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    んなんな

    @k38fa6p

    いえすでよろしくお願いします(ヒントのつけ方がわからないんなより)

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    んなんな

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    付き合ってる門梶。原作軸後。欠損ややあり。
    梶ちゃんの肺活量をキスで測る門倉さんが書きたかった。
    貘さんにはキモイと言われずに泣かれた。

     脱がせた黒シャツの下にはその胸を裂くように縦に傷が走っていた。
    「あの、これはですね!先日ちょっと賭けでミスしまして!」
     騒々しく言い訳を募る梶を無視して、門倉は指先で傷をなぞった。
    「わし、知らんのじゃけど」
     これほど大きな傷ならきっとしばらく伏せっていた筈だ。
     となると連絡が途絶えた先月のあの辺りか? いや、先々月にも急に音信不通になったからそこか?
    「なんかほら、傷まで貘さんとお揃いなんてキモイって言われそうで」
     だから黙っていました? これだけの傷を負ったけど、恋人には知らせませんでした?
    「心配するよ、普通に。わし、梶の恋人なんやし」
     門倉が大きくため息をつくと梶は少し俯いた。
     右回りのつむじを眺めていると少し泳いだ視線がまた門倉へと戻ってくる。
    「あ、でも、貘さんとは違って、心臓はそのままなので。そんなに心配するようなこともないですよ!」
     いや、そうではなくて。
     梶隆臣という男は万事こういうところがある。
     こちらの心情とは全く別の路線に言い訳を作る。それがわざとなのかは知らないが、空回らせて逃げおおせようという姿勢は今回ばかりは悪手だった。
    「梶がそういうんならええけど」
     傷に手を置いて梶の唇に噛み付く。
    「……ん、むッ……っふ、」
     ぴったりと塞がれた梶の口が酸素を求めて喘いだ。それに気づいても呼吸する合間を許さずに梶の口を啜る。
     抗議するように何度か胸板を拳に叩かれて、ようやくその唇を離した。
     咳き込みながら空気を得ようと肩が上下する。
    「肺活量、減っとるよ。ちょうど肺ひとつぶんくらい」
     そう指摘してやると深呼吸を繰り返していた身体がぴたりと硬直した。
    「立会人って、そんな人間測定器みたいなこともできるんですか?」
    「ううん。わしが梶の恋人やからよ」
     そりゃあしばらく会えてなかったけど。でもキスする時に恋人の息がどれだけ保つかくらいは覚えている。
    「……すみません」
     それは嘘をついたことに対して? それとも肺を失くすような無様な負けをしたことに対して? もしくは門倉に何も告げなかったことに対して?
    「ええよ、べつに」
     どれでも許すよ、恋人やし。
     未だに深呼吸を繰り返す背中をゆっくり撫でる。
    「どっち失くしたん? 右? 左?」
    「……ひだり」
     蚊の鳴くような声で梶が答えた。左か。どちらでも別に差はないけれど。
    「せめて、わしの立会うとる時にして」
     あの嘘喰いの愛弟子に己を賭けるなという気はない。そもそも全部を賭けてなお取りこぼさんとする姿勢が梶で、そんな姿に入れ込んでいる以上、門倉に口を出す権利もない。
     賭けるなとも欠けるなとも言わないけれど、奪われるなら門倉の手で取り立てたかった。
    「できるだけ、そうします」
     こくりと頷いた頭を掻き回して、これも嘘なのかもしれんなと思った。
     その日から門倉は煙草をやめた。

     ――

     それなりのお値段の銘柄がカートン単位で余ってしまった。買い置きしていた箱を愛煙家の黒服たちに配って回る。
     しばらくは煙草を再開するつもりはないから。例えば梶と恋人関係を解消するまでは。
     
     別に黙っているつもりもなかったけれど、大仰に配り歩けば当然恋人の耳にも入ったようだった。
    「門倉さん、どうして煙草やめるんですか?」
     こてりと腕に梶の頭が乗せられる。
    「健康に悪いから、かね」
     左の肺を失くした恋人の肺活量にこれ以上支障をきたさないためです、などとは言うつもりはなかった。
     ふーんとつまらなさそうに梶は唇を突き出す。それ以上何も追求してこなかった。
     禁煙を始めてみれば思ったよりすんなり門倉の身に馴染んだ。
     ベタではあるが口寂しくなるとガムを噛んでいる。懐に忍ばせるのが煙草の箱からガムのパッケージに代わったくらいで、門倉の生活に支障はなかった。
    「なんか残念ですね。僕、門倉さんの煙草の混ざった匂い好きだったのに」
     おどれが言うんかそれを。
     かろうじて呑み込んだ暴言が喉を刺す。立会人の門倉は無理でも、恋人の門倉は梶に甘い男でありたかった。
    「ああ、でも、門倉さんとのキスが苦くなくなったのは嬉しいです」
     それだけ告げて梶が門倉の唇を奪う。キスの味はきっとタールからミントに代わっている。
     梶はそれ以上何も言わず、門倉も何も返さなかったから、2人には珍しくとても静かにセックスをした。

     ――

     翌朝、門倉は梶より先に起き出して朝食の準備を始めた。夜に生きるギャンブラーが中々起きてこないのは常のことで、いつも起きてくるまで放っている。
    「門倉さん!!」
     ドタバタと足音を立てて梶が寝室から駆けてきた。
    「朝ごはんならできとるよ」
     そう告げるとありがとうございます、と律儀に返して、いやそうじゃなくてですね、と梶は拳を握りしめた。
    「僕思い付いたんですよ。門倉さんは口寂しくなったら僕とキスしたらいいと思うんです」
     なにやら感心したように梶は一人うんうんと頷く。
    「そうしたら門倉さんは僕とキスできて嬉しいし、僕も肺活量を鍛えられるし。一石二鳥じゃありません?」
     昨日から本当に、おどれがいうんかそれを。
    「……そうやね。次からはそうするわ」
    「そうしてください」
     満足げに笑うと梶は朝食の前に座った。いただきます、あれドレッシング変えました? このスープ、僕がこの前美味しいって言ってたやつだ。覚えていてくれたんですね。
     門倉が返事をしなくても梶は好き勝手に喋り続けた。
     昨晩の静寂に満ちたセックスが嘘みたいな騒々しさだった。
    「……門倉さん、なに笑ってるんですか」
    「なんもないよ。わし、梶のこと好きやなって思うてただけ」
     口寂しいだけの理由で梶にキスしていいのなら、長年連れ添った煙が恋しくなったりしないだろうと思った。
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