Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
    SNS等のリンクまとめ→https://lit.link/swr2602

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 365

    🥗/swr

    ☆quiet follow

    2018/04/21 過去作投稿
    ---
    第6話でゲンブの頭に向かっていた時のジークとサイカの話。
    過去に二人はゲンブの頭に行ったことがあるという捏造があります。(2022/07/07)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    嘘の中の真「──たく、何でこないに王都から離れたけったいな場所にあんねん」
    銀髪の少年は深い雪に覆われた大地を踏みしめながら不満げにぼやいた。
    「そないなことウチに訊かれてもなあ……。ご先祖様に言いや」
    その声に返すのは、短い緑髪の少女の姿をしたブレイド。サイカは降り積もった雪に足を取られないよう注意しつつ、ちらりと少年を見やった。少年は慣れた足取りで自分の前をさっさと進んでゆく。肉体を得てまだ一年も経っていないブレイドと、生まれた時から雪と氷に覆われた大地で過ごしてきた少年とでは、さすがに歩む速度が違っていた。
    だが少年──ジークは突然くるりと振り返った。
    「サイカ」
    手のひらを差し出す。サイカがその手を握ると、それをぐいと強く引っ張った。
    「いつもの格好で来るからやぞ?気いつけや」
    やや呆れた口調で話しかける。だがその裏に隠れていたのは、ゲンブの環境に慣れ親しんでいる自分とは違い歩みが遅れがちになっていたサイカへの、彼なりの気遣いだったようだ。サイカはその不器用な優しさについ顔を綻ばせた。
    「おおきに、王子」

    ジークとサイカが向かっていたのはゲンブの頭部だった。いかめしく立ち並ぶ聖大列柱廊を抜け、その先の開けた廃墟からさらに進んだ最奥部。そこにあるのがゲンブの制御を司るルクスリアの至宝──『神聖なる鎖』だった。
    ゲンブは潜行型の巨神獣だ。ルクスリアは鎖国を敷いていた為、一部の例外を除いて常に雲海に潜行した状態を保たれている。その制御にあたり、ゲンブは数年から十数年に一度、王家の者とサイカが直接神聖なる鎖を通じての調整を行う必要があった。その調整を国王ゼーリッヒから依頼されたジークは、己のブレイドと共にこの頭部の遺跡へ向かったのだった。
    聖大列柱廊を抜けてゆくと、大きく開けた場所に出た。二人はその瓦礫まみれの光景に息を飲んだ。
    ──その場にはかつての「聖杯大戦」の傷跡が残っていた。
    「……ああ、ゲンブも戦いの地になったんやったな。ゲンブは沈んだユーディキウム程の傷は負わんかったみたいやし、下層は長いこと人も住んでへんからそのまま残ったか」
    ジークは当時の戦いの様子に思いを馳せるように崩れた瓦礫を見回した。そして後ろで同じように辺りを観察していたサイカへ顔を向ける。
    「サイカもその頃からアルストにおったんやろか?」
    「んー、多分おったと思うで。……ま、覚えてへんから何とも言えへんけどね」
    その返答にジークは違いないと言うように笑い声を上げた。

