COLOR 年の瀬が近づく十二月半ばの休日。フィガロは昼前までぐっすりと眠っていたところをオズに起こされ、二人一緒にブランチを終えたところだった。そろそろ準備をして二人で買い出しに出かけようかとしていたところ、部屋にインターホンの音が響いた。
「フィガロちゃーん!オズちゃーん!」
誰が来たのかとインターホンのモニターを見ると見慣れた二人が映っていて、いつもの明るい声が聞こえてきた。
「スノウ様、ホワイト様。どうしたんですか?」
フィガロが二人に会うのは数ヶ月ぶりか、と考えながら玄関まで歩いてドアを開けたところ、いつものように二人はにこにこと笑って待っていた。
「二人にちょっと渡したいものがあってのう。ちょうど今日はこっちの方に用事があったから来てみたのじゃ。せっかくだし、少し部屋にお邪魔してもいい?」
「俺達、今から出かける予定だったんてすけど」
「えー、二人でデート?」
「それは悪いことをしたのう」
二人は残念そうな声を出すも、フィガロとオズが相変わらず仲良くやっているとわかったのかどこか嬉しそうだ。
「いや、デートではなく普通に買い出しです。でも、今日絶対に行きたいと言うことではないので、別に今から家にあがっていただいても大丈夫ですよ。さ、外は寒いですし中へどうぞ」
「やったー!」
「フィガロちゃんありがとー!」
二人を中へ入るように促せば、スノウとホワイトはお礼を言ってから慣れたように靴を脱いで部屋へと上がり込んだ。フィガロは騒がしい人たちが来てしまって面倒だと正直感じたが、大人になるまで、いや、今もいろいろと世話をしてくれている人達なのだから、無碍には出来ない。しょうがないか、とフィガロはこれから騒がしくなることを想像しながら、そのまま二人がリビングに向かう後を追いかけた。
「オズ、今日の買い出しは双子様が帰ってからにしよう。お二人のお茶を淹れてくれる?」
「あぁ、わかった。会話は全てこちらまで聞こえていた」
「だろうな」
三人揃ってリビングへ行けば、オズは立ち上がってキッチンへと向かい、棚からマグカップを二つ取り出してお茶をいれる準備をしはじめた。
「ふふふ、オズちゃんも成長したのう」
台所に立つオズの姿を見て、スノウとホワイトは感慨深くなる。
「俺のおかげですね」
昔は四人で暮らし、オズにいろいろ教えたのはフィガロだった。フィガロは自負しながら、まだテーブルに置いてある冷めきったコーヒーを飲み干した。
「少し早いけど、二人にクリスマスプレゼントじゃ!」
オズの淹れてくれた紅茶を飲みながら、スノウとホワイトの他愛もない話や最近起きた出来事などをフィガロとオズは聞いていた。そこにそういえば、と思い出したかのようにスノウ達は持ってきていた大きな紙袋から箱を取り出し、スノウからはフィガロに、ホワイトからはオズにそれぞれ少し大きめのギフトボックスを渡した。
「ありがとうございます。でも、俺達はまだ何もお二人に用意してませんよ」
フィガロは申し訳無さそうに言えば、二人はそんな事を全く気にする様子もなかった。
「いいのいいの、親から子へのプレゼントだと思えばいいのじゃ!本当はクリスマスに渡したかったんだけど、我らは旅行に行く予定があるから先に渡しちゃおうと思って」
「旅行ですか、いいですね。それじゃあ、早速開けてみてもいいですか?」
「ふふふ、もちろんじゃ!開けてみよ」
スノウとホワイトは心を踊らせながら、二人に早く中身を見てほしそうに二人を見つめた。
フィガロはギフトボックスに印刷されているブランドロゴを見ると、女子が好きそうな可愛らしいルームウェアを売っているお店のものだと気づく。女子がこのブランドの紙袋を持ち歩いているところをよく見かけるため、そんな所に男ものが売っているのかと疑問に思いながら、そのまま二人で箱にかけられている赤いリボンを解いて箱の蓋を開けた。その箱の中にはもこもこした素材の暖かさそうな男もののルームウェアが入っていた。
「暖かさそうなルームウェアですね。でも、俺とオズがおそろいのルームウェアなんて、俺らはお二人や女子じゃないんですから柄じゃないですよ」
フィガロはオズが持っている箱の中身を見れば、すぐに二人のルームウェアが色違いでお揃いのものだと気づいた。オズのカーディガンは白地に赤色のボーダーが腰辺りから裾までに何本か入っていて、フィガロのものはオズと同じデザインで、ボーダーの色が緑色だった。パンツはカーディガンと同じ素材だが、シンプルに赤か緑の単色のものだった。
「二人にはいつも仲良くしてもらいたいからのう。何よりこのルームウェアは見ての通り、ふわふわのもこもこで暖かいのじゃ!フィガロちゃんとオズちゃんにもこの暖かさをお裾分けしたかったんだもんねー」
スノウとホワイトは嬉しそうに顔を合わせて口を揃えた。
「確かに暖かさそうはありますけど、このルームウェア、がんがん乾燥機で乾かせなさそうな素材ですね」
あまり家事をしたくない面倒くさがりなフィガロはカーディガンを取り出し、洗濯表示のタグを探しはじめた。
「もう、フィガロちゃんてば人のプレゼントに文句を言うでない!」
「私がほぼ洗濯をしているのだから問題ない。乾燥機をまわす前に取り出して干す。着心地は悪くはないし、暖かい」
「あ、そう?ならいいか」
三人がオズを見れば、オズは受け取ったカーディガンを早速羽織っていた。
