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    事務所を畳むのをきっかけに一緒に田舎に引っ込む芹霊
    ※付き合ってない
    ※書きかけ

    田舎に引っ込む芹霊いなか

    「相談所は畳む。」

    本日最後の予約だった常連のマッサージ客をいつも通り外向きの笑顔で送り出した後、霊幻はソファに体を投げ出して言った。

    日が傾ききった18時。
    外からは帰路につく学生の声が聞こえる。

    机でノートに向かっていた芹沢はゆっくりと顔を上げた。
    時計を確認した後、営業時間外を示す看板を出して上司を労う茶を淹れるために席を立つ。

    「急ですね。儲かってはないけど潰れるのはもっと先だと思ってました。」
    給湯室から茶を運びながらそう言うと、すぐに「ちげぇよ!」と霊幻の声が飛んできた。

    「自主廃業だっつの。…大体お前ならそうじゃないことくらい分かるだろ。」
    「はあ、まあ、そうっすね」

    茶を置くために眼前に伸びてきた腕の持ち主である部下を霊幻は軽く睨みつけ、どこか不服そうに茶を啜った。

    何も言われずとも、子供にしてやるようにぬるい温度で淹れられたそれは2人の相談所での月日を感じさせるには十分なものだった。

    芹沢を迎え入れて4年が経とうとしてとしている。
    来月には定時制中学の卒業の目処が立ち、今では霊幻ともに相談所の経営状況を管理するまでに至った。
    名実ともに立派な大黒柱だ。

    そんな芹沢には、確かに経営悪化での廃業ではないことは理解できた。
    むしろ看板の胡散臭さを裏切る善良な料金体系で常連も少しづつ増え、売り上げ自体は上がっている。
    芹沢は霊幻の向かい側にあるソファに腰を下ろし、視線だけで続きの言葉を求める。
    無言の圧、とも呼ぶべき鋭い視線は言葉での小手先の誤魔化しは効かないように思えた。霊幻は無意識にその視線から逃れるように体をよじったが、そんな自分に気がつきすぐに芹沢に向き直った。

    「お前、この前の除霊で怪我したろ。次危険なことがあったらここは畳むって決めてたんだよ。お前には言ってなかったから驚かせただろうけど。」
    「頭を軽く打っただけですよ。頭だからそりゃ血は出たけど…もう包帯もいらないし、前にもこんなことあったじゃないですか。それでいきなり廃業って言われても納得できないなあ」

    遡ること2週間、取り壊し予定の古い家屋に除霊に行った際のことだ。
    それは「長らく廃墟だったため心霊スポットとして有名になってしまい気味が悪いので除霊してほしい」という家主からの依頼だった。
    除霊依頼の99%は芹沢の出る幕がないものだ。
    今回もそのパターンで、いつも通り塩を撒いて終わりだろうと霊幻は考えていた。
    しかし、一歩足を踏み入れるとそこには強力な呪いが満ちていて、戦闘になった芹沢は頭部に怪我を負った。

    芹沢が怪我をしたのは、アカグロ様の一件以来2回目のことだった。

    「そうだ、前にもあった。なのに俺は今回も依頼の危険度を見誤った。」
     ふっと息を吐き、霊幻は顔を上げる。

    「経験がなかった1回目は仕方ないかもしれん。だが2回目はだめだ。危険を判断するのは所長である俺の仕事なのに、その技量が俺には身に付かなかったということだからな。これ以上続けて従業員を危険な目に合わせるわけにいかねえだろ。」

    芹沢を真っ直ぐに見据える目と口調は冷静そのものだが、自責の念からか拳は強く握り締められていた。

    「…それに、お前、頭縫ってたじゃねえか。大したことないわけねぇよ。」

    うなだれるように呟かれた声に、芹沢はタクシーで病院に向かった時のことを思い出した。
    芹沢、すまない。
    タクシーで靴の先を見ながら何度もそう繰り返す、あのざらついた声は今でも耳にこびりついている。
    謝罪って謝った側は楽になるはずなのになあ。
    しかし謝罪を言葉を重ねても霊幻が楽になることはなさそうだった。
    処置を終えた後、怪我にそっと触れてきた指先は冷え切っていた。

