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    フォドン

    @photonyadon

    天城カイトが好きです。
    女体化あります。
    反応があるととても嬉しい…!

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    フォドン

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    ヌメロンコード後、図書館で出会うハルトとミザエルのお話です。
    CPや注意書きのないお話を目指しました。
    それでも幻覚なのでいろいろご了承ください。

    レミニセンス ハートランド市立図書館――

     それは世界各地から本を収集し、保管するための施設である。遊園地のように賑わっているわけではないものの、遠方からこの図書館を目当てにハートランドを訪ねてくる者も多い。

     その施設の入り口の前で、天城ハルトは思わず足を止めた。

     ハルトの視界に入ったのは、風に揺れ、キラキラと輝く金色の長髪。彼の兄である天城カイトのかつての宿敵、ミザエルだった。

     だがハルトが立ち止まってしまったのも、通りすがりの通行人たちがチラチラと彼に目をやるのも、その美しい髪のせいではない。彼の周囲の空気が、異様に澱んでいたためだった。

     ミザエルは入館手続きをしようと、ロボット端末を操作しているところである。慣れない手つきでタッチパネルを押していくミザエルだったが、手続きは一向に完了する気配がない。そして数分間の格闘の果てに、無情なアナウンスが端末から流れる。

    『モウ一度、最初カラヤリ直シテクダサイ』

     その声に、ミザエルの手の動きが一瞬止まる。彼の放つ圧力が、更に重みを増したように感じられた。手を震わせながら再び操作を始めるミザエルであったが、残念なことにその結果は変わらない。

    『モウ一度、最初カラヤリ直シテクダサイ』

     ミザエルは完全に手を止め、ゆっくりと口を開く。

    「そうか……あくまでもこの私を愚弄する気なのだな……」

     そう言って彼は目を閉じ、天を仰いだ。数秒の沈黙の後、カッと目を見開き、デュエルディスクを展開する。

    「貴様がそのつもりなら、こちらとて容赦はせんぞ! さあカードの剣を抜け! 貴様などすぐに叩きのめして……」

    「ストーップ!!」

     突然聞こえてきた声に、ミザエルは振り返る。そのまま視線を下に向けたところで――大きなトートバッグを肩にかけ、かわいらしい顔を精一杯しかめて睨み付ける、天城ハルトと目が合った。

    「お前は、カイトの弟……確かハルトと言ったか」

     その質問には答えず、ハルトは頬を膨らませて抗議する。

    「ロボットだからって、いじめちゃダメだよ!」

     その言葉に、ミザエルは表情を歪ませ、端末を指差して声を張り上げた。

    「虐めだと……!? 聞き捨てならんな! 元はと言えば、コイツが私に舐めた態度をとっているのが悪いのだ!」

    「大声出さないの! 他の人たちがびっくりしちゃうでしょ!」

    「む……」

     ミザエルが視線を上げると、目が合った人間たちが瞬時に視線を逸らし、足早に通り過ぎていく。その反応を見て、ミザエルは少し冷静さを取り戻したように見えた。

    「ちょっとどいてっ」

     ミザエルを押し退け、ハルトは端末の前に踏み台を置く。その上に乗って、慣れた手つきでタッチパネルを操作していくと、ものの数秒で手続き完了のアナウンスが流れた。

    「はい、これでオッケー」

    「おお……」

     感嘆の声を漏らすミザエルに、ハルトは呆れたように言う。

    「ちゃんと手順通りにやらないと。相手はロボットなんだから」

    「しかし、カイトにくっついているロボットには手順などないではないか」

    「あれはオービタルが特別なの」

    「くっ……」

     ミザエルは少しの間不服そうにしていたが、軽く息を吐いて表情を戻した。

    「まあ、施設に入れるならもう用はない。そのロボットにも、貴様にもな。これ以上の手出しは無用だ」

    「……」

     立ち去ろうとするミザエルの背を、ハルトは無言で見つめる。

     もちろんこのまま彼を行かせたとしても、ハルトには何の不利益もない。だが入館でつまずいていたミザエルが、無事に目的を果たせるのか。館内の設備に拒絶されるミザエルの姿が、ハルトにははっきりと想像できた。そうなれば、ミザエルの性格上、周囲に迷惑をかけないとも限らない。

     しかし、何よりも。

     頑固で、気難しくて、他人を頼ることができず、一人で何とかしてしまおうとする――そんな相手を、ハルトは放っておくことができなかった。そしてそんな人物への接し方を、彼はよく心得ている。

