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    ang先生、お誕生日おめでとうございます!!!

    『特別』ないつもの日々「よし、俺が言ったやつは持ってきたか?」
    「持ってきたで!でもこれで良かったん?」
     夜十時、図書館内の人もまばらになりつつある頃。無頼派の4人は食堂に集まっていた。食堂は三食の時間以外は自由に使うことができ、厨房はもっと自由で冷蔵庫には料理好きの文豪の調理器具や調味料が置かれている。食堂は文豪たちにとって一つの憩いの場所である。
    「俺が欲しいって言ったやつだからいいんだよ、ありがとな」
     本日の主役である坂口安吾は満足げに頷いた。坂口はこの4人以外に誕生を祝われており、食材や彼の好むものが贈られた。その中には坂口の好きな推理小説も入っていた。一度図書館全体で祝われたが、無頼派としても祝う機会が設けられていた。坂口以外の3人が企画したものだ。
    「誕生日プレゼントって選ぶことの方が多いけど、今回のはなんか新鮮だったよな!」
    「なんや、今回は竹取物語みたいやったなぁ」
    確かに!と太宰は同意の声をあげた。机の上に置いてあるものは全て坂口が3人に<誕生日プレゼントとして欲しいもの>として指定したものだった。
    「ワシがおはぎやら甘いもんで、太宰クンが日本酒、檀クンがおつまみやったっけ」
    「そうだ、皆ありがとな。俺は嬉しい」
    「いやー、でも探すの大変だったぜ?」
     満足げな坂口に太宰は日本酒の瓶を抱きながら一言、プレゼント獲得談義を始める。
    「ああ、聞いた時少し驚いた。中々手に入らないものだよな」
    檀の言葉に坂口は首を傾げる。よく飲んでいた記憶があるせいか、入手難易度に関しての認識が違っていたようだった。
    「そうだったのか……ありがとな」
    「いいって! 折角、安吾の誕生日なんだしさ」
     太宰の眩しい太陽のような笑顔に他の3人も釣られて頬が緩む。穏やかな
    「で、オダサクはどこのおはぎ買ってきたんだよ」
    「ああ、これは路地裏の和菓子屋さんで、んでこっちのお菓子は通りのお店。ツレの誕生日祝い言うたら、おまけしてくれたわ。普段贔屓してくれてるからって」
    確かに、4人で食べる分には大き目の箱に入っていた。
    「このおはぎはつぶあんかこしあんどっち? 和菓子じゃ餡子の好みで揉めるじゃん」
    「太宰クン、そこは半々ずつ買ってきてんで。見てみ」
     さっすが、と太宰はおはぎの入った箱をのぞいた。小豆の本来の色よりも落ち着いた餡子が電灯の元に姿を現す。つぶあんの方は餡子の形を少し維持しており、つやつやと光輝いて見えた。だからといってこしあんが劣っているわけではなく、こちらは元形がないからこそ威厳をもって電灯の光を浴びている。思わず太宰と坂口はため息をつきそうになった。
     おはぎに見惚れていた二人を横目に織田は檀に声をかける。
    「檀クンはお手製のおつまみやんな、何作ったん?」
    「ああ、いつもより手間がかかるものを作ってみたぞ」
    「庭でやってたのもそれか?」
     坂口がおはぎの箱からひょっこりと顔をあげた。
    「安吾、見てたのか」
    「見てたんじゃなくて偶然通りがかっただけだ。面白れぇことしてるなとは思ったが」
    「俺も手伝った!」
    「ありがとな、太宰。助かったよ」
    「あー、変な匂いしてたんは燻製してたからか……ようやく謎が解けたわ」
     数日前、図書館内で『なんとなく空気が煙たい』と話題に挙がっていた。それを『有害書に潜書した時の空気』と評する者や『なんだか酒が進みそうな空気』とも評する者が居り、ちょっとした混乱を招いていた。
    「司書には許可取ったぞ」
    「それにしてもあれを潜書した時の空気に似てるって誰が言ったんやろ」
     織田の純粋な疑問に太宰は肩をすくめる。この広い図書館の中で発言の元を辿るのは難しくはない。が、少々面倒なことに繋がりかねない。些細なことは噂話として済まされるだけだ。
    「そういや、池にいるとかいうワニは大丈夫だったんだろうか」
     ふと、坂口の頭には中庭にいると言われている緑色のワニがぼんやりと浮かんできた。坂口自身は見たことはないが、何人か目撃者がいる。
    「秋声さんに聞いてみるわ」
     徳田は目撃者の一人で、織田とも仲がいい。徳田は緑色のワニたちは接触している可能性がある。ひょっとするとワニたちから徳田に苦情が入っていたら、それは少し申し訳ないような気がした。
    「……あ、煙で見えなかったが中庭で他の仕込みしていた時にきゅうりがなくなっていたな」
     なんとも言えない空気が4人の間を漂う。もし徳田に何もなければ、彼らはきゅうりで使用料としたのかもしれない。
     未知の生物に各々、思いを馳せているところに檀の鼻は何かを捉えたようで坂口の方をにやりと見た。
    「安吾、今日も安吾鍋作ったんだろ」
     よくぞ聞いてくれたとでも言いたげな笑みと共に、坂口が厨房の方へちらりと目線をやるとそこにはいつもの鍋が堂々と鎮座していた。
    「勿論作ってある、他の奴らに貰った食材を使ってるんだがこれが美味いんだ……それにしてもなんで分かったんだ?」
    「まあ、だしの香りがしたからな」
    「それに安吾が安吾鍋作らない時の方が少ないじゃん」
     それもそうだと太宰の言葉に織田が頷いた。皆が頷くのを見て、そこまで作っていただろうかと坂口は一瞬考えた。だがその思考はいらないほどに坂口の生活に『安吾鍋』は密着していた。
    「全部そろったんだ、始めようぜ」
    「これじゃいつもと変わんない気がするけど、安吾はこれで良かったの?」
    太宰の何気ない問いに坂口は先程まで動かしていた口を一度閉じた。それからどう言葉を発するのか考えているのか、口を開いたり閉じたりを二度ほど繰り返した。それから決心がついたのか、言葉を零した。
    「こうして一緒に呑みたかったんだよ」
    「いつも一緒に呑んでるだろ」
    「まあそれ言われると……な、分かるだろ?」
     安吾は照れくさそうに頬をかく。耳はうっすらと紅葉のように色付いている。少しの沈黙はすぐに止み、ふっと3人同時に口角が上がった。
    「こういうの、いつでも付き合うで」
    「遠慮するなよ!」
    「あとで麻雀でもやろう、せっかく4人いるんだからな」
     賑やかな4人の姿を、にっこりと月と星が浮かぶ夜空は見守っていた。
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