騰録ハロウィンSSリビングのソファの上の違和感に録嗚未は怪訝な顔をした。
「オイ、何だこれは…」
白の透けるような生地にレースがビラビラと付いた下着が広げられている。明らかに女物だがやけにサイズがデカい。しかも動物の耳のような細工が付いた頭にはめるやつまで置いてある。
「ランジェリーと猫耳カチューシャだ」
「見れば分かる。何でこんなモンがここにあるんだと聞いてんだ」
「ちょっとした余興だ」
「余興?」
「今日はハロウィンだからな。着替えて夕食にしよう。ちなみに私はドラキュラだ」
白いシャツを着ていた騰が、黒いマントを見せつけるように広げバサリと音を立てて羽織った。マント内側の緋色の残像が瞼の裏に残る。相変わらず何を着てもサマになる奴だ。
チラリと目をやれば、ダイニングテーブルの上にはいつもよりちょっと豪華そうなオレンジ色の料理が並んでいる。
そうか、今日はハロウィンだったか。何だこいつ準備万端じゃないか、と小さく笑いながら録嗚未は改めてソファの上の衣装を見た。
いや待て、だから何でランジェリー!?
心の叫びをまんま顔に出す録嗚未に、騰は平然と言った。
「お前の衣装だ」
「はぁ!?」
「私が用意した」
「な…っ、ふざけるな!!」
顔を赤くして憤る録嗚未を、ドラキュラの蒼い瞳がじっと見つめる。
…拙い。これと目を合わせちまったらー
「録嗚未。トリックorトリート」
「……ぐ…菓子はないから…着てやる。…ただし、飯の後だ」
「うむ」
(その夜、ランジェリー猫ちゃんはドラキュラのメインディッシュとなりましたとさ。)
翌朝、ベッドの下に落ちているぐしゃぐしゃのランジェリーを見ながら、騰はしみじみと言った。
「まさか本当に着るとは…言ってみるものだな」
「〜〜〜っ!?」