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    逆トリ晶フィ 晶くんオンリー5展示
    晶くんの世界でお出かけする話。晶くんがやきもちやいています。

    ※モブの女性が出てきます
    ※他の逆トリシリーズと同軸のため、フィガロが晶君のことを晶呼びしています



     フィガロが晶のいる世界へやってきて初めての週末、フィガロが着る洋服や日用品などを買いに、二人で出かけることになった。
     向こうの世界から来たフィガロは手ぶらで来たのかと思えば、魔法で小さくしていた一、二泊出来そうなボストンバッグを持ってきていた。その荷物の中には見慣れた洋服もいくつかあったが、洗い替えや今の季節に合う洋服が必要そうだった。晶は自身の手持ちの服を着せようとも思ったが、晶より身長の高いフィガロには小さかったため、新たにフィガロの服を買いに行く事になった。
     晶はまた向こうの世界にいた時のように二人で出かけることが嬉しく、当日が待ち遠しかった。この世界で一緒に電車に乗ったり、洋服や日用品を一緒に選んで買ったり、外食したり。フィガロが向こうの世界で晶が寂しくないよう、いろいろな事をしてくれたみたいに、晶もフィガロにこっちの世界では同じようにしたいと強く思っていた。フィガロにとって自分のいる世界はどのように感じるのだろうか、楽しんでくれるかな、どこに行けば喜んでくれるかな、など晶は心を踊らせて想像しながら、出かける日を待ちわびた。



     出かける当日、天気予報通りに雲ひとつない晴天でお出かけ日和だった。平日は晶の出かける時間が朝早いため、休日である今日は二人で心置きなく寝てから出かけることにした。と言っても朝九時くらいには二人で起床し、昼前には家を出た。



     今日行く場所は東京でも有数の繁華街で、目的地へは電車に乗って向かった。駅に乗る際に見かける改札機やエスカレーターなど、全てがフィガロにとっては珍しいものばかりで、晶の説明を聞きながらフィガロは一つずつ理解していく。フィガロは疑問に思うことを晶に質問するが、晶は答えられないとすぐにスマートフォンで調べ、それをフィガロへ伝達する。本当にこれでなんでも調べられるんだね、とフィガロは晶のスマートフォンの画面を覗き込んだ。スマートフォンで素早くフリック入力する晶にフィガロは感心していた。そんな事を繰り返していたら目的地までの駅に着くまで話は尽きず、あっという間に降車駅に到着した。

    「乗った駅とは随分人の多さが違うね。たくさん人がいる」
    「そうですね、ここはこの国の中でも有数の大きい駅なので」
     降り立った駅は繁華街のある都会の主要駅なだけあり、ホームにはたくさんの人が行き交じり、電車を待っている人もいる。電車のドアが開くとたくさんの人が降りていき、ホームでは電車に乗る人がドアの両側に律儀に整列し、降りる人がいなくなるのを待っている。フィガロはその並んでいる人達を不思議そうに見ながら、電車から降りて晶の後ろについていく。

    「さっきと同じように、フィガロは切符をあの機械に入れてくださいね」
    「うん」
     改札機が見えてくると晶はそう教え、フィガロは難なく切符をいれて晶と一緒に改札を出た。フィガロがこちらの世界にに来た時から思っていたことだが、晶がフィガロに物事を教える事は新鮮だったし、それに対して教えたことを不思議そうだったり、一生懸命にやってくれるフィガロが可愛らしかった。

