燃えるような斜陽に照らされたカムラの里の茜空に、無数の流れ星の如く福豆が飛び交っている。
「鬼はーー外っ! 福はーー内ーーっ!」
「鬼は外ーー!」
白い息と共に天高く燃え上がるような、鬨の声。
節分という今日のために、里の教官ウツシが用意した鬼の面やおかめの面を着けた里の人間と観光客、老若男女問わず様々な人々がたたら場前広場に溢れていた。
皆一様に片手にころりとした福豆で満ちた白茶色の小さな升を持ち、空に、里の人間扮する黒衣の鬼役に向けて福豆を投げている。
里の英雄『猛き炎』と呼ばれし娘も、頭におかめの面を着けて升を片手に、そんな人々の中に混じっていた。今日は狩猟ではなく、里の行事で季節を感じようと考えていたから。けれど彼女はまだ一度も投げていない。人々の姿を見ているだけで満たされつつあった。
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