    「あー困ったなー。僕の身長じゃ、棚の上の方に手が届かなくてさー。誰か代わりに取ってくれる人がいると助かるんだけどなー」

    「……」

     わざとらしく子供っぽい声に、ミザエルの足が止まる。ハルトはミザエルの真後ろまで近づき、さらに追い打ちをかけた。

    「困ったなー。誰か助けてくれないかなー」

    「……」

     ミザエルは首を少しひねり、チラリと後ろを見る。ハルトは黙ってその群青の瞳を見つめ続けた。

     数秒間視線を交差させたあと、ミザエルは目を閉じ、前を向いてぼそりと呟く。

    「……少しだけだぞ」

    「ふふ、ありがと」

     ハルトはそう言って微笑み、ミザエルの隣を歩き始めた。
     
     
     
    「ここでこれをかざすんだよ」

    「……」

    「それで、ここに本の名前とか、調べたい言葉を入れるの。借りるときはあっちのカウンターでね……」

    「……」

     いつの間にかミザエルの前を歩き、館内を巡るハルト。周囲の邪魔にならないよう声量を抑えながら、設備の使い方を呟いていく。ミザエルは無言のまま、その後を追いかけた。

     施設内をぐるりと一周したところで、二人はハルトが探す本が置かれた棚にたどり着く。

    「この棚にあるはずなんだけど……」

    「……これだな」

     そう言って、ミザエルが一冊の本を取り出す。

     どう見ても小学生向けではないその本は、確かにハルトの手が届かないような高さに置かれていた。

    「うん、これだね。ありがとう、ミザエル」

    「……ああ」

     にこにこと礼を言うハルトに、ミザエルは目を合わせず、無表情で返事をする。彼の視線の先には、この図書館の備品の一つ――キャスターのついた踏み台が置かれていた。そして二人の背後では、本を自動で出し入れしてくれるロボットが動き回っている。

     ミザエルのそっけない返事を聞いて、ハルトは少し眉を下げて言う。

    「……じゃあ、ここまで……かな?」

    「……」

     施設を使うために必要な情報は、最低限伝えたはずである。もう、ミザエルに付き添う理由はなかった。

     寂しげに尋ねるハルトに、ミザエルは黙り込んだまま、何も答えない。

    「僕、そこのスペースにいるから、何か困ったことがあったら呼んでよ」

    「……」

    「じゃあ、またね」

    「……待て」

     絞り出すようなミザエルの声が、手を振って別れようとしたハルトの足を止める。わずかにためらうような間を置いたあと、ミザエルは再び口を開いた。

    「……少し、手伝え」

    「……!」

     ハルトの表情がぱっと明るくなる。

    「うん! 任せて!!」

     元気よくそう答えたハルトは、ミザエルの手を取り談話室へと駆け出す。突然の行動に目を丸くするミザエルを、ハルトはそのまま連れ去っていった。



     動かせる机や椅子、ホワイトボードを完備したこの部屋は、グループでの利用を想定しており、室内での会話が許されている。

     その部屋で、ハルトはミザエルの目的を知ることとなった。

    「月での約束を、果たしたいのだ」

    「……え? まだ話してなかったの!?」

     ハルトが驚くのも無理はない。月面での銀河決戦の際、カイトはミザエルにある約束を取り付けた。

     ――もし次に、出会えることがあったなら。お前に何があったのか、きかせてくれないか?

     そのまま月で力尽きたカイトと、ドン・サウザンドの前に倒れたミザエルは、ヌメロンコードの力で奇跡的にこの世界に戻ってきた。そう――二人はすでに、再会しているのである。

    「もちろん話すつもりだったのだが……記憶を整理しようとすると、よく分からないことが多くてな……」

     ミザエルは腕を組み、視線を上に向ける。

    「私はずっと昔、人間として生まれ――人間として死んだ。だがその記憶は、バリアンとなったときに歪められ、奪われてしまった」

     かつてドラゴンと共に、国を守護していたミザエル。しかし、ドン・サウザンドの陰謀によりその命は絶たれ、バリアンとして生まれ変わることになる。バリアンであった頃は、自身がもともと人間であったということを完全に忘れていただけでなく、人間を下等な存在と考え、忌み嫌っていた。