     改札を出て二人で道を歩いていると、晶は普段とは違ってすれ違う人達からの視線を感じた。今日、晶の家の近くや電車の中でもたまに見られている感じはしたのだが、今と視線の数が大分違う気がする。一人だったら思わず何か自分に変な所があるのかと焦るところだが、すぐにこれは隣にいるフィガロを見ているに違いないと確信した。視線を送る人を見ると大体が女性で、フィガロをちらりと見ている人が多かった。すれ違った女子高生は「今の人カッコよくなかった?」なんて小声ながらも弾んだ声で話しているのも聞こえた。晶はイケメンが街を歩いたらこんなにも見られてしまうのかと思い知った。
     フィガロは男である晶から見ても顔が良くてスタイルもよく、この世界だったらモデルや芸能人にいてもおかしくないような端正な顔立ちをしている。それは会ったときから感じていたし、フィガロからも自分はモテるんだと言う話を聞いたことはある。だが、実際に向こうの世界ではカナリア以外の異性と話す機会があまりなかったこともあり、フィガロが持て囃されている所をあまり見かけなかった。その事もあり今回たくさんの視線がフィガロに集まっているのが新鮮で、改めてフィガロは皆に格好いいと思われる容姿なのだと実感した。
    「どうしたの?晶」
    「えっ」
    「なんだか落ち着かない様子だけど、大丈夫?」
     フィガロ本人は周りから見られていても気にする様子もなく平然としていて、むしろ落ち着かない様子の晶に話しかけた。
    「だ、大丈夫です!」
     フィガロがいた世界では強い魔法使いでもあったのだから注目されることはよくあっただろうし、視線が感じても大して気にならないのだろう。フィガロの性格や自分の格好良さを自覚しているのだから納得がいく。晶は視線を気にしないようにし、行きましょう、とフィガロに声をかけ、最初に行く予定だった場所へと向かった。



     行き着いた場所は商業施設内にある回転寿司屋だった。数日前、晶はいくつかの食べたい物候補を出し、魚が好きなフィガロにお寿司を薦めたところ、フィガロも寿司が食べたいようだった。どうやら向こうの世界で作ったときの手まり寿司を覚えてくれていたらしい。寿司屋の中でも回転寿司ならきっと楽しんでくれそうだし、たとえフィガロが寿司を苦手だったとしても、寿司以外の食事もあって融通がききそうだ。
    「本当だ、お寿司が回ってる。なかなか面白いね」
    「他の国から来る人達もこれは珍しいようで、よく観光で来る人も多いんですよ」
     外から店内を見ると、寿司を乗せているお皿がレーンの上で一方通行に流れており、そのお皿を人が手にとって食べている。その様子をフィガロは物珍しそうに見ていて、思っていた通りの反応をするフィガロに晶は和んだ。休日の昼時とあってか、着いたときには既に満席だったため、晶は入り口前にあるウェイティングリストに名前を記入した。
    「店に入れるまで少し待つので、椅子に座って呼ばれるまで待ちましょう」 
    「うん」
     フィガロは店の中の様子を見ながら晶についていき、店外に並べられている椅子に二人で腰を掛けて、名前を呼ばれるまで待った。


     
     晶とフィガロが他愛のない話をしながら待っていると、フィガロの足元あたりでちゃりん、と鈴の音が鳴った。二人揃ってフィガロの足元を見てみると、鈴がついている何かの鍵が転がっていた。
    「あっ、すみません!」
     隣に座っている女性の声がした。どうやらその女性が鍵を落としたようで、フィガロはすぐにその落ちていた鍵を拾い、女性へ差し出した。
    「はい、どうそ」
    「ありがとうございます」
     その女性はフィガロにお礼を言い、鍵を受け取ってすぐに手持ちのバッグへと仕舞っていた。どうやら他の物を取る時、取る必要がなかった鍵も一緒に出てきてしまったのだろう。
    「日本語がとても上手いですね、ずっと日本に住んでいるんですか?」
     女性の隣にいたもう一人の女性が身を乗り出し、フィガロに声をかけた。おそらく鍵を落とした女性の友人のようだ。二人は晶と同世代くらいの見た目だった。
    「ありがとう。でも、こっちに来たのは最近なんだ」
    「え!そうなんですか?日本語が上手なので全然わかりませんでした」
     フィガロに質問した女性はフィガロの日本語の堪能さにすごい!と目を輝かせていた。その様子はフィガロに好意を持っている事が晶から見てまるわかりだった。この容姿なら無理もない、と晶はその女性達とフィガロが話している様子を側から見ていた。女性達はフィガロと話そうと会話を続け、フィガロも社交的な性格のために話が盛り上がっていた。時折、晶も話をふられたら当たり障りのない回答を返した。

