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    芦緖(あしお)

    @futa2ai

    20↑shipper。 ふたあい(二藍)はイーベン小説中心に活動中。M:I(イーベン)、 TGM(ハンボブ、ルスマヴェ)、忍たま(こへ長)の話題多め。字書きですが、絵を描くのも好き。
    通販(基本イベント開催前後のみ公開)→https://2taai.booth.pm/

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    芦緖(あしお)

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    #秋のダークサイドベンジーまつり
    素敵な企画がありましたので、これは参加せねばと書いた話になります。イーベンです!
    時系列はMIDR後。

    #イーベン
    eben
    #秋のダークサイドベンジーまつり

    棺の中で良い夢を 人の急所というのは案外多い。腎臓もその一つだ。刺されれば熱を伴った激痛が走り大量出血する。すぐさま手当を行わなければ失血死するだろう。
    「痛いよな、イーサン」
     後ろからイーサンを抱き締めていたベンジーは、まるで睦言を囁くような声で話しかける。二人の足元にはすでに血が溜まり、そこにベンジーが握っていたナイフが落ちた。
    「でも、すぐ楽になる」
     身体が支えられなくなって床に膝をついたイーサンを、今度は前から抱き締めてベンジーは背中を優しくさすった。
    「イーサンのための棺を作ったんだ。いくら仲間っていってもガブリエルにお前を触らせるのは嫌だし、エンティティに実験材料にされるのも嫌だしな」
     言葉の意味はわかってもベンジーの言っていることをイーサンは理解できなかった。理解したくなかったという方が正しいだろうか。
     ガブリエルを仲間と言ったベンジーは、微笑むと少し離れてどこかへ行き車椅子をおして戻ってきた。無理に身体を持ち上げられると、傷が刺激され痛みが走る。
    「ここにはネットもカメラも何もない、完璧にオフラインの場所だ。俺とイーサンしか入れない。最高だろ?」
     車椅子をおしながら部屋の奥に進む。セーフハウスだと案内された家は始めこそ普通の家だったが、地下だけは異質だった。窓も何もない部屋に黒い箱が一つ。ベンジーの言っていた『棺』だろう。
    「ははっ、イーサンは鍛えてるから重いな。ちょっとぶつけちゃうかも。ごめんな」
     言った通りスムーズに移せず身体が棺にぶつかる。しかし今度は痛みがなかった。
     棺に寝かされると、ひんやりとした空気が身体にまとわりつく。見上げた先にあるベンジーの顔は、照明によって逆光気味でよく見えない。
    「ベン、ジー……」
    「お疲れ様、イーサン」
     ようやく出せた声は掠れていて、名前を呼ぶだけで精一杯だった。ベンジーはイーサンの両頬に手を添えると、そっと額を合わせる。
    「お前の相棒は楽しかったよ」
     ベンジーの言葉に何一つ嘘はなかった。
     なのにイーサンを刺して、棺につめて、去っていこうとする。ガブリエルやエンティティの元へ。
    「さようなら」
     額が離れて、ゆっくりと棺の蓋が閉められる。
     暗くなっていく視界の中、最後までベンジーの表情は見えなかった。




    「これで満足か?」
     セーフハウスから少し離れたカフェでベンジーはガブリエルと対面していた。
    「鍵はもうイーサンが隠した後だった。時間をもらえるなら探せると思うけど」
    「彼に手出しさせてもらえなかったのは不満だが、まぁ問題ない。鍵も、そうだな……彼がいないならゆっくり探せばいい」
     少し前まで敵同士だったというのにすんなりと話が進む。刺すところも見せているし、何かトリックがないかも確認済みだからだろう。疑われないのはありがたいが、ベンジーがイーサンを刺したのも棺に入れたのも紛れもない事実なので疑念を持たれたとて特に問題はない。
    「ようこそ、ベンジャミン・ダン。あのお方も喜んでいる」
    「……何で俺なんかを気にいったのか知らないけど、選んでもらって光栄だよ」
     列車で鍵を奪った後にエンティティから接触があった。その時に見た、アレの一端。電子の世界に触れたものでアレに興味を抱かない者などいるだろうか。
    「君は十分魅力的だ」
    「あんたに言われてもね。で、俺の仕事は?」
    「君にはあの方のそばで働いてもらうよ。実働部隊は多くても、あのお方のバックアップができる人間が少なくてね」
     飲んでいたコーヒーのカップを置いて、ガブリエルはテーブルに腕時計を置いた。彼自身がしているものと同じ時計だ。
     画面には人間の目のようにきょろきょろと動く情報網が映し出されている。それを身につけるとベンジーは立ち上がった。
    「それにしても、君がイーサンを殺すのは意外だったな」
    「あんたと一緒さ。……他に取られるのはごめんだ」
    「ははっ……やはり、君は面白い。あの方のために我慢した甲斐があったよ」
     ガブリエルも立ち上がり、先に街の中へと消えていく。その姿を見送ると、ベンジーも時計が示す場所に向かってゆっくりと歩きだした。




