聖夜に祝福を「人間界ではクリスマスって言うんですけど、色々な飾りを用意して、木を飾り立てるんですよ」
「ふんふん」
「飾りがキラキラと光って本当に綺麗で…。それに、凄く美味しそうなケーキを食べるんです」
「へえええ」
放課後の準備室で、イルマの話を聞きながら、バラムが一生懸命メモを取っていた。
「あとはサンタクロースがソリに乗って子ども達にプレゼントを配ったり」
「ちょっと待って。サンタクロースって何?」
「えーと、赤い服を着て、白いモコモコしたおひげが生えているおじいさんですね」
「なるほど」
バラムの手元のメモ帳に、想像図が描かれていく。だがその姿は人がサンタやクリスマスと聞いて想像する様からは、かけ離れており…
「クリスマスプレゼントは、良い子にしてたらもらえるんですって」
「ふんふん、そこもうちょっと詳しく」
「えーと、でも実は僕プレゼントもらったことなくて……」
「そもそも、”良い子”という定義が曖昧だな」
「ちょっとカルエゴくん。今イルマくんから話を聞いているところだから」
仕事が片付いたので準備室に来たところ、ふたりが話し込んでいたので黙って話を横で聞きながら魔茶を飲んでいたカルエゴが横やりを入れてきた。
「だが気にならないか?どうやって”良い子”だと判断するんだ。」
「それはそうだよね。やっぱり試練とか与えるのかな」
「なるほど、全世界にいるであろう対象年齢の子供に対して、それぞれのレベルに応じた試練を用意して与えるとはサンタクロースとは相当な実力者だな」
「悪魔でいうと、9か10くらいのランクが無いと無理そうだよね」
「いやあの…」
何故か試練により"良い子"度合いを測るという前提で話が進み始めたことに驚き、イルマが話を遮ろうと口を開く。
「たいていの場合は、親が用意しているので…サンタクロースは口実というか…」
「え。そうなの?結局親が子にプレゼントしてるだけ?」
「なんだ、概念ということか」
「一応”サンタさん"という存在もいるにはいるというか…ただ、僕はそういう経験が無かったので…」
まともにクリスマスを過ごした経験の無いイルマには、これくらいが精一杯の説明だ。
「そっか、イルマくん……よし!僕らでクリスマスをしよう。ね、カルエゴくん。いいよね?」
「は!?なんで俺が」
「良い案ですね。さすがバラムくん」
「あんた、いつからいた!?」
いきなり後ろから登場したオペラに驚き、後ずさり壁に背中を貼り付けたカルエゴは冷や汗をかく。相変わらず神出鬼没で気配を掴みにくいこの先輩は、イルマのことになると目の色が変わる。
「あ、オペラさん」
「イルマさま、遅いのでお迎えに参りました」
「ありがとうございます」
「じゃあイルマくん、また明日」
警戒心を最大にしているカルエゴのことは横に置き、バラムが和やかにふたりを見送る。
今日は人間界でいうところの12月23日で、もうすぐクリスマスの日だ。たまたまそれに気付いたイルマが話題に上げた人間達の行事について、バラムが食いつき話し込んでいたが、気付けば外はすっかり夜になっていた。
「おい、お前本気か」
「ん?何が?」
「さっきの話だ。クリスマスを俺らでって」
「んー。要は木をキラキラするもので飾って、ケーキと赤い服を着たサンタさん?とプレゼントを用意したパーティーってことだよね。さっきイルマくんちょっと寂しそうだったし、せっかくだから、アブノーマルクラスの皆に声をかけてやってみない?もう数日後だし全部は無理かもだけど…」
気乗りしないカルエゴに対して、バラムはやる気満々だ。降魔の儀のように、皆を集めて何をしようかと考え始める。
長い付き合いで、バラムがこうと決めたときの頑固さはよく知っているカルエゴは、それ以上何かを言うことは止めて、黙って見守ることに決めた。
そして迎えた25日当日の朝。
イルマは登校しようとしたところをオペラに引き留められたために、いつもより少し遅めにロイヤルワンに到着して扉を開けた瞬間。
「「「クリスマスおめでとー!!!」」」
賑やかなかけ声とともに、数々のクラッカーが鳴らされた。なおここは魔界なので、飛び出るのは紙吹雪ではない。本物の火や水を噴く、種も仕掛けもあるクラッカーだ。ちょっと危ない。
そんな火花や噴水の中で、びっくりして目を丸くしながらイルマが見回した教室の中には、それぞれが想定した"赤い服"に身を包み、様々な形のカラフルなヒゲを付け、プレゼントを手に持つアブノーマルクラスのクラスメイト達がいた。
そういえば「メリークリスマス」というかけ声の話はしていなかったし、ヒゲの形や色も言っていない。当たり前すぎることの説明というのは忘れがちだが、そんな些細な差よりも、皆がクリスマスを祝おうとしてくれたことが、イルマには何よりも嬉しい。