    「あの、もしよければ連絡先を教えてもらえないですか?」
    「連絡先?」
     嬉しそうに話していた女性が、フィガロに連絡先を聞こうとバッグからスマートフォンを取り出した。しかし、フィガロはこの世界での連絡手段をあまりわかっていないため、晶を見てどう答えればいいのかと視線を送った。
    「あ、今はスマートフォンで連絡を取り合うのが普通なんですけど…すみません、まだフィガロはスマートフォンを持っていないんです」
    「えー、残念です」
     晶がフィガロに連絡手段を説明してから、女性達にフィガロはスマートフォンを持っていないことを伝えた。そうすると予想通り、女性達は残念そうに声をあげた。フィガロがまだスマートフォンを持っていなくてよかった、と晶は心の中で安堵した。もし女性とフィガロが連絡先を交換していたら、なんとなく複雑な気持ちになっていたかもしれないからだ。
    「ごめんね。それに君達俺が連絡先を交換したら、隣りにいる恋人が拗ねちゃうからさ」
    「えっ?!」
     フィガロは申し訳無さそうな顔をしながらも、晶の腰に手を回してから自分の方へと引き寄せた。フィガロの発言に女性二人と晶は驚きのあまり、三人同時に声をあげた。
    「二名でお待ちの真木様ー」
    「あ、はい!」
     店員から名前を呼ばれ、晶はフィガロの恋人だと見知らぬ女性達へ暴露された恥ずかしさのあまり、必要以上に大きめな声で返事をしてしまう。ちょうど席が空いたようで、タイミングよくこの女性達から離れられて助かった、と晶は内心思いながら立ち上がった。
    「フィ、フィガロ。呼ばれました」
    「あ、呼ばれたみたい。じゃあまたね」
     フィガロは笑顔で彼女達にひらひらと手を振り、晶の後をついていく。彼女達はまだ驚いた顔をしていて、晶は何も言わず立ち去るのは失礼だろうと思い、軽く会釈をしてから案内してくれる店員さんに足早についていった。

    「わざわざ恋人だなんて言わなくていいじゃないですかっ…!」
     前に歩いている店員に聞こえないよう、晶はフィガロに近寄り小声で伝えた。
    「でもそう言った方が彼女達は早々に諦めてくれるだろう?」
     フィガロは悪びれた様子もなく、ね?と晶へ微笑み、その笑顔に晶は何も言い返せずに押し黙る。こちらの席へどうぞ、と笑顔の店員に案内され、そのまま二人はカウンターへと並んで座った。

    「フィガロ、モテモテですね。外で歩いていてもフィガロのことを見ている人達が結構いましたよ」
    「はは、こっちの世界でも俺ってもてちゃうんだね。もしかして妬いてくれた?」
     フィガロは冗談まじりに言い、晶の顔を覗き込んだ。
    「…………はい、少し」
     女性に好かれてまんざらでもなさそうなフィガロに本当はかなり妬いてしまったのだが、大人気ないような気がして少し、と晶は嘘をつく。
    「えっ、本当?晶が妬いてくれるなんて初めてじゃない?正直に言って嬉しいな」
    「えっ」
     晶はからかわれると思えば嬉しいと言われ、思っていた回答ではなく拍子抜けした。それと同時に確かに自分はフィガロにあまりやきもちをやいた事がないかもしれない、と思い返す。
    「だって向こうの世界では全く妬いてくれる様子もなかったし。君は魔法舎の皆と仲良かったし、俺なんていなくてもよさそうだなって思っていたこともあったし。もちろん君が賢者という立場な事と、君の性格の事もあるからしょうがないとは思ってはいたけどね」
    「フィガロ…」
     そんなことを思ってくれていたのか、と晶は嬉しくなるが、ここが回転寿司屋のカウンターである事にはっと気づき、周囲の人達に聞かれていないか左右の他の客たちを見て確認する。
    「あはは!大丈夫だよ、皆聞いていない。さ、食べようか」
     晶のあたふたしている様子にフィガロは笑いを漏らした。現に二人の両隣りにいる客は話に夢中で全く聞いていなさそうで、晶はほっと胸をなで下ろした。
    「は、はい。でも、これだけは言わせてください。俺は向こうの世界でフィガロの事、いなくても平気だって思ったことないですよ」
     それだけは弁明したく、晶は周りに聞こえないように小声で伝えた。
    「うん、ありがとう」
     わざわざ伝えてくれるなんてやっぱり晶は優しいな、とフィガロは思いながら、満足げな顔をしてお礼を告げた。



