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    POIPOI 11

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    kkc先生と司書とハロウィンの話。
    ハロウィンの日にポッキーゲームを仕掛ける司書と受けて立つkkcせんせい。
    ネームレス司書ですが、偏食であんぱん好きという設定があります。
    それが大丈夫ならどうぞ。
    同じものを支部にあげています。読みやすい方で!

    余興前のちいさないたずら「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃいたずらするよ!」
    普段より元気な声で彼女が助手兼恋人である菊池にハロウィンの呪文を唱える。菊池の前にひょっこりとジャンプで移動してきた彼女は満面の笑みを浮かべている。
    「ほらよ」
     ハロウィンだから彼女が何か仕掛けてくるだろう踏んでいた菊池は彼女の好物であるあんぱんが入った袋を渡した。張り切って常套句を言ったはいいものの、こうも簡単にお菓子を貰うのは何かが違う気がする。そういう顔を彼女はしていた。
    「……うん、ありがとう」
    「そんなに嬉しくないのか?」
    「いや、そのなに……悪戯する楽しみってあるじゃん?」
     とはいえ、彼女は悪戯がしたかったというわけでもない。ただ常に余裕な表情を浮かべている菊池の少しでも焦ったような顔が見たかっただけなのだ。
    「寛先生はいつでも大人だもんねえ…… そりゃ、お菓子くらい用意するよね」
     菊池と特別な関係になる前からそれは分かっていたはずだ。最初、緊張して中々話せなかったところを歩み寄ったのは菊池で、それからも何かと気にかけてくれたのも彼のなせる気遣いの技だった。
    「ちなみに俺が何も用意してなかったらどんな悪戯をするつもりだったんだ?」
    「えー……くすぐろうかなって」
     なんだそんな悪戯か、と菊池は拍子抜けしたように言った。すると彼女は再び頬を膨らませてしまう。
    「普段も似たようなことしてくるだろ、もっとこう、手心をだな……」
    「じゃあ、寛先生ならどういう悪戯するの?」
    「俺か? そうだなあ……」
     彼女に言われて菊池は自分の頭の中で悪戯と区分されている者の幾つかを思いつく。しかし、大抵のことは普段の彼女にしつくしたものだ。
    「ほらすぐに思い浮かばないでしょ?」
    「そうだな、大方した覚えがある」
    「でしょ? 新美先生や江戸川先生なら新しい悪戯でも教えてくれそうだけど」
     確かにあの二人なら何らかの悪戯のネタを持っているだろう。ただ、彼女と菊池が望んでいるのは彼らが好む悪戯の類いではない。
    「……ポッキーゲームする? あ、ポッキーゲームって分かる?」
     菊池は頷く。転生してから少しずつ、この時代の流行や生活を実際に見たり聞いたり一種の調査をしていた。折角転生した身だ、この時代を楽しむという意味でも菊池は調べることを欠かさない。
    「そういうの早くないか? 確か、余興でやるものだろ」
    「今この状況が余興みたいなものだからいいんじゃない? まあ、11月11日のポッキーの日にやれるならそれが一番なんだろうけど」
     成程、と菊池は頷いた。頷いたが、一つ嫌な予測が頭をよぎった。それは彼女の実体験に基づく情報なのではないかと。だが菊池たちの生きていた時代と違って情報の入手手段は格段に増え、その速度も上がっている。それで情報を得ているのであればいいのだが、もし実体験ならと考えると……どうにかなりそうとまではいかなくても、動揺はうっすらと見えてしまうだろう。
    「なあ、やったことあるのか」
    「え? まあ……」
    「そうか……」
     いたいけな彼女の唇に一度でも誰か他の人間が触れた可能性が出てきてしまった。動揺を隠すように、口を手で隠せばそれに引きずられるかのように上体が机との距離を縮めた。
    「もしかして、私が誰かとポッキーゲームしたの嫌だった?」
