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    @DearTimbre05

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    例の部屋の話

    例の部屋「相手を殺さないと出られない部屋」

     「…。」
     「…。」
     気付いたら真っ白の何も無い部屋にいたバラムとカルエゴは、ふたりで壁に書いてある文字を眺めていた。
     「……ナニコレ」
     「…とりあえず、出るか。ケルベロビュート!!」
     しばらく後におもむろに、カルエゴがケルベロスを呼び出し、あらん限りの力で壁を攻撃する。だが、壁に入ったように見えた亀裂はすぐに元に戻り、次の瞬間その壁から、先ほど放ったケルベロビュートがカルエゴに向けてほとばしってきた。

     「カルエゴくん!?」
     「ちっ!跳ね返すのか!」
     不意を突かれたものの、すんでのところでその自分自身が放った攻撃の反射を避けたカルエゴは、瞬時に状況を理解した。
     「これは…」
     「厄介だな…」
     試しにバラムも壁に向かって拳で軽いジャブを放ち、すぐに跳ね返ってきた衝撃を受け止めてその現象を確認する。しかも全く同じ威力と言うより、少し威力が上がって返ってきているようだ。ふたりで目を合わせ肩をすくめ合う。

     「これはまた、古い魔具の呪術のような雰囲気を感じるよね」
     「古い呪いは、それ以上生きている悪魔で無い限りは基本的に太刀打ちできんな」
     長く生きるに従い力も強くなる傾向のある魔界において、魔具や魔道具はそれが顕著に出る。今のカルエゴの手加減しない一撃をたたき付けられたあとの反射速度と威力を考えると、簡単に出られそうもない。

     「単純に考えると、あの壁に書いてあるのが呪いを解くキーワードだけど…」
     「相手を殺すとは、決闘でもさせたいのか」
     「まあそうかもね。悪魔らしく、はっきりと白黒を付ける決闘のために作られた魔具かも」
     「ふん…さもありなんだ」
     ふたり一緒に閉じ込められる魔力のある魔具だ。ふたりで力を合わせたとしても、壊せるとは限らない。しかも増強されて一瞬で反射されることを考えると、下手したらそのふたりの攻撃により、ふたり揃って命を落としかねない。
     何か方法はないのだろうか、しばらくふたりは沈黙して、それぞれに策を考える。


     「…カルエゴくん」
     「待て、お前の考えていることは分かっている」
     「分かってるなら話が早い」
     「早くなくて良い。聞かんぞ、それは。それより俺が…」
     「それは聞かない」
     「おい」
     お互いに、お互いが言わんとすることは分かっている。
     牽制しあったあとに、再び沈黙が続いた。
     

     「やっぱり」
     「いや、ダメだ」
     「でも」
     「俺にできると思うのか!?」
     「僕にだって、できるわけないよ!!」
     「俺は聞かんぞ!」
     ふたりで、ギリギリと歯ぎしりをしながらにらみ合う。

     「カルエゴくんは!バビルスの番犬で!絶対に、居なくなっちゃダメなんだ!」
     「そんなの知るか!俺は!お前がいなくなったバビルスなど!!」
     「僕は君の死ぬ姿なんて見たくない!!!」
     「俺だって見たくないわ!お前が死ぬなんて、許せるか!!!」
     堂々巡りが続くその時間を構成しているのは、お互いへの想い。学生時代からずっと続く、その関係に"腐れ縁"と名前を付けた、その言葉に隠された相手への深い想いが、溢れそうになっていく。

     「僕は、そんなの許さない!!」
     「おい!!シチロウ!?」
     魔力が互角だとしても、体格も力もバラムの方が強い。バラムがカルエゴの両手を掴み、自分の首に押し当てる。
     「シチロウ、離せ!!!」
     必死に抵抗してその手をはずそうともがく体を全身で押さえつけ、バラムはカルエゴの手に添えた自らの手に力を入れる。ギリギリと絞めていくが、当然自分で自分の首を絞めて殺すところまでいけるわけはない。だがそれも計算のうちで、次の手は考えている。

     「シチロウ!!止めろ!!!」
     少し薄くなっていく意識の片隅で、カルエゴに悲鳴のような叫び声が聞こえる。
     自らの手をバラムから引き剥がすべく放ってきた、カルエゴの魔力による攻撃に、バラムは自分の魔力を全力でぶつけ返して、壁に向けてその方向を逸らす。
     すぐにカルエゴをその大きな体の下に押し込めて隠すことにより、その増幅されたカルエゴの魔力とバラムの魔力による反射攻撃を、バラムは一身に浴びた。