    「お茶、煎れますね」
     晶は慣れた手つきでテーブルに置かれいる二つの湯呑に緑茶の粉末を匙でいれ、お湯を注いで一つの湯呑をどうぞ、とフィガロに渡す。
    「この国で親しまれているお茶です。もし苦手ならお水もあるので言ってくださいね。あと、食べたいものはここのレーンから自分で取ったり、注文するんですけど…食べてみたいものはありますか?」
     晶はテーブルに置いてあった寿司の写真がずらりと載っているメニュー表をフィガロへ手渡した。
    「うーん…晶のおすすめはある?」
     フィガロはレーンの上に流れるお寿司とメニュー表を交互に見て少し悩んでから、晶に尋ねた。
    「たくさんありますし、こっちのお寿司は食べたことがないのでわからないですよね。フィガロが好きそうな物をまずは頼みましょうか。あ、この真鯛とか美味しいと思います」
     晶は目の前に流れてきた鯛のお寿司を手に取り、フィガロの前に置いた。
    「へえ、ありがとう。確かに俺の好きなカルパッチョの魚と色が似てる」
    「はい。味も一緒というわけではないですが、似ていると思うので食べれるといいんですけど」
     晶も自分が食べたいと思っていた鮪のお寿司が乗っている皿をレーンから取り、フィガロの前にある小皿に醤油を垂らし、自分の小皿にも同様に垂らす。
    「お寿司はいつも魚の部分に少しこの醤油につけてから食べてます。あ、箸でなくとも手で食べても大丈夫ですよ」
     晶は箸で寿司を取り、器用に醤油を少しつけてから口に運ぶ。それをフィガロも見様見真似で晶に選んでもらったお寿司をまだ慣れない箸で口に運んだ。
    「うん、おいしい」
    「本当ですか!よかったです」
     フィガロはもぐもぐと難なく食べ、もう一貫のお寿司をに箸をつけた。フィガロに食べられる物があり晶はほっとした。
     それからは晶が再度フィガロの好みそうなものを選んだり、互いに二貫あるお寿司を一貫ずつ交換したりして楽しみながら食べることができた。



     昼食を食べて店を出た後は、当初一番の目的だったフィガロの洋服を買いにいった。一人暮らしの晶にはある程度貯蓄はあるものの、そう簡単に雑誌に載っているような洋服をいくつも買う余裕がないため、ファストファッションのショップで大体の物を揃えさせてもらった。しかし、せっかくフィガロがこちらの世界に来てくれたのだから、記念にフィガロに似合う服をプレゼントしたいと言う気持ちもあり、他のアパレルショップも一緒に見て周り、そこでも服を購入した。
     他にも途中でお茶を飲んで休憩を挟み、雑貨などを見ていたらあっという間に日も暮れてきて、二人で帰路に着いた。