    「とあるカードの力により、当時の記憶を取り戻したのだが……無理に操作された影響か、ところどころ抜け落ちている箇所や、不明瞭な部分がある」

     ミザエルは目を伏せ、眉間に皺を寄せた。

     何しろ大昔のことである。分からないことがあるのは自然なことなのかもしれない。しかしそれでも、記憶が不鮮明なことに、奇妙な居心地の悪さを感じていた。

    「だからここで、私が生きていた場所や時代のことを調べれば、記憶をはっきりさせられると思ったのだ」

    「うーん……別にちょっと記憶があやふやでも、兄さんは気にしないと思うよ?」

     首を傾げながら、ハルトが答える。彼が知りたかったのはミザエルの「心」であり、細かい歴史の話ではないだろう。

     ミザエルもハルトの言葉にうなずいた。

    「だろうな。だが――これは『私の問題』だ」

     ミザエルは顔を上げ、真っ直ぐ前を見つめる。

    「奴は真剣に、私のことを案じてくれた。だから私も、全力で応えたい」

    「……そっか。じゃあ頑張らなきゃね!」

     ミザエルの真摯な眼差しに、ハルトの言葉にも力が入る。――兄が繋いだ優しさが、ミザエルの中で息づいている。それが、ハルトにはとても誇らしかった。

     そんなハルトとは対照的に、ミザエルは暗い顔で言葉を返す。

    「だが、どこから手をつければいいものか……」

    「大丈夫。一緒に考えようよ! まずはミザエルの覚えてることを整理して、キーワードを絞っていこっか!」

    「……そうだな」

     胸を張り、堂々とした笑顔で言うハルト。その頼もしい言葉に、ミザエルも柔らかい笑みを浮かべるのだった。
     
     
     
     備え付けの端末を使ってハルトが集めた情報を、ミザエルがホワイトボードに書き出して整理する。そんな協同作業の末、ミザエルが生きていた時代や国に、二人はある程度の見当をつけた。あとはそれらについて書かれた文献を探すのみである。

    「ではまず、この本を借りておこうか」

    「だね。読んでみて気になることがあれば、また別の本を探してみるといいと思うよ」

     二人は図書館の蔵書を検索し、何冊か見比べた上で結論を出した。

     ミザエルが借りる本を決めたところで、ハルトはふう、と息を吐く。それは一仕事終えた後の息抜きであり、別れの寂しさからくるため息でもあった。

    「それじゃあ今度こそ、ここまでだね」

     にこにこと笑顔を浮かべつつ、ハルトは使った備品を整え始める。

    「せっかくだし……分かったことがあれば僕にも教えてほしいな。――僕もミザエルのこと、知りたいから」

     ミザエルに対して、思うところがないわけではない。彼は、家族の運命を大きく歪めたバリアンの一人。兄の命を奪った存在。

     それでもハルトは――ミザエルのことが、好きになった。かけがえのない友達のことを、もっともっと知りたいと思う。

     二つの感情が混じったハルトの笑顔に、ミザエルは真っ直ぐ言葉をぶつける。

    「言いたくないなら、答えなくていい。……お前の目的は、他にあったんじゃないのか?」

    「……」

     ハルトが目をぱちくりさせている間に、ミザエルは静かに話を進めていく。

    「お前が借りようとしている本は、電子データもあるし、郵送で届けさせることもできるだろう。……ここにわざわざ来るのは、その場で本を見比べて、選びたいからだ」

     ミザエルのように機械が扱えない場合や、借りたい本が決まっていない場合には、図書館に直接出向く意味がある。しかし、ハルトは十分に機器を使いこなしているし、本についても悩むことなくすぐに探し当てていた。つまりその本を借りるだけなら、ハルトがわざわざここに来る必要はないのである。

    「そして、お前の鞄は大きすぎる。もっと多くの本を入れるつもりか……いや、それでは一人で運べない。もっと大きな、軽い本を入れようとしていたのだろう」

     ハルトが持っているトートバッグは、その背丈の半分もの大きさがある。理由がなければ、もう少し扱いやすい鞄を使うだろう。そして重さのことを考えれば、自ずと答えは見えてくる。