「オズちゃん優しいのう。あっ、しかも似合ってて可愛い〜!」
「……可愛くなどない」
スノウとホワイトはきゃー!と頬に手を当て、オズが着てくれたことを喜んだ。
「ねぇねぇ、フィガロちゃんも今着て二人の写真撮らせてよ!」
「えぇ……俺もですか」
フィガロはあからさまに嫌な態度をとったが、オズがカーディガンを着たことによりスノウとホワイトは盛り上がっていて嫌と言っても聞かなさそうだった。
結局この後フィガロも二人に言われて半強制的にカーディガンを着せられ、挙句の果てにはスノウとホワイトも混ざり、四人で撮影会をするのだった。
クリスマスイブ当日。フィガロとオズのクリスマスは毎年家でゆっくり過ごすことが多い。今年も例に漏れず、二人は家で食べるクリスマスらしい料理を用意した。オードブル、フライドチキン、スープは最近よく行くイタリアンの店でテイクアウトを予約しておき、それだけでは足りないだろう、と二人の好物であるフィッシュパイをオズの提案で一緒に作った。そして、今日のためにいつもより奮発して買っておいたシャンパンもあり、フィガロはこれが一番の楽しみだった。クリスマス定番のホールケーキは男だが、二人では流石に食べ切れないため、互いに好きなケーキを一つずつ買ってある。
後は酔いつぶれてもそのまま寝てもいいように互いに風呂も済ませておき、せっかくだからと先日スノウとホワイトからもらったルームウェアを二人で着たのだった。
「めちゃくちゃクリスマス楽しもうとしてるな、俺ら…」
「いつもこんなものだろう」
フィガロが料理の準備をし終えて上からテーブルを眺めれば、クリスマスらしい少し豪華な料理がきれいに並べられ、二人のルームウェアもお揃いで且つクリスマスカラーだ。なんだか男二人にしては大分浮かれているようにフィガロは見えて、少し気恥ずかしくなってしまった。ルームウェアは暖かいという機能性はあるものの、お揃いの服なんて今までに着たことがなかった。ただ家の中で着ているだけなのに、恋人同士という関係が可視化されたようでなんだか歯がゆかった。
「そうかな。まぁ、俺の気にしすぎなだけか」
フィガロは特に気にしていないオズを見て納得し、テーブルの前へと腰を掛け、楽しみにしていたシャンパンの栓を開けた。そしてオズのグラスへと傾けて琥珀色の液体を注げば、きめ細やかな気泡が水面へとしゅわしゅわと音をたてながら浮かんでゆく。それを見たオズは注ぎ終えた瓶を黙ってフィガロから受け取り、今度はオズがフィガロのグラスへと注いだ。
「メリークリスマス、オズ」
「あぁ」
フィガロは顔を綻ばせ、オズは無表情のままグラス同士を軽く合わせ、互いにグラスへと口づけた。
「……フィガロ」
「ん?」
フィガロはシャンパンをゆっくり味わっていたところに名前を呼ばれ、オズを見た。すると、オズはフィガロの唇へ触れるだけの軽いキスを落とした。
「な、なんだよ、いきなり」
「……なんとなく、したくなった」
オズは乾杯をした後、クリスマスは恋人と過ごす特別な日なのだと改めて考えていたら、なんとなくしたくなったのだ。キスをされたフィガロは小言を言いたそうにしていたが、どことなく照れていた。それを隠そうとする素振り、表情は新鮮で、オズはそんなフィガロを可愛いと思ってしまった。可愛い、という言葉なんて本人の前で絶対に言えはしないが。
「おまえ……不意打ちだぞ」
フィガロは目を逸らしながら再びグラスを傾け、照れ隠しにシャンパンを味わいもせずに喉の奥に送りこむ。
二人の付き合いは長く、今は恋人というよりは当たり前にそばにいるような関係の方が近いのかもしれない。もちろん今でもする事はしているのだが、日中はあまり互いにときめくことなどないし、甘い雰囲気になることもあまりない。しかし、そんな中自らキスをしてくることがあまりないオズにキスをされ、フィガロはそれが素直に嬉しく、不覚にもときめいてしまい、それだけでは物足りないと感じてしまったのだ。
フィガロはグラスを机に置き、今度はこちらから何か仕掛けようと身体をオズの方へ向けようとしたが、オズを見ればもう手にはフライドチキンを持っていて、大きな口を開けて齧りついていた。
「やはりここのフライドチキンは美味しい。……フィガロ?」
どうやらお腹を空かせていたようで、フィガロは満足そうに食べているオズを凝視する。その気にさせておいてなんだよそれ、と一人盛り上がってしまった自分が悔しく、心の中でオズに悪態をついた。いや、キスされただけでスイッチが入ってしまう自分も自分なのだが。
「なんでもない。気にするな」
こちらの気持ちも察せずに悠長に食べているオズを見れば、逆に冷静になってきた。今盛ってもせっかく温めた料理も冷めたら台無しだし、別に滅多に会えない関係でもない。それに、今更オズに文句を言っても大人げないとフィガロは思い、何事もなかったかのようにオズの方へ向けていた身体を元に戻した。
ここは我慢して、食べた後のお楽しみにしておこう。そうフィガロは昂ぶった気持ちを胸の内に納め、何事もなかったように皿の上にきれいに盛り付けられているカルパッチョをフォークで刺し、口へと運んだ。
こうして二人はお酒を嗜みながら美味しいご馳走を食べたのだが、その後はしっかりと恋人らしく、熱い夜を過ごすのだった。
了