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    くろいぬ

    @kuroinu_4396

    いろいろなジャンルやキャラが好きな黒い人です。

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    くろいぬ

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    古賀くんと北野先生の話。

    #BP

    あなたに似合うのは 北野正念龍という教育実習生が毒竜中学校に来たのは、つい昨日のことだ。何でも英語を担当としているらしく、英語の中でも、特に英単語の発音にこだわった授業をしていた。Vの発音がどうとか、とか言っていた気がする。けれど、授業内容なんて全く耳に入ってこなかった。
     授業中、コインロールをしながら外を見ていたからだ。いつもの自分なら、授業を行う先生の顔はちゃんと見ているが、何故か北野先生の顔を見るのは少し恥ずかしかった。何故かなんて分からない。ただ、北野先生の顔を見る度に、ソワソワするような、落ち着かない気分になっていた。そんな気分を誤魔化すためにグラウンドを見ると、ちょうど別のクラスが体育の授業でサッカーを行なっていた。ちょうど良かった。しばらくはこちらを見ていてもいいはずだ。そう考えていた。手持ち無沙汰の状態を何とかするために、手先はコインロールに集中させた。ついでに、コインロールには微量の魔力コマンドを使用した。こうすると、コインロールが安定する気がした。
    「古賀時雨さん」
     柔らかい声が聞こえてきた。相手にそっと言い聞かせるような、たおやかな声。その声だけで、肩が跳ねそうになった。急に話しかけられたからと言って、こんなに驚いたことはない。なかったはず。視線を教室内に戻すと、北野先生が自分の席に寄っていて、その席に向かう自分を見ていた。その目は、いたずらっ子を見つめるような穏やかなものだ。それとも、少し困ったような、そんな目だろうか。
    「君はそんなに、私の授業が退屈かね?」
     授業が退屈、というわけじゃない。ただ、分からないだけ。授業内容とか、英語の問題が分からないんじゃなくて、北野先生がどんな人か分からなくて、どんな風に声を掛ければいいのか、どうやって関わりを持つべきか、それが分からないだけだ。
     ただ、それをどう伝えればいいのだろうか。違う、と言っても、グラウンドを見ていたのでは説得力はない。退屈と言い切ってしまっては、冷たい言い方になるし、北野先生に嫌な思いをさせる。それは嫌だった。困った。どう言えばいいのだろう?
     困りに困った自分は、ぶっきらぼうに言うことにした。
    「先生の授業は退屈ですよ」
     そう言った瞬間、北野先生はどこか悲しげに目の端をきゅっと下げた。泣きそうと言うわけじゃないけど、悲しそう。違う、自分はこんなことを言いたいんじゃない。そうじゃない。
    「Vの発音なんて、なんでいろんな角度から見る必要があるんですか」
     しまった。しまった。
     そうじゃないのに、違うのに。こんな乱暴なことを伝えたいんじゃない。なのに、なんて言えばいいか分からないまま混乱して、勝手に口走ってしまう。意思とは違うことなのに。
     北野先生は、今度はぎゅっと目つきを鋭くした。当たり前だ、悪いことを言ってしまったから。
    「そんなに気になるのなら、窓からでも飛び降りて参加してきなさい」
     そう言い切った瞬間、北野先生ははっとした顔つきになった。北野先生も自分と同じように、勢いのままに言ってしまった言葉にショックを抱いているらしい。分かる。よく分かるんですよ。痛いほどによく分かる。言うつもりがなかったことや、言いたくないことを言ってしまった時は、ぎゅっと心臓が痛くなる。自分の心臓が、胸が痛い。けれども、北野先生も痛がるように胸を押さえている。痛みを堪えるような面持ちの北野先生を見るだけでも、自分の胸の痛みは何倍にも膨れ上がる。北野先生は、唇だけを動かしている。音は聞こえてこない。
    『ごめんなさい』
     いいんです。自分があんな挑発じみたことを言ってしまったのが悪いんです。ごめんなさい。あなたのその辛そうな顔を見るのは辛い。だから、自分は『あえて』とんでもない生徒を演じましょう。そうすれば、少なくともあなただけが何かを言われることはなくなるはず。
    『だいじょうぶですよ』
     唇だけを動かして、その言葉を伝える。そして。
    「ありがとうごさいまーす」
     魔力コマンドを解放して、三階の窓からぱっと飛び降りる。コマンドを上手く調節して、無傷の状態でグラウンドの地面に着地する。グラウンドから三階を見上げれば、北野先生の顔が見える。驚嘆を隠せない顔だ。
     片手でピースサインを作って見せた。
     そうすれば、北野先生はほっとしたように穏やかな目をした。よかった。これで北野先生は大丈夫。
     グラウンドに着地した後は、サッカーに参加する気が失せたので、体育館裏で日向ぼっこをすることにした。

