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    aily_aily10

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    #騰録の日 記念小説。
    イチャコラ騰録が昔を思い出す話です。
    pixivでよしきちさんの作品を拝見して妄想させて頂きました。(録嗚未の頬に触れる騰、古代アルバムネタ、背中合わせの騰録など盛り込んでみました)
    #騰録の日

    「秦将は何処だーっ!?」
    「探せっ!!何処かに隠れているやも知れん!」
    「展開している弓隊にも探させろ!」

     背を預ける岩壁の向こう側から響いてくる馬の駆ける音、敵兵の声。
    ここが見つかるのも時間の問題か。いや、一息つける間さえあればいい。
    録嗚未は目を閉じ深く息を吐いた。
     すると、隣の男が落ち着き払った声で言った。
    「前にもこんな事があった気がする」
    「……?」
    「こうやって二人で岩陰に隠れて愛を囁いた。あの時の録嗚未は初々しかった…」
    「はあっ?こんな時に何言ってんだ!?」
    緊迫した状況下で呑気に話し始めた男に呆れて振り向くと、伸びて来た手が録嗚未の頬を優しく撫でた。
    「っ!!だから、こんなところで盛るな!」
     騰の手を振り払いながら、録嗚未も思い出してしまった。
    忘れられる筈がない敗残の記憶。
    軍長になったばかりの、まだ青臭いあの頃のー。

    ----------

     避けきれない切っ先が頬を擦り、防御を押し破って腕を脚を斬りつける。ただ、致命傷を避けることで精一杯、身も心も限界だった。
     突破できると踏んでいたのだ。
    しかし、魏軍の想定外の強靭さの前に第一軍の勢いは削がれた。
    前方の敵を蹴散らすことに無我夢中で、挟撃されたのだと気付いた時には既に遅く。
    味方残兵が次々と倒れていくのを目の端で捉えながら、録嗚未はギリギリと歯を食いしばり眼前の強烈な敵と対峙していた。
     その時。
    ファルファルと奇妙な音を従えて、敵軍の中を泳ぐように騰はやって来た。
    通り道の兵が次々と屠られていく。それに気付いた目の前の鉄仮面は身を翻し、奇声を発しながら騰へと斬り込んでいった。
    身軽になった録嗚未は、混乱する魏兵の隙をついてその場を離れ、主戦場から身を隠す様に大きな崖の裏手へ逃げ込んだのだ。

     馬を降り岩壁に背を預け、はぁはぁと息を整えながら暫く天を仰いでいた録嗚未の元へ騰がやって来た。
    「録嗚未は死んだか」
    「…死に損なった。あんたの所為だ…」
    王騎から授かったばかりの軍兵を失ったのだ。録嗚未は最後の一人となっても諦めるつもりはなかった。しかし、この期に及んで生きながらえるつもりもなかった。
    「第一軍は壊滅だ…何故来た…」
    「殿の命だ」
    「殿が…!?」
     録嗚未は思わず騰を振り向いたが、騰は真っ直ぐに前を見たまま淡々と続けた。
    「霊凰は策士だ。直情的なお前がまんまと策に嵌るのは致し方なかろう。因みにあの将は乱美迫という。あれは殿や摎ですら手を焼く強者だ。無論、私もまともに相手はせぬ」
    まるで最初からこうなることを分かっていた、とでもいうような口振りだった。
    「はぁ?ならば何故俺を…!?」
    騰が振り向いた。何を考えているのか分からない、いつも通りの惚けた眼差しが録嗚未を見据えた。
    「分からぬか?お前に先陣を任せたのは、軍長としての経験を積ませる為だ。殿はお前に期待されているのだ、録嗚未」
    「!!」
     無力感に打ちひしがれていた録嗚未の目が力を取り戻していく。
    「しかし、死んでしまうとは残念だった」
    「…ぐっ……、死んではいないっ!!」
    録嗚未に睨みつけられた騰は、その眼にいつもの血気にはやる威勢の良さを感じて口角を上げた。

    『…他に手が無かったとは言え、やはり軍長になった初戦で霊凰を相手にするのは酷でしたか。ここは撤退します。騰…録嗚未を頼みましたよ』
    『ハッ』

     目の前で第一軍が食い破られていく様を、飛び出したい衝動を抑えて見ていた騰に王騎は言った。
    「後を頼む」ではなく「録嗚未を頼む」と。
    それはこの窮地からの脱出と、軍の壊滅で自信を喪失した若き軍長を立ち直らせることを意味していた。
     だが、録嗚未に関してだけ言えば、それは簡単なことでもあった。
    直情的であることは、短所であり長所でもある。
    王騎に心酔している録嗚未には、ただ王騎が期待しているという事実を伝えるだけで十分だった。
    その効果は絶大で、故に騰は「無事で良かった」という言葉を飲み込んだ。
    そこに騰の想いの入る余地はなかったからだ。
    「…な、何だ?」
     睨みつけていた騰に見つめ返され、録嗚未は居心地悪そうに身じろいだ。
    騰は何事も無かったように身を翻して馬に跨った。
    「もう大丈夫だな。さて、行くぞ録嗚未。お前を殿の元へ連れ帰るまでが私の仕事だ」
    「あ、オイ、待てっ!」
    そして録嗚未は、亡骸だけが散らばる戦場の跡を騰の背を追って走り抜けたのだ。

    ----------

     振り払った騰の手に付いた血を見て、録嗚未は騰が頬の傷を拭ってくれたのだと気付いた。
    「あ…悪い…」
    手を振り払われた騰は、しかし表情を変えることなく録嗚未をじっと見つめ続けている。
    「…な、何だ?」
    そして、気まずさに戸惑う録嗚未の肩を、騰はいきなり乱暴に引き寄せた。
    「ば、馬鹿、こんなとこで…」
    よろけて騰の胸に頬を付けた録嗚未を黙らせたのは、こめかみを掠った一本の矢だった。
    「……ッ!?」
    「録嗚未、何を期待した?」
     揶揄うようないつもの口調に、騰に抱きしめられた体勢のまま録嗚未の顔は真っ赤に染まった。
    「来ることが分かっていたら、当たらないのではなかったか?」
    「う、うるさいっ!たまにはこんなこともある!!」
    騰からバッと離れ背を向けた録嗚未が、2本目の矢を矛で打ち払う。
    「ほぅ。それで命の恩人に礼はないのか?」
    3本目の矢がファルッと二つに切れて騰の足元に落ちる。
    「…チッ。…今夜…天幕で待ってろ」
    録嗚未は吐き捨てるように言った。
    「楽しみにしている」
    背中合わせの男が愉しげに笑う気配に居た堪れず、録嗚未は赤い顔のまま即座に馬に跨った。
    「クソッ!とっとと行くぞ!」
    「コココココ。そんなに早く抱かれたいのですかァ」
    「ふざけるな!大将のあんたを本陣に連れて帰るのが俺の仕事だ!」
    言うが否や、矢の雨の中を振り向くことなく録嗚未が駆け出して行く。
    その背中を騰は笑って追いかけた。
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