    そして二人は頭部へとたどり着いた。サイカがその扉の前に立ち、コアクリスタルに触れる。すると一筋の光が遺跡に向けて放たれ、堅く閉ざされていた扉がゆっくりと開いていった。ジークはそれを確認し、その内部へと歩みを進める。
    「親父が言うとったのはこれか?」
    ジークは内部の中心にある操作盤らしきものに気づいた。ジークが慎重な手つきでそれに触れると、ギギ、と軋むような音を立てて、遺跡の中心から黄金の球体が現れた。黄金はすぐに回転を始めたかと思うと、その封印を解いて内部にしまい込んでいた青い物体を二人の眼前に晒した。
    「──これが『神聖なる鎖』」
    ジークの目がにわかに高揚で輝きだす。
    「サイカ、調整!調整するんやろ!」
    早くその様子が見たくてたまらないのだろう、彼は興奮で隣のサイカにずいと詰め寄った。サイカはそれに苦笑しながら一歩神聖なる鎖に近づき、手を伸ばした。
    「はいはい、ちょっと待ってえな」
    サイカの指が青い立方体に触れる。その瞬間、身体を駆け巡るエーテルの流れが速くなるような、不思議な感覚がサイカを包んだ。この世に肉体を得て降り立ったあの瞬間の、透明な心地よさにも似ていて。サイカはゆっくりと瞼を下ろそうとし──
    それが完全に閉じようとしたその時、コアクリスタルにずくんと不快な熱が走った。
    「ッ!!」
    思わず目を見開く。だがそれはあまりにも刹那の出来事であった。サイカは自分のコアクリスタルに目を落とし、そしてもうしばらく神聖なる鎖に手をかざし続けた後、その手を静かに下ろした。
    「……ん?サイカ、もう終わりなんか?」
    あっさりと手をかざすのをやめたサイカに、ジークは拍子抜けしたと言いたげに目をしばたたかせた。
    「うん、終わりやで。……どしたん?」
    「いやだって……、何かこう、おもろいことが起きるんちゃうかなと思っとったんや!例えばやな、バシバシーッと!部屋中にものすごい雷光が走る……とか!」
    相変わらず想像力の豊かな少年である。その言葉にサイカはくすりと笑みをこぼした。
    「はいはい、おもろなくて悪かったなぁ」
    「あっ!サイカ、何わろてんねん!!」
    不満げに頰を膨らませるジークを横目で見ながら、サイカはそっと己のコアクリスタルに触れた。
    既に不快な熱は跡形もなく消えていた。まるでそれが錯覚だったのではないかという気がした。
    しかし、サイカの胸に現れた違和感は消えなかった。

    サイカはあることに気づいたのだ。
    『神聖なる鎖』。ルクスリアの至宝。この青い物体はコアクリスタルによくよく似ている。──いや、真実コアクリスタルと“同質”の物体だった。触れたサイカには、それがすぐに理解できた。
    サイカはジークと共に読んだ聖杯大戦についてのさまざまな書物について思い返した。
    神聖なる鎖は、元々どこにあったものだったか。ごく僅かながらその元の在りかが書かれていた書物があった。そう、確か「サーペント」と呼ばれるもののコアであるという記述があった気がする。サイカはよく知っているつもりだった。神聖なる鎖がゲンブの制御に使われていることも、そしてそれによってルクスリア王家が起こされたことも。
    ──しかし、これは。何かがおかしい。
    これによって王家が起こされたなら、これは国の始祖であるアデルに深い関わりがあるもののはず。
    これは、ゲンブが発生させたものではない。これはブレイドのコアでも巨神獣のコアでもない“何か”だと、あの不快な熱が教えてくれた。すなわちサーペントは、ブレイドでも巨神獣でもない“何か”。
    このいかにも後付けされた「制御コア」。自分にも存在するコアクリスタル。それと全く“同質”なもので構成されている“異質”な物体。『神聖なる鎖』……大仰な名前である。しかしゲンブの制御ならサイカだけでも可能なはずだ。
    わざわざそんな異質な物体でゲンブを制御している理由は何か。
    そして、その至宝をこんな王都から遠く離れた辺境の地に封じ込めている理由は何か──


    「──しっかしなんちゅう力や、ゲンブを制御するなんて!」
    高揚した少年の声に、サイカの思考は中断された。サイカは慌てて声のした方へと振り向いた。
    「ゲンブはこないにでっかい巨神獣やっちゅうのに。さすがやな、サイカ」
    ジークはサイカの力に酷く感嘆し、興奮していたようだった。その姿にサイカは気をとりなおし、わざと得意げに眼鏡を持ち上げた。
    「……驚いたやろ?他のブレイドには出来んウチだけの力なんやで」
    ジークはそれを受け、嬉しそうに頷くと強く両手の拳を握りしめた。
    「こうしちゃいられんな、ワイもサイカのドライバーとして、ルクスリアの王子として、……もっと相応しい者になってみせるで」
    「──王子」
    その言葉にサイカは言葉を詰まらせた。気づいてはならないことに気づいてしまったような気がした。サイカは微笑みで感情を塗り潰してジークを見つめることしかできなかった。
    サイカは再び青い物体に目を向けた。静かに輝く神聖なる鎖。本来ならゲンブのコアとは無関係な異物。目を煌めかせている傍らの少年はそれが異物だと知らない。彼が知っている歴史は「『神聖なる鎖』がこの国を興す手がかりとなった」ことだけ。