     ねえ、北野先生。
     自分は、北野先生には先生という仕事が似合うと思ってます。お世辞とか、社交辞令とかじゃないです。あなたは優しい人だから、自分の過ちにすぐに気づいて謝ってくれた。それが、嬉しいんです。そんな人だから、北野先生は先生に向いてると思いました。あの赤と黒のストライプシャツ、よく似合ってました。大人っぽくて、綺麗でした。でも、ボタンはちゃんと閉めてください。白肌がよく見えてしまって、少し困ります。それと、あの灰色のタイトスカート。あれもよく似合っていました。シャツの色とよく合っていましたよ。あなたには、黒と赤が似合うと思います。夜空の優しい黒色と、薔薇みたいな、美しい赤色が。
     また明日。
     また明日、あなたの授業を受けにきます。
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    くろいぬ

    TRAINING北野先生と古賀くん。
    私の星 聞いた話によると、今日は月が赤い日らしい。
     正式には皆既月食と言うらしいけれど、私は英語の教育実習生なので、理科はあまり詳しくない。だから、隣に座る古賀さんから何度も説明をしてもらっても、やっぱり月が赤いということしか分からなかった。古賀さんは私が説明を理解していないことに気付くと、月を指差した。
    「とにかく、月が赤くなってることが分かっていればそれでいいですよ」
    「それなら、私にも分かりますよ」
     数日目かの教育実習を終えた後、黄昏時に古賀さんとたまたま会って、私の自宅に招いて、一緒に夕食を食べて。そうして日が暮れて、月が昇って今に至る。教育実習生が実習先の学生さんと一緒にいるのはどうなんだろうと思ったけど、友人同士である大学生と中学生が一緒にいると考えれば、そこまでおかしいことではない、気がする。古賀さんも古賀さんで、オカルト部門にいる友人さん(九重八木七男さんと、須賀則男さんと、志賀末綱さんの三人と仲がいいらしい)のもとへ訪ねに行ったらしいから、ある意味それと同じなのかもしれない。だったらやっぱり、大学生と中学生が仲が良いのも、何らおかしくない。
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    くろいぬ

    TRAINING花本先生と夜の話。
    夜の鳥 空気が冷えている。日が沈んでいる。空が黒くなっている。
     日はとうに地平線の彼方に沈み、今や月が空を照らしている。自らの独壇場だと言わんばかりに、月が黒い空に浮かんではその光を灯す。星々は月に付き従うかの如く黒い空に散らばり、月の光を引き立たせるかのようにきらきらと小さく光る。強い光のもの、弱い光のものなど、その種類はさまざまである。他の人々や、ワタシの同僚たちは、とうに眠っているはずである。あるいは、眠る準備をしている最中であろうか。
     しかしながら、ワタシは眠れそうにない。
     どうしてだろうか? そう考えても分からない。ただ、稀にこのような日がある。目を閉じても、寝返りを打っても、毛布に包まっても。何をしたところで眠りに落ちることが出来なかった。身体の中に鉛が混じったかのように身体は怠い。ずっしりと何かがのしかかるかのようにずんと重い。身体は疲れている。疲れているはずなのに、目が冴える。重くなるはずの瞼は、未だに軽い。いくらベッドの上で待とうとも、眠気はまだワタシを眠りに落としてくれそうにない。代わりに、思考能力がワタシを覚醒の淵に立たせたままである。思考能力は働き、脳を働かせている。思考が巡るまま、ワタシは夜空を見上げた。
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