夜明け前の傅き 俺はハンドリムに手を掛けて、いつものように鉄の柵を潜り抜けた。石畳などなく、土は露出し、無数の「名残」が至る所に顔を覗かせているその場所は、車椅子で進むには不適切な場所だ。また区域内は緩やかな坂になっている。今の自分の過ごしかたにも多少は慣れてはきたが、一人ではあの巨木の下へ行くなど不可能と言ってよかった。
俺は花畑の途中で進むのをやめた。そして目を閉じ、深呼吸する。
すると間もなく「気配」を感じた。目を開けば、既に頭上は青ざめた血の空に変貌していた。呼ぶ者の声に応えた「感応する精神」は、俺の前へと静かに降り立って、俺を車椅子ごと抱きしめた。
眼前の存在に包まれたまま、俺はその痩せた巨躯に手を触れる。樹皮のように粗い肌は、けれど確かに温かい。その存在に「血」が流れているのだということを表している。だがそれは常に「流れ出ている」。巨躯のあらゆる箇所から。
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