素直に言えない寝返りを打とうとして壁に当たって、ぱちりと目が覚めた。
執務室の寝台は仮寝用だ。狭いのは仕方ない。
もぞもぞと体勢を変えていると温かい塊に肩が触れ、少しだけ驚いて、すぐに安堵の息を漏らした。
いつの間に来たんだ…?
起こしてくれりゃいいのに、相変わらず変なところで水臭い奴だ。
「しばらく逢いに行けない」
「別にわざわざ断らなくてもいい」
「私を寝ずに待っていたら悪いと思…」
「安心しろ、アンタが来ようが来まいが俺は関係なく寝る」
「寂しいことを言う。私はお前なしでは寝られないというのに」
「ばっ、真っ昼間からヘンな事言うな!誰かに聞かれたらどうするっ!」
城の回廊を歩きながら慌てて騰の口を塞いだのは、何日前のことだったか。
しかし、屋敷の広い寝台で一人で寝るのが落ち着かず、録嗚未もここ数日、何だかんだ言い訳をつけて己の執務室に泊まり込んでいたのだった。
暗闇に目が慣れてくると、隣に横たわる大きな背中が見えてきた。
立て込んでいた執務はカタがついたのか、それとも途中で休みに来たのか。
こんな狭い寝台に身を縮こめて寝たって、疲れも取れないだろうに。
「バカだな…アンタ」
静かな呼吸に合わせて僅かに上下する背中に、そっと指を伸ばす。
我…愛…你…
「…ぅ、ん…」
騰の背中がピクリと揺れた。
はっ!?俺、何やってんだ…!?
慌てて指を引っ込めて、くるりと背を向けた。
顔が、熱い。
無意識に書いた文字を認識して、猛烈な羞恥に襲われたその時。
腰に太い腕が回されて、背中にぴたりと温もりが張り付いた。
「…録嗚未、愛している…」
耳元で囁く掠れた声は、聞かなかったことにしよう。
明けの鳥が鳴くまで、今しばらくの微睡を──。