セコムの存在忘れてた 玉狛第二との模擬戦中にシステムエラーが起きた。
二宮さんと犬飼先輩は上手くベイルアウトできたけど、俺はタイミングが合わず取り残されてしまった。
システムもその内復旧するだろう。
何よりも問題なのは――
「なかなか復旧しませんね……」
隣にちょこんと座っている彼女である。
俺は意味もなく正座をする。
玉狛第二の『メガネちゃん』と犬飼先輩が呼ぶリーダーの少女。模擬戦中は虚をつかれたことは何度もあるが、こうして二人きりになるのは初めてだ。
「でも、辻先輩がいてくれてよかったです。さすがに一人は心細いので」
そう言ってはにかむように笑う彼女の顔が見られない。
それなりに女子にモテたいとは思うが、俺はどうも鳩原さんや冷水さん以外の女性が苦手だ。
顔は赤くなるし、どうしても鼓動が早くなる。
「雨の設定じゃなくてよかったですね」
俺の性格のことも知っているはずなのに、三雲はぽつぽつと話しかけてくる。きっと場が持たないという気遣いだ。だってその証拠に、俺と一定の距離を保っている。
「やっ、休みの日とかは何をしてるんですか?」
声が裏返った上に噛んだが、何とかこちらから話しかけることができた。
三雲は大きく目を瞬かせると、うーんと考えて、
「本を読んだり勉強したり……あっ、空閑や千佳と出かけることもあります。たまに迅さんや小南さんとも」
『迅さん』という単語に、少しだけモヤっとした。
モヤっと?なぜだろう?
内心首を傾げながら、俺は彼女と向かい合って話をする自分を想像してみた。
――あれ、何で簡単に想像できるんだろうか?
「俺はよく犬飼先輩とか米屋とかと遊んでて……もちろん勉強はしてるけど」
「真面目な辻先輩らしいですね」
そう言って少女がコロコロと笑う。
ああ、横目で見たその笑顔が愛おしいなと思った。
「あ、の……ですね……今度一緒に、」
「修ーーー!!!」
バシュンとその場に現れたのは空閑遊真。三雲と俺の間に立って、俺を睨みつけている。
「無事か、修!?」
「ああ、何も無いよ。辻先輩が一緒にいてくれたし」
「それが一番危ないんだよ!修くん!!」
いつの間にか雨取もやってきていて、三雲の肩をガクガクと揺さぶっていた。
「大丈夫そうだな、辻」
「メガネちゃんと二人きりなんて、やるじゃん辻ちゃん」
一応俺の心配をして来てくれたらしい二宮さんと、思い切り弄る気満々の犬飼先輩。
救われたような、少し残念なような、複雑な気持ちになり、俺は立ち上がった。
「異常ありませんよ。三雲も俺も無事です」
「そうか。ならベイルアウトしろ。システムが復旧した」
「わかりました」
「辻先輩!」
俺が背を向けると、三雲が背中に声をかける。高鳴りっぱなしの鼓動が更に跳ね上がった。
「今回はありがとうございました。お話の続き、また今度聞かせてください」
「修!?」
「修くん?」
最後に見たのは、三雲の愛らしい笑顔だった。
ああ、やっぱり可愛い。
空閑と雨取に連れられベイルアウトして行くのを目で追っていると、犬飼先輩が俺の肩にポンと手を置いた。
「あとで話、聞かせてね?」
あ、これは完璧に逃げられないフラグだ……。
二宮さんは哀れなものを見る目で俺を見つめ、三人でベイルアウトする。
胸の鼓動は、まだ治まらない。