     「うわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ」
     カルエゴの絶望に満ちた叫び声が意識の遠くで聞こえたのが、バラムの最後の記憶だった。


     「………。」
     反射攻撃が収まり静まり返った部屋の中で、倒れたバラムの横にカルエゴが俯いて座っているその床に、ポタポタと大粒の水滴が落ちていく。
     「………バカヤロウ」
     力なく落ちたカルエゴの両腕の先で握りしめた拳が震えているが、いつものように隣でそれを静めるべく声をかけてくれるバラムは、横たわったままで微動だにもしない。

     キイィ…

     静かな空間に響いたその音に反射的にそちらを見たカルエゴは、先ほどまで何も無かった空間に開いた扉を目にした。
     カルエゴは緩慢な動作で倒れたバラムの腕を掴み起こしてその巨体を背に背負い、立ち上がってゆっくりと、扉に向けて歩を進める。

     「…。」
     扉から出た場所はバビルスの人気の無い裏庭だった。ふたりの体が出た瞬間に、その空間から扉が消え去ったのを、カルエゴは振り向いて確認する。バラムを担ぎ、何も無い空間を見つめる目は暗い闇の色だ。

     ゴゥ…ゴゥ…ゴウウゥン…

     その時、その何も無い空間からうなり声が聞こえ出す。

     ゴゴゴゴ……ボオォオォン!!!

     いきなり空間がはじけ飛び、大きな音と共に木片のようなものが辺り一面に飛び散った。
     暴風の中で風に混じる破片がカルエゴの頬を掠め、擦り傷を作る。

     「……ニギニギ草の威力には勝てなかったようだな」
     暴風が落ち着いたあとに、カルエゴがボソリと呟く。自分たちが中にいるときは押しつぶされかねないので使わなかった手段だが、バラムを担ぎ扉を出る間際にカルエゴは、ニギニギ層の種を二粒落としてきた。使った水分は、自分が零した涙。
     目に見えなかったその空間が壊されていくのを見たカルエゴは、今回の事態がようやく収束したことを把握した。だが問題は…。



     「……おい、そろそろ起きろ。重い」
     背に担ぎ上げられて微動だにしないバラムに、カルエゴは声をかける。 

     「……無事に出られて、何より」
     魔術が弾け、背中でモゾリと動いたバラムの返事が聞こえた。

     「結果的に出られたが、あんな馬鹿なまねは止めろ。いくらお前が丈夫だからと言っても、あれだけの攻撃だ。しかも俺がその意図に気付かなかったり、万が一タイミングがずれていたら、本当に死んでいたぞ」
     「カルエゴくんだから、大丈夫かなと思って。イテテ」

     あの時あの瞬間、首が絞まり切る寸前に、カルエゴはバラムの意図を察してコールドスリープの魔術をかけた。呼吸も止まり深い眠りに入るコールドスリープは、息が止まることと同時に体に対する保護魔法も発動する。全ての攻撃力を無効化することはできないが、ダメージの軽減はできる。結果として、増幅された反射攻撃は、バラムに致命傷を与えることができない程度の効力しか発揮することができなかった。

     「…だがほんとうに、お前を殺してしまったかと思った」
     一度は味わいかけた絶望の気持ちは、心に深い傷跡を残す。
     初めて見たレベルで沈んだ声と顔のカルエゴを、バラムは両腕で抱きしめた。
     「ごめんね…でも僕は、万に一つでも君を失うことが耐えられない」
     「お前を亡くしても俺が平気だと、何故思った」
     「思ってないよ。思ってないけど…ごめんね」
     いつかは訪れる永遠の別れ。それでも共に生き、共に死にたい。

     「君の心を傷つけた代わりに、もし君が死ぬときは、僕にとどめを刺させて。次は僕がその傷を負うよ」
     でもきっと、僕はすぐに君を追いかけてしまう。
     続くその言葉は音を発しなかったが、カルエゴにも伝わっていたのだろう。
     誰もいない静かな放課後の校庭に月明かりがさすと、音を無くし抱き合うふたりの影が、浮かび上がっていた。
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