    今目の前で座っている霊幻は堂々とした所長の姿ではなく、不安と自責で普段よりずっとずっと小さくなった1人の少しだけ年下の青年だった。

    「でも、この相談所のこと霊幻さん結構好きじゃないですか。なにもやめなくなって…」
    「確かに、ここも、この仕事も結構悪くないと思ってるよ。じいさんばあさんの話聞いて、たまにお前と除霊に行って、帰りに飯食ってさ。でも、たかが仕事だ。命張ってまですることじゃない。」
    「でも、じゃあ茂夫くんのことはどうするんですか」
    「今は俺とお前の話をしてるんだろ。うちの社員はお前だ」

    想定していなかった霊幻の怒りを含んだ声に、芹沢は驚き思わず肩をびく、と震わせた。
    霊幻は睨みつけるようで、それでいて何かを堪えているような目をしている。
    感情の昂りからか少しだけ目が潤んでいるようにも思えた。

    芹沢は茂夫の名前を出せば霊幻が答えに窮して考え直すのではと考えていた。
    茂夫は顔を見せる頻度が減った今でも、霊幻の中の一番深く柔らかい場所にいるからだ。
    しかしそんな安易な考えをきっと見透かされたのだろう、霊幻から芹沢に怒りが向けられるのはそうそうないことだった。

    「…すみません」
    ぽつり、と謝る。
    自らの安直さからくる居心地の悪さと、霊幻の弱みにつけ込もうとしたことに自己嫌悪から芹沢は床を見た。

    「別にお前のせいじゃねえよ、完全に俺の問題だ。…だからそんな顔すんなよ」

    今自分はどんな顔をしているのだろう、と芹沢は思った。
    自分のことはまだ全然分からないけれど、この人のことは少しは分かるようになってきたつもりだ。
    きっと優しいこの人にそんなことを言わせるほどひどい顔をしているんだろう。

    この相談所は霊幻にとっても大切な場所だ、芹沢はよく理解している。
    この結論を出すまでに沢山悩んだはずだ。
    そんな霊幻を前に、芹沢は全ての反論を飲み込むしかなかった。

    「辞めた後どうするんですか?」

    そう聞いたのは、相談所がなくなったら霊幻もそのままどこかへ行ってしまいそうな気がしたから。
    嘘でもいいから具体的な答えを聞いておかないと、最悪の想像ばかりしてしまう。
    芹沢は霊幻がそういった危うさを持っていると学んでいた。

    そんな考えも見透かしたように霊幻はふっと笑い、体の緊張を解いてソファーに全身でもたれかかり天井を見上げる。

    「どっか田舎で教師でもやるかな〜。俺、実は国語の教員免許持ってんだよ。」

    なんとか食ってけるだろ、と呟く霊幻に芹沢は妙に納得していた。
    思い返せば、確かに霊幻は自分や中学生達の国語の宿題だけは意気揚々と面倒を見てくれていたような気がする。
    それに普段の様子を見ていると、子供の面倒を見るのはきっと性に合っているのだろう。
    茂夫君といる時の霊幻さんはすごく楽しそうに笑っていたな、とぼんやりと思い出す。

    なるほど、教師か…。
    じゃあ…

    「じゃあ俺も一緒に行きます。それで一緒に暮らしましょう。」

    当然のように吐き出されたその提案に、霊幻は言葉を失う。
    反射的に飛び起きて芹沢の顔を見ると、感情の読み取れないいつもの顔で聞き間違いかと思ったが、すぐにこいつはそういう奴なんだったと思い出す。

    突拍子もなく、頑固。

    いや、だとしても急には受け入れられないだろ。一緒に行く…?なんでだ?しかも一緒に暮らそうって言ったか?俺そんな話してたか?
    というか上司と部下で一緒に暮らすってなんだ?
    脳内で思考がぐるぐると回り、言葉に迷っていると芹沢は帰宅のため荷物をまとめ始めた。

    「じゃあ俺定時なんで帰りますね。」
    「はあ?!おい、待てよ!話終わってねえだろ!?」
    「お疲れさまでした。」

    無情にもドアは閉められ、カンカンと革靴が階段を降りる音が響き、霊幻は相談所に取り残された。

    状況に追いつけない頭のまま、とりあえず残った茶に手を伸ばす。
    改めて考えを巡らせてみたが、部下の考えを一つも掴むことはできなかった。
    冷え切った茶をすすり、霊幻は考えるのをやめた。
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