが一生懸命わしを呼んどったから、起きれた…と言うか入れた言うた方がええか……おい…泣くなボルサリーノ」
「……泣いてねぇよォ…サカズキが無事でよかったァ……」
「……わしはおどれが無事でよかったわ…」
この一件で夢の中まで霊障が来るとわかった為、サカズキとクザンが交代(めちゃくちゃ喧嘩した)でボルサリーノの側で眠る事となった