     二人で家に帰宅し、晶は一度休むためにお茶を淹れようと、電気ケトルの電源を入れてお湯を沸かし始めた。
    「お茶を淹れようと思うんですけど、簡単にティーバッグでいいですか?」
    「もちろん。あ、このくらいなら俺がやるよ」
     フィガロは晶のいる台所まで行き、晶の隣に並んだ。
    「手伝ってもらうほどの事じゃないので、大丈夫ですよ。フィガロは座って休んでいてください」
    「だって今日は晶に案内してもらったり、いろいろ買ってもらっちゃったから。少しは俺にやらせてよ」
     ゆっくりしてて、と言われ、晶はフィガロの言葉に甘えてソファーに座り、フィガロの後ろ姿をちらりと見る。フィガロは鼻歌を歌いそうなほどの上機嫌で、こちらの世界に来てから毎回使っている不揃いのマグカップを戸棚から二つ取り出し、ワークトップに並べている。きっと今日を楽しんでくれたのだろうと、晶は安堵する。
     今日は晶にとっても楽しい一日だった。だが、そんな気持ちとは裏腹にどこか寂しい、不安な気持ちが生まれていた。それはいつかフィガロに別の好きな人が出来、自分の元から離れてしまうのではないかという不安だった。フィガロが向こうの世界からはるばるこちらの世界へやってきたというのに。
     これからフィガロがこの世界に居続けるとしたら、きっと晶以外の人との交流も増えてくるに違いない。フィガロはたくさんの女性から好かれるのだろうと、晶はフィガロと一緒に出掛けた今日に改めて実感した。フィガロに好意を向ける人がたくさんいるのなら、その中にフィガロが惹かれる人が出てきても何らおかしくはないと。 

    「はい、おまたせ」
    「あ、ありがとうございます」
     晶がこれからの事を考えて漠然とした不安に悩ませていると、フィガロの優しい声が聞こえ、はっとする。フィガロがお茶を入れたマグカップを持ってきてくれた。晶はフィガロのいつもと変わらない顔に安心し、一旦考える事を止めて熱々のマグカップを受け取った。
    「疲れちゃったかな?」
    「あ、久しぶりにたくさん歩いたので少しだけ。でも、今日は楽しかったなぁって考えながら、ぼーっとしてただけですよ」
     フィガロが心配そうな顔をしながら晶の隣に座り、晶は悟られないように笑って誤魔化した。
    「それならいいけど。俺も楽しかったな。連れて行ってくれてありがとう」
    「フィガロが楽しんでくれたなら何よりです」
     二人は淹れ終えたお茶を飲みながら、今日の疲れを癒やす。買ってくれた服を着るのが楽しみだとか、今日行った街の様子だとか、今日の出来事を話してゆっくりと時間が過ぎていった。