     彼女が少し俯いた菊池の方へ顔を覗かせる。時折、見せる彼女の勘の鋭さには常々菊池は困らされていた。
     彼女の勘が鋭い時に誤魔化すのは最適解ではないことを菊池は知っている。誤魔化したら誤魔化した分だけ、彼女は正直な言葉を聞けるまでいじり倒してくるからだ。
    「……あんまりいい気持ちはしないな」
    「うん、そうだよね……私も寛先生が誰かとそういうことするの、嫌な気持ちになるし」
     ちらりと彼女の顔を見るとにこやかに微笑んでいる。本音だろう。
    「なあ、その時はどうなったんだ?」
    「ポッキーゲームした時? その時は女の子同士でしたし、途中で折れちゃったから最後まではしてないよ?」
     それを聞き、次は安堵からソファに体を預けて天井を見上げる。それを聞けて安心したと同時に、相手が同性であればよかったのか?という疑問も浮かんだが相手がだれであれ、未遂で住んでいるならそれでよかったのだ。
    「だからね、私のファーストキスは寛先生だよ。安心して?」
     彼女がちょこんと向かい合わせになるように菊池の膝に座る。そしてポケットから件のものを取り出していた。
    「する? ポッキーゲーム」
     赤いパッケージが印象的なそれを彼女は可愛らしく掲げてみせている。
    「用意がいいな、最初からそうするつもりだったのか?」
    「んーどうだろうね?」
    「普段、あんぱんとよく分からん固形物質しか持ち歩かないだろ」
     彼女が妙に用意がいい時は十中八九、なにかを企んでいる時だ。それも巧妙で、普段通りの会話からいつの間にか彼女の意図した展開に持ち込まれている。
    「私だって他のもの食べたくなるよ」
    「したかったんだろ」
     少しの挑発を込めて菊池が彼女に言えば、彼女はそのままお菓子をくわえて待っている。ん、と口でお菓子を動かして催促しているのを見て菊池はある悪戯を思いついた。その為にはもう少し、彼女が焦れるのを待つ必要がある。
     それから数分後。さほど時間が絶たない頃のことだ。まだ端をくわえてこない菊池に痺れを切らしたのか、彼女は閉じていた目を開けてじっとりとした目線を菊池の方に送っている。
    「これは貰っておく」
     くわえられていたお菓子をそっと引き抜き、驚いている彼女にそのままキスを落とす。チョコレートの方をくわえていたせいでほんのり甘さが残っている。その名残を惜しみながら離れると、放心状態の彼女を横目に引き抜いたお菓子を食べてみせた。
    「ん、美味いな」
    「か、寛先生のばか!」
    「仕返しだよ、アンタの意地悪よりは随分優しいと思うがな?」
     そう言われれば、彼女は言い返すことも出来ずに菊池の隣に座ってもらったあんぱんを口いっぱいに頬張り始めた。
    「まだまだ子供っぽいな」
    「うるさいなあ、子供っぽい私が大好きな癖に!」
    「まだパーティーもあるんだろ? 食べていいのか」
    「いいの! 今日の胃袋はブラックホールだから!」
     甘いもの好きの彼女のことだ。食堂でもお菓子の交換をして堪能するつもりだろう。
    「そういや、貰ってないな」
    「お菓子ならあげた。さっきの私から奪ったやつ」
    「あれは貰ったに入らないから後で悪戯させてもらうぞ」
     えー……と彼女は不服そうな声をあげながらまたあんぱんを頬張った。
    「返答次第でご褒美にしようと思っていたんだがなあ」
    「それじゃあいいよ」
     ご褒美だとかそういうプラス思考の言葉にめっぽう弱い彼女は簡単に了承の言葉を口にした。彼女のその言葉に満足げな表情を浮かべていると、そろそろパーティーの始まる時間だからと彼女に手を引かれて司書室を出る。
    (どんなご褒美にしてやろうか。そういえば最近、行きたい店があるとか言っていたな。帰りにケーキもいいな……いや、ここはちゃんとしたものを夕飯として……)
     前をスキップまじりに歩く彼女に対する慈愛と、この後見せるだろう彼女の表情に対する期待から思わず笑みがこぼれた。
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