    サイカは意気込む少年に向けて笑いかけた。うまく表情を作れているだろうかという不安がよぎった。けれど、今彼にそれを悟られたくはなかった。
    「──王子ならきっとなれるで。心配あらへん、なんせウチが付いとるんやからな」

    ---

    「どしたんやサイカ」
    すっかり聞き慣れた声が、サイカを呼んだ。それは傍らに立つドライバーの声だった。
    「……もしかして、動くのは辛いんか」
    ぼうっとして立ち止まっていたサイカが顔を上げて見た彼は、心配そうに眉をひそめていた。サイカはそれに向け、軽く首を横に振った。
    「──いや、ちゃうよ。心配あらへん」
    「はあ、ならええけど」
    ジークはその返答を聞いてふうとため息をつく。そしてサイカに呼びかけて止まっていた歩みを再び進め始めた。サイカもそれを追う。そう、立ち止まっている場合ではなかった。今は一刻も早くゲンブの頭部へと赴かねばならない。制御から外れて暴走し、雲海の底へと沈もうとしているこの巨神獣を止める為に。だがゲンブの暴走で苦しげに倒れかけた先程の己のブレイドのことを思い出したのだろう、彼は物思いにふけるうちに足を止めていたサイカを憂いて声をかけたのだった。
    「サイカ、何かあったらすぐ言いや」
    「おおきに王子。けどあとちょっとやし、平気平気」
    「ほんなら助かるがな。……さっさとゲンブを正常に戻すためにはサイカにも来てもらわなあかん」
    ジークはそう言いながら冷たい雪の道をまっすぐ歩み続ける。サイカはそれに続きながらその背中をじっと見つめた。その雪の降り積もった大地を踏みしめてゆく姿は、どこか緊張感が漂っていた。
    今まさに沈んで消えようとしているこのルクスリア。そしてそこに生きている民。それを守りきらなくてはという意志。サイカは今の彼が案じていることが手に取るように分かった。
    ──つい先刻、自身の誇りとしてきたものを根底から覆されたばかりだというのに。
    信じて疑わなかった自身のルーツ。それが偽りであると詳らかにされたばかりだ。秘匿されてきた国の成り立ちは、五百年振りの外部からの接触により遠からず全国民にも知れ渡ることになるだろう。そしてそれを受け入れられず自暴自棄に陥る者達は少なからず現れるであろうことも容易に想像がつく。
    サイカはどれだけジークがアデルに憧れていたか、英雄の末裔であることに誇りを抱いていたかを知っていた。
    だが彼はこの非常事態において、嘆き憤るよりも先に己がすべきことを優先した。

    「この国を守らんとあかん」
    ボソリとジークが呟いた。サイカはその言葉に反応して拳を握る。ジークは足を止め、硬い顔つきのままサイカへと振り返った。
    「サイカのドライバーとして、ルクスリアの血族として。──絶対に」
    普段は呑気で明るい彼が厳しい表情を崩さず紡ぐ言葉は、ずしりと重かった。
    「……分かっとるよ、王子」

    始祖が如何な術でこの国を興したのかなど最早関係なかった。彼はその責務を果たそうとしていた。
    彼の瞳に表れた意志の光を目の当たりにし、サイカはゲンブが暴走した瞬間から感じていた息苦しさが僅かに和らいだ気がした。
    ああ、変わりはしない。初めてゲンブの頭部に訪れたあの時も、そして再び赴こうとしている今も。

    彼は誰よりもルクスリアを想う者──“ルクスリア王家の血族”なのだと。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    recommended works