    「……晶は今、何か悩んでいる事があるの?」
    「えっ」
     先程までいつも通りに話していたが、ふとフィガロに隠そうとしていることに関して質問され、晶は今日感じていた不安に勘付かれているようでドキリとする。
    「…俺、そんな顔してますか?」
    「ううん、今じゃなくてさ。今日、外やさっき俺が来たときとか、晶がたまに思い悩んでいるような、寂しい顔をしている時があったからさ」
    「そ、そんな顔してました?すみません」
     せっかくの楽しいお出かけだったはずなのに、時折そんな顔をしてフィガロに心配させてしまい、晶は申し訳ない気持ちになる。気づかれるほど不安そうな顔をした覚えはないが、相手はフィガロだ。普段から周りをよく見ているから、いつもと違う様子だったときはすぐに気づかれてしまうのだろう。
    「謝らなくていいんだ。ただ、俺が何か君に不安にさせてしまった事があるかなって思ってさ。もしよければ俺に教えて?」
    「フィガロは悪くないです、俺がただ…」
     晶はすぐに誤解を解こうとするが、途中で理由の言葉を飲み込んでしまい、少しの沈黙が生まれる。単純に自身の嫉妬を認知されて恥ずかしいという気持ちと、フィガロにとって晶の気持ちが重く感じてしまわないかという不安もあり、すぐに打ち明けることを躊躇った。
    「もちろん言いたくなければ言わなくて構わない。だけど、俺にアドバイス出来ることがあればしたいし、それで晶の悩んでいることが少しでもなくなるといいな」
     フィガロは柔らかく微笑み、心地よい落ち着いた声で優しく言葉をかけた。そんな恋人に晶の心を縛っているものが少し解けていく気がした。
    「気にかけてくれてありがとうございます、フィガロ。…本当にしょうもない事なんですけど、いいですか?」
    「そんなこと言わないで。もちろん大丈夫だよ」
     今日出かけたことでフィガロを遠い存在に感じてしまった晶だが、フィガロの優しい気遣いにじんわりと心が温まる。向こうの世界にいたときも、フィガロはいつも晶を気にかけて話を聞いてくれ、安心する言葉をかけてくれていた。今回も断りなんていれなくてもフィガロなら受け入れてくれるとわかってはいたが、言葉で大丈夫と言ってもらい、少しでも安心したかったのかもしれない。晶は伏し目がちのまま口を開いた。
    「……今日出かけた時、街にいた人達から視線を集めていたり、女性から好意を持たれているフィガロを見て、改めてフィガロがモテることを実感したんです。それを見てこれからフィガロが俺以外の人と関わっていく機会が増えてきたら、いつか俺から離れていくんじゃないかって不安になってしまって…」
     心の中で溜まっていた不安をいざ口に出してみると、感情が溢れ出して思わず涙が出てきそうになり、晶はそれをぐっと堪える。
    「フィガロが俺に会うためにこの世界へ来てくれたのでそんな事はないと思いたいのに、心の何処かでその不安が拭いきれなくて…何よりこんな事を考えてしまう自分が嫌になってしまって」
     向こうの世界にいたときよりも一緒にいる時間が長いはずなのに、不安になる気持ちはなんでだろう。そう晶は思いながら膝の上に乗せていたぎゅっと拳を握る。
    「ごめんなさい、今日は久しぶりのお出かけでフィガロは楽しかったはずなのに。俺も楽しかったのに、こんな話をしてしまって」
     面と向かって言えず、ずっと俯せていた顔をやっとあげた晶は申し訳無さそうにフィガロに謝った。
    「謝らないで。素直に言ってくれてありがとう」
     フィガロは優しく目を細めて晶に微笑む。
    「晶」
     フィガロは晶の名前を呼び、両手を伸ばして隣りにいる晶をふわりと背中に腕を回し、抱き締めた。
    「そんな心配をしなくていいんだよ」
     子供を安心させるような優しい声で耳元に囁かれ、晶の緊張していた心が少し解ける。
    「もうずっと愛する事をやめていた俺が、君と出会って変わったんだ。会った当初は都合のいいように扱いやすく出来ればと思っていただけなのに」
     フィガロは一度晶を抱きしめていた腕を解き、晶の目を真っ直ぐと見つめる。
    「知らない世界に来てあの世界を救おうと一生懸命だった君、そして君の包み込んでくれるような優しい心に惹かれたよ。君みたいな人はそういないし、君と過ごした日々はとても楽しくて、俺の心は君で彩られて。本当に君が恋しいんだ」
    「フィガロ…」
     フィガロから甘い愛の言葉を伝えられ、晶は胸が熱くなる。いつもフィガロからの行動などで愛されているとは我ながら思っていたのだが、面と向かって恋しいと言われて舞い上がりそうなくらい嬉しかった。
    「付き合い始めの時、君が元の世界に戻った後はきっと俺は君の名前、顔すら忘れてしまうだろうし、最初はそれでいいと割り切っていた。でも、君がいなくなっても君への気持ちは消えなくて、忘れようと思っても忘れられなくて。また君との別れが再び訪れると思っても、会いたくて仕方がなかったんだ。たとえ君が俺の記憶がなくなっていたとしても、君に恋人が出来ていたとしても」
     ふとフィガロが僅かに寂しげな目をしていて、晶はそんなフィガロを見た瞬間に胸が締め付けられる。確かに賢者だった晶も元の世界に戻ったら、あの世界にいた時の記憶が残っているかどうかもわからなかった。それなのにフィガロは晶に会いに来た。フィガロの一途な思いを受け、晶は自身の悩みが浅はかだったと思い知った。
    「そう簡単に他の人のところへ行ったりしないよ。だからそんなに悩んだりしないで欲しいな」
     フィガロは朗らかに笑い、白いしなやかな手で晶の膝の上にある手を上からそっと包みこんだ。
    「フィガロ…ごめんなさい!そんな風に思ってくれていたのに俺…」
     晶は堪えきれず涙がじわりと滲み出てくる。
    「謝らなくていい。人の心は絶対に変わらない確証なんてないんだから、不安になる気持ちもわかるよ。でも、君がずっと俺のことを思ってくれるのなら、俺は心変わりする気は更々ないから安心して」
     フィガロは晶を再度抱きしめ、晶の頭を優しく撫でた。
    「…はい」
     晶は頭を撫でられる感触が心地良いと感じながらフィガロの優しさに甘え、フィガロの背中に腕を回してしがみついた。