    「……よくわかったね」

    「何度も言うが、別に答えなくてもいい。私もただ……知りたくなっただけだからな」

     たじろぐハルトに、ミザエルは表情を変えずに話す。

     ――さすがにあの兄を追い詰めただけのことはある。ハルトは目を閉じたあと、穏やかな微笑みを浮かべた。

    「ふふ、じゃあ言っちゃおうかな。……笑わないでね?」

     意を決したように、ハルトは目を開けた。

    「僕は……絵本を探しに来たんだ」

     わずかに声を震わせながらも、ハルトは断言する。彼なりに勇気を出した言葉だったのだが、ミザエルの反応は予想外のものだった。

    「絵本……? それは何だ?」

    「あ、そっか。うーん……見てもらったほうが早いかな」

     拍子抜けしながら、ハルトは近くの端末を操作する。

    「こんな風に、大きな絵に文字が書かれてる感じの本だね」

    「ふむ……なるほど。幼児向けの本というわけか。確かに、お前が読むには幼いのだろうな」

     ミザエルはハルトが借りようとしている本に目をやった。中学生レベルのその本と、絵本。同じ人物が読む本としては、不自然な組み合わせと言える。

    「おかしい、よね……」

     ハルトは上着の裾を握りしめ、覚悟を決めてミザエルの返事を待つ。しかしそこで彼が口にした言葉も、やはりハルトの予想とは違っていた。

    「知らん。お前にとって、大事なものなのだろう? なら勝手にすればいい」

    「……!」

     突き放すような彼の言葉は――冷たいはずなのに、温かかった。

     ハルトは表情を緩ませ、再び口を開く。

    「ずっと昔にね、兄さんが読んでくれたはずなんだ」

    「はず……?」

     不思議そうに語尾を上げるミザエルに、ハルトは笑顔を向ける。その表情は、どこか寂しそうに見えた。

    「あんまり思い出せないんだ。父さんが兄さんたちに助けられる前のこと……。不思議な力を持ってたときは、ずっとぼーっとしてたし、その前のことも……色々あって」

     異能の影響を受けていた頃の記憶はほとんどない。痛みと疲労の中でただぼんやりと、兄の温もりがじわじわと弱っていくのを感じていた。そしてバリアンの支配の反動か、トロンによる介入の結果か――ハルトが正気に返ったとき、彼の記憶は大きく損傷していた。

    「覚えてなくても、困らないけど……大切な思い出だから。だから、思い出せるようなきっかけが欲しくて」

     具体的な記憶がなくても、自分が兄に、そして父に愛されてきたことは、確信できる。それでも――できることなら取り戻したい。ハルトの目には、強い意志が宿っていた。

     ミザエルは少し考えたあと、ハルトに問いかける。

    「だがお前が覚えていなくとも、カイトは覚えているだろう。カイトに聞けば、どんな絵本を読んでいたかわかるのではないか?」

    「そうなんだけど……でも、忘れちゃったことを、気づかれたくないんだ。兄さんは気にしないと思うけど、僕は気になる」

     幾多の困難を超えて弟を守り続けたことを、弟自身が覚えていないとしても。彼ならきっと意に介さず、むしろ心配するのだろう。それでも――守られ庇われているままではいられない。

     ハルトはいたずらっぽく口角を上げて言う。

    「だから――『僕の問題』だね」

     ミザエルは一瞬目を見張ったあと、口元を緩ませた。

    「フッ……そうか。なら、我々の目的は同じだったわけだ」

     きょとんとするハルトに、ミザエルは言葉を続ける。

    「我々は二人とも――カイトに報いるために、記憶の手がかりを探しに来たのだから」

    「そう言われればそうだね……お揃いだ!」

     そう言ってはしゃぎだすハルト。そんな彼を、ミザエルは目を細めて見つめていた。

    「お揃いついでだ。私も一緒に探そう。世話になった恩もある」

     その言葉を聞いて、ハルトは一層目を輝かせる。

    「じゃあさ、また二人で一緒にやろうよ! 僕の記憶探しと、ミザエルの記憶探し!」

    「一緒に……? お前の方はいいとして、私の方はもう一人で問題ないと思うが……」

     首を傾げるミザエルに、ハルトはニヤリと笑みを浮かべた。彼には珍しい、悪巧みの表情である。

    「色々調べて、参考文献や資料もある……なら、『レポート』にして、『プレゼンテーション』をするべきだと思うんだよね……!」

     それは――研究成果を切磋琢磨するための、戦いの手段。兄や父の背中を見てきたハルトにとっては、憧れの儀式であった。

    「ぷれぜん……何だ?」

     ミザエルの首は更に傾いてしまったが、ハルトは興奮に任せ、彼に訴えかける。

    「つまり、本気で兄さんに説明しようってこと! 兄さんビックリすると思う!」

     ハルトは両手の拳を握りしめ、体の前で激しく上下に揺らす。

     そんな彼の情熱に当てられたのか――ミザエルの顔にも、自然と悪い笑みが浮かんでいた。

    「……よくわからんが、カイトの意表をつくのは……面白そうだ」



     こうして、ハルトとミザエルは共同戦線を張ることとなった。

     データを集め、仮説を立て、その裏を取る。もちろん実際の聴き手を想定し、説明の練習をすることも欠かさなかった。

     ――半年後、数十ページのレポートとスライドショーを携え、二人はプレゼンテーションという名の決闘を挑む。

     そんな彼らの計画を、天城カイトはまだ知らない。



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