降志ワンライ「きみはポラリス」「手袋、」
「ん?」
「忘れたわ」
「……ではお手をどうぞ、お姫さま」
素直じゃないなぁ、なんてカラカラと笑う降谷は、志保の回りくどいおねだりに従順に応えてその手を握った。
志保のそれよりずっと大きな手にすっぽりと包まれると、じわじわと温かい体温が移ってくる。同時に彼の体温を奪っていることになるのではないかと懸念した頃もあったが、自身への過小評価癖こそが彼を悲しませる一番の要因なのだと気付いてからは、純粋な厚意に甘えることも身についてきた。
冬の夜。
新年も明けて三週間あまり。お正月ムードは完全に立ち消えて、社会は皆、変わり無いようで日々異なる日常を、当たり前のように繰り返している。
住宅街を並んで歩く二人の周囲は、吐き出す吐息で白く染まる。一月の空気はシンと冷え切っていた。
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