     流していた涙も止まり、晶は鼻を啜りながらフィガロから少し体を離した。
    「フィガロ。俺に勿体ないくらいの気持ちを伝えてくれてありがとうございます。おかげで気持ちが軽くなりました」
     晶は柔らかく微笑み、その顔はいつも通りの晶でフィガロは安心した。
    「根本的な解決策ではないけど、少しでも不安が和らいだのならよかった」
    「はい。……あの、フィガロ」
    「ん?」
     晶ははにかみながらも、真っ直ぐとフィガロを見つめた。
    「俺もこの世界に戻ってからもフィガロのこと、忘れられなかったです。ずっと寂しかった。時が経つにつれて、あなたを忘れていくことも怖かった。でも俺には何もできなくて…。だから、来てくれてとても嬉しいです。ありがとうございます」
     フィガロが晶に対しての思いを伝えてくれたのだから、晶もフィガロに伝えたかった。いい言葉が思いつかず、ありきたりな言葉だけれど。
    「そう言ってくれて嬉しい。こちらこそ、俺のことを覚えていてくれてありがとう。晶」
     フィガロは少し照れた顔をしながら笑った。晶はさっきまで抱えていた不安が嘘のように消えていて、自身の言葉を受け止めてくれたフィガロに感情が込み上げてくる。嫉妬心で生まれた不安を伝える事は恥ずかしかったが、打ち明けてよかったと晶は身に沁みて感じた。



    「ねぇ、晶がずっと不安にならないくらいに、もっと君への思いを伝えようか?」
    「わ!う、嬉しいですけど、俺の心が持たなさそうなので、また今度で大丈夫です…」
     フィガロは晶の顔に近づいて囁き、晶はびくりと肩を揺らす。ストレートに気持ちを伝えてくれる事はもちろん嬉しいが、きっと歯の浮くような台詞をずっと聞くには恥ずかしく、晶の心が持たなさそうだ。
    「え〜、俺の親切心を無下にしちゃうの?」
    「キザな台詞とか、聞き慣れてないのでしょうがないんです!…気持ちは嬉しいですけど」
     フィガロは大袈裟に残念そうな声を出すが、晶は顔を真っ赤にしながら精一杯の言い訳を並べる。
    「そうだ、お腹空いてきたので夕飯を食べましょう。俺、準備してきます!」
     晶はフィガロの答えも聞かずにソファーから勢いよく立ち上がり、フィガロから逃げるように台所へと足早に向かう。フィガロはそんな晶を見て、嬉しそうに笑みを浮かべた。
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     フィガロが晶のいる世界へやってきて初めての週末、フィガロが着る洋服や日用品などを買いに、二人で出かけることになった。
     向こうの世界から来たフィガロは手ぶらで来たのかと思えば、魔法で小さくしていた一、二泊出来そうなボストンバッグを持ってきていた。その荷物の中には見慣れた洋服もいくつかあったが、洗い替えや今の季節に合う洋服が必要そうだった。晶は自身の手持ちの服を着せようとも思ったが、晶より身長の高いフィガロには小さかったため、新たにフィガロの服を買いに行く事になった。
     晶はまた向こうの世界にいた時のように二人で出かけることが嬉しく、当日が待ち遠しかった。この世界で一緒に電車に乗ったり、洋服や日用品を一緒に選んで買ったり、外食したり。フィガロが向こうの世界で晶が寂しくないよう、いろいろな事をしてくれたみたいに、晶もフィガロにこっちの世界では同じようにしたいと強く思っていた。フィガロにとって自分のいる世界はどのように感じるのだろうか、楽しんでくれるかな、どこに行けば喜んでくれるかな、など晶は心を踊らせて想像しながら、出かける日を待ちわびた。
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