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    いつかのもくりでお話していたもの。dnししょ。

    雨と煙草と 雨どいに規則的に雨粒があたる。確か似た響きが出せる楽器があったはずだ。音だけを聞いている分は雨もいいと思える。それに雨が土に染みることで発せられる匂いも嫌いじゃない。なんとなく、霧の中にいるような感覚に陥った。それは今の状況に最も近い表現であるだけで実際、霧はかかっていない。霧であればもっと澄んだ空気のはずだが、違う。喉のあたりに違和感がまとわりついている気がする。
    違和感の香る方向に目を向けると屋根のついた小さなスペースがあった。喫煙所だ。そこで、外にも喫煙所があったことを司書は思い出す。あいにく、司書は喫煙者ではないので使ったことはない。
    (あれは、檀先生……?)
    「檀先生」
     先生は呼びかけに気が付かず、曇り空を眺めている。邪魔をしても悪い、司書はきびすを返そうとしたところ声に呼び止められた。
    「どうした、もう行くのか」
    「先生、もういいんですか」
     ん、と檀は灰皿に煙草を押し付けた。小さく火の消える音がした。
    「そろそろ戻ろうと思ってな」
    「そうでしたか」
     他の文豪と比べ、普段喫煙するところを見ていないせいかなんとなく違和感がある。彼らの生きていた時代は喫煙に対して今ほど問題はなかった。むしろ、付き合いの一種として推奨されていた節もあったはずだ。
    「いつもはもっと親し気に話してくれるだろう? 具合でも悪いのか」
     言葉の続かない司書を心配する言葉を掛けられる。司書は普段接している檀の姿に安心したものの、
    「なんとなく、先生が別人みたいで……」
     司書の発した別人という言葉に檀は首を傾げた。
    「あの、煙草吸ってるところ初めて見たからかもしれないです」
     そういえばそうだったな、と目の前の檀が言う。
    「司書も吸うか?」
     差し出された煙草とマッチに迷いなく手を伸ばす。吸う手順は何度も何度も見てきた。マッチを擦って火を付ける。雨の湿気に負けることなく、だが弱々しくゆらゆらと火は揺れる。一連の動作は時間にして数分、ほんの短い時間だった。だが、檀と二人きりという状況は司書にとって長い時間に感じられた。
     檀の視線を感じつつも、司書はようやく、口を付ける。付けた瞬間の煙たさに思わずむせた。
    「なんだ、初めてだったのか」
     ようやくなくなって来た煙たさをこらえながら頷いた。思わず涙もこぼれた。
    「皆さんが吸うところは見ていたので、行けるかなと」
    「とっくに誰かが教えてたと思ってたよ」
    「まあ、誘われてはいましたけど」
    先生だったから、なんて言ったらどんな顔をするのだろうか。そんな疑問は口にしなかった。
    「悪いこと教えたな」
    「……そろそろ戻りません?」
    それもそうだな、と言う先生のあとについて外を後にした。雨音が遠くなる。
     ちらりと盗み見た先生はいつもの先生だった。
    それにしても、随分と冷える日だ。改めてそう思う。足元から寒さが立ち上がってくるせいでどんどん体の熱が奪われていくのを実感する。雨に濡れた足元が乾くように先程の檀とのやり取りに感じた何かも消えていくはずだ。そう言い聞かせながら司書は檀のあとに続いて足早に渡り廊下を歩いた。
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