     けたたましい警告音の中で、ベンジーはひたすらキーボードを叩いていた。できるだけ多くの情報をルーサーの元へ送れば、邪魔をされても少しはデータが生き残るだろう。
     イーサンを刺して信頼を勝ち取ったこの一ヶ月。ベンジーはエンティティのサポートを何一つ問題なくこなした。そのおかげでエンティティとの関係は、ガブリエル程とはいかなくともかなり親密なものになった。
     まだ生まれてまもないAIはいくらすごい力を持っていても、幼く好奇心の塊だ。そのおかげでできる隙、それを突くには近くにいることが必要だった。
     そして好機はやってきた。
    「これで俺のできることは最後かな」
     完全にネットワークが遮断されて打つ手がなくなったベンジーは、その場を離れ、逃亡用に準備していたルートを進んでいく。部屋を出る前に見たエンティティは怒り狂っていて、いろんな機械がショートしていた。
     あそこまで怒らせて逃げ切ることは不可能に近いが、混乱が広がればその分与えられるダメージも大きくなるはずだ。
    「ったく、対応が早くて困るねッ……!」
     純弾が頬をかすめ、追いかけてくる人数も増えてきた。仕掛けておいた罠のおかげでなんとか施設の外には出れたが、そう長くは持たないことはわかっている。
     身を潜めながら、ベンジーは最後に見たイーサンの顔を思い出していた。刺した感触はいまだに覚えていて、手が震える。
     計算通りに事が進んでいれば、今頃イーサンはジュリアがいる医師団に手当され回復しているはずだ。
     エンティティ対策で文書化された軍事機密を盗んで、医療カプセルを密かに作った。棺に偽装したがしっかり止血も呼吸管理もできていた。それにホームレスを使って手紙というアナログな手段でジュリアにセーフハウスの場所を伝え、部屋に入るための地下通路も教えた。あの部屋は集落の古い共同地下防空壕だ。久しく使われていない、地域の人間しか知らない秘密の部屋。
     日時を指定し、別の家から急患を装って運び出すように指示もした。ジュリアなら意図を汲んで、上手に動いてくれただろう。
    「怒ってるかなイーサン……」
     イーサンの場合、刺したことより相談もせずに動いたことに怒りそうだが、それもベンジーがイーサンを愛しているからこそだった。
     エンティティに接触された時、その力の片鱗を間近で感じたベンジーは怖くなった。今度こそイーサンを奪われるかもしれない。世界のために、仲間のために犠牲になることを厭わないイーサンが相手にするには、あまりにもエンティティは強大だった。
    「……明るくなってきた」
     白んできた空を見上げて、残り時間が少ないことを悟った。エンティティの能力ならば、この場所もあと三十分ほどでバレるだろう。逃げる自分に注意が向いて、施設に仕掛けたウィルスと爆弾に気づいていないとありがたい。本体ではないが、確実にダメージは与えられる。
    「はっ……予想より早いな……」
     遠くに足音が聞こえて、ベンジーはナイフを構えた。銃はとっくに使い切り、武器はこれしかない。
     背後に近づいてくる気配に、覚悟を決めて襲いかかった。最初の攻撃はかわされて、そのまま手足を掴まれ地面へと押し倒される。
     あっけないなと思いつつ、ベンジーは身体の力を抜いた。やれることはやったのだ。後悔はない。
    「……僕をおいて、君はどこへ行くつもりだったの」
     しかし上からふってきたのは銃弾でも、ナイフでも、拳でもなく、ここにいないはずのイーサンの声だった。
    「おまっ、どうして……!」
     いくら一ヶ月経っているとはいえ、あの怪我でここまで動けるはずもない。けれどたしかに目の前にいるのはイーサンだ。
    「僕をエンティティから遠ざけて、自分だけ消えるつもりだった? 君が……君が、そばにいるって言ったのに?」
    「……そうだよ」 
    「いつも不可能を可能にするって言ってたのに、僕を信じられなかった? こうして君を見つけることだってできるのに」
    「信じてるさ! でもそこにお前の命は入ってないだろ! 世界のために使うのを躊躇わないじゃないか」
     もう見ることは叶わないと思っていたイーサンの姿に感情が昂って本心が口をついて出る。
     不可能を可能にするイーサンに憧れた。自分の提案する無茶を、それでもやってのけるイーサンに目を奪われた。
     でも今はそれが怖い。
    「…………世界を救っても、君がそばにいなきゃ意味がない」
     まっすぐ顔が見れなくて視線を逸らしていたベンジーは、イーサンの言葉に視線を上に向けた。いつもの優しい瞳が自分を映している。
    「一緒に戻ろう」
    「俺っ、お前を、刺したのにっ……」
    「ジュリアが言ってたよ、死なないギリギリの位置だって」
    「お前が、もう戦わなくてもいいようにって、イーサンを守りたかったのにっ……!」
    「わかってるよ」
     一度たがが外れると、今まで抑えていた感情が溢れ出て涙が止まらなかった。
     ぼたぼたと溢れる涙をイーサンが拭って、ベンジーを抱き起こす。
    「おかえり、ベンジー」
    「っ……ただいま、イーサン」
     ベンジーはイーサンの鼓動を確かめるように胸に顔を埋めてその身体にしがみついた。
     イーサンも自分の元に戻ってきた大切な存在を、もう手放さないように強く抱き締める。そして暗闇に掠め取られないようにしっかりと手を取ると、二人のいるべき場所に向かって走り出した。

    〈了〉
     
     

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