「うん、クリスマスおめでとう!」
嬉しそうに満面の笑みで皆の輪の中に入っていったイルマの後ろに、壁にもたれながらその様子を見守っているカルエゴとバラムがいた。
「イルマくん喜んでくれてるね」
「ふん……」
つっけんどんに返しながらも、カルエゴはワイングラスを傾ける。今日のクリスマスのことを皆に知らせたのはバラムで、飾り付けに奔走したのはオペラだが、そのために一限目を自習時間に変更したのはカルエゴだった。
「融通利かせてくれて、ありがとうね。あ、もう一杯飲む?」
「たまたま授業の進捗が早かったので、一時間分の調整が必要だっただけだ」
「ふふふふ。そうだね」
バラムは笑いながらカルエゴのワイングラスにブドウジュースを注ぐ。
横からワイワイと聞こえてくるのはイルマを中心にした賑やかな輪で、どうやらプレゼント交換が始まるようで、歓声が聞こえてきた。その輪の中でオペラの赤い耳がピョコピョコ動いているのが見える……と、カルエゴが嫌な予感に見舞われた瞬間。
ボフン
「゛ーーーーーーーーーーーーー」
ピカッと光った瞬間にイルマの膝の上に移動したもふもふのモフエゴを見て、バラムも皆の中に進路を定めてすぐに突入する。
カルエゴの怒号が聞こえたが、それもいつもの恒例だ。
「イルマ!?」
「すみませんすみません!プレゼント交換なのに僕何も持って来てなくて!そしたらオペラさんが…」
「それなら、カルエゴくんのもふもふ権と交換で良いのではと」
「良くない!」
「ぼ…僕もプレゼント探してくるね」
「待てシチロウ。おまえまで参戦するな。探しに行かなくていい!」
「私もエギーせんせいモフりたい!」
「これは争奪戦の予感…」
「せんでいい!!」
結局、一限目どころか午前中いっぱいを使って行われたクリスマスパーティーは、昼休みの合図でようやく終わりを告げた。
生徒達と一緒に片付けをしていたバラムが、ようやく一段落をして隅で腕組みをしながら様子を見ていたカルエゴの側に戻ってくる。
「酷い目に遭った……」
そうぼやくカルエゴは、プレゼント交換抽選で、見事モフエゴもふもふ権を引き当てたバラムにふもふされている途中に普段の姿に戻ったせいで、髪の毛が見事にボサボサだ。
「まーまー。イルマくん、凄く嬉しそうだったから良かったじゃない。それに、僕も満足だし」
「そりゃ抽選で、オレを引き当てたからな……存分にもふれてヨカッタナ」
「うふふふふ。不正がないように見張る立場って、逆に悪用もできちゃうよね」
「おい、おまえ」
カルエゴが横を見上げると、黒い笑みを浮かべたバラム。
「……ま、構わんが」
成績評価でもないこの場所で、教師だからと欲に素直になることを遠慮しなくても良いのだろう。家系能力をフル活用したであろうバラムのことを咎める気は、カルエゴには無い。
それどころか、他の誰でも無いバラムに獲得されたことは、カルエゴ自身が望むところでもある。
「しかし、人間界のクリスマスとは、妙な習慣だな。……で、シチロウにはオレからのプレゼントは必要か?」
そう言いながらバラムの方を見上げて、にやりと笑ったカルエゴの意図は明確だ。
「もふもふ権は、イルマくんから貰ったプレゼントだしね」
「そう…「おまえたち、教室でいちゃいちゃは禁止です」 ……っ!?」
相変わらず神出鬼没なオペラが、ふたりの背後からにゅっと顔を出す。
「シ…シチロウ!!また放課後に準備室に行くから!」
今の会話を聞かれていたことに気付き、瞬時に真っ赤になったカルエゴは、慌てて教室から出て職員室の方に走っていってしまった。
「……先輩」
「おや、お邪魔しましたか」
分かった顔でにやりと笑うオペラを見て、バラムは苦笑いをする。
「カルエゴくんをあんまり、からかって遊ばないでくださいね」
「分かっていますよ」
そう言いながらもこの先輩が態度を改めることはないのだろう。可愛がってくれているのは確かだろうが……。
言いたいことを言えば用済みとばかりに、ひらひらと手を振りながら去って行く昔から変わらないオペラの姿に、バラムは今日の放課後にカルエゴへ出す魔茶の種類を検討し始める。
カルエゴには若干気の毒だが、彼に優しくして感謝されるのは自分だけで良いのだ。これは昔から抱き続ける、バラムの悪魔らしい独占欲だった。
「メリークリスマス、か……」
先ほどのパーティーで、イルマから改めて教えられた人間界でのかけ声を口に出してみたバラムは、クスリと笑う。
「僕からのプレゼントは何にしようかな~。イルマくんのおかげで、楽しいクリスマスの夜を過ごせそうだよ」
いつの間にか、生徒の皆も昼食に出て行ったらしい。がらんとした静かなロイヤルワンで、その独り言を拾う者はいなかった。