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    高i専夏夢
    短い

    【夏夢】夏の為に下着を選ぶ話ことの発端は数ヶ月前の昼休みに及ぶ。

    「白」
    「いや黒だろ」
    「はぁ〜?ゼッテー白だろ!」
    「いや黒の方が断然エロいね」
    「オイ、お前ら廊下まで聞こえてるぞ」
    煙草を買いに行くという硝子に付き添う形でコンビニで昼食の惣菜パンと紙パックのレモンティー、あと適当にオヤツ用のチョコレートと飴とグミ、それらが詰まったビニール袋を持って私は居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
    五条と夏油は四人しか居ない同級生の男子だ。そう、呪術高専の同級生で、十六歳。つまり、ガッツリ思春期。その男子二人が揃うと自然と猥談へと会話が流れる事は珍しくもなかった。硝子が普段から“クズ共”と虫ケラを見るような目で呼ぶぐらいには“そういう”話になる事も多い。
    これが健全な男子生徒なんだろうな……なんて思いながら気の弱い私は硝子が止めに入るまでその話題を聞き流すだけだったのだけど、その日もやっぱりそうだった。
    コンビニから帰ってきて教室の扉を開ける頃には、すぐに言い合いになりなんなら取っ組み合いにすらなる二人の軽い戯れあいが聞こえた。それだけの事だ。
    そしてそれが扉を開けた瞬間に硝子に怒られる形で終わった。ただそれだけの話。いつもの風景、いつもの日常。

    その後「硝子何色?」と軽口を叩いた五条に硝子がブン投げた煙草の箱が額にクリーンヒットしたのは良しとして、そんな数ヶ月前の何気ない日常を思い出して焦りまくっているのには訳がある。

    「黒って、絶対下着……だよね……」

    いや、黒とか白とか色以前の話だった。
    物心つく頃には自分に呪術師としての才があると分かり、術師の家系で生まれた私は高専に入学するまで鍛錬と任務、そればかりの人生だった。高専に入るまで初恋だってなかったし、所謂“そういう事”に疎い。
    更には自身の術式が近接戦闘型というのもいけなかった。

    ーーースポブラしか持ってない……!!

    だってどんなに激しく動いてもズレないし、揺れないし、利便性だけで選んできたのだから自然とそうなってしまったのだ。
    クローゼットの中の引き出し、下着をしまってあるその場所には、予備を含めた多めのスポーツブラ。谷間の位置だったり脇の位置だったりにプリントされている有名スポーツウェアブランドのロゴを眺めてこんなに焦る日が来るとは思わなかった。
    何度でも言うけど、そう、私は“そういう事”にとことん疎いのだ。

    「硝子ぉ〜〜〜」
    最早反射とも言えるスピードで硝子に泣きついた。だって硝子の方が“そういう事”を知ってると思ったから。
    硝子はオトナだ。多分、夏油も。五条は……どことなく私と同レベルでもおかしくないんじゃないかな。うん、失礼だけどそう思う。
    スライド式のケータイで繋いだ通話の向こうの硝子は“どうしても買い物に付き合って欲しい”という私の申し出に、じゃあ今から、と軽くOKしてくれた。やっぱり硝子はオトナだ。フッ軽だ。
    そしてせっかくだから夕食も外で済まそうという話になったこともあり、私服に着替えて軽くメイクをする為に立ち上がった。



    「ふーん、遂に夏油とヤるんだ」
    「えっ!!なんでわかったの?!」

    いつもの商業ビル、普段なら素通りする可愛い下着屋の前で「ここ寄って良い?」と言っただけで硝子はアッサリと言ってのけた。
    そう、私がこれだけ焦っていた理由、それは夏油とお付き合いを始めたから。
    なんとなく好きになって、でも気後れして、一緒に居られるだけで良いかも、なんて任務に出かける彼の背中を見送る毎日だったのだけど、つい一か月ほど前、夏油に呼び止められて、その場で告白された。
    任務の度に自身の背中に刺さる私の視線で、私が夏油を恋愛的な意味で好きだという気持ちはとっくにバレていたらしい。そこから意識しちゃったんだ、とはにかむ彼の目元がほんのり恥ずかしさで赤くなっていて、私は人生の絶頂を迎えたかのように喜び浮かれていた。
    つい数時間前、クローゼットの引き出しを眺めてため息を吐く寸前までは。

    週末、私の部屋に遊びにおいでよ、泊まりで。

    ふとテーブルの上に置いたままのケータイが震えて、メールの着信を知らせた。
    いつもと変わらぬ軽いノリのお誘いに「桃鉄はそろそろ飽きてきたから別のゲームが良いって提案しようかな」と、カコカコとボタンを押してメールの返信に悩んでいたところ、もう一通のメールの受信を知らせる画面に切り替わった。差し出し人は続けて夏油。そこには「悟にも硝子にもナイショね」と綴られていた。
    お付き合いをしている男女が、誰にも内緒で、お泊り。
    “そういう事”に疎い私でもすぐに何の誘いなのかが分かってしまった。
    バクバクと数字を増やす心拍数を感じながら、夏油とはもう何回かデートと呼べるようなお出かけもしたし、二人きりになるとキスする事だってあったし、その時に抱きしめられる事だってあった。
    つまり……“そういう事”なのだ。
    そこで天啓のように数ヶ月前の夏油と五条の言い合いを思い出したのだ。

    「白より黒の方がエロい」
    そんなの絶対下着の事に決まってるじゃん!!

    部屋のクローゼットで眠るスポブラたちを思い起こしながら、アッサリと看破した硝子に「あ……やっぱ、分かる?」と言い直した。
    恋愛事情に疎い私にすら分かったのだ、硝子がわからないわけがない。

    「まぁ、アンタはスポブラばっかだし、下着屋寄りたいとか初めて言われたし、分かるでしょ」
    「う……おっしゃる通りです……それで、どういう下着が良いか分かんなくて、硝子に相談したくて」
    「だろうと思ったよ」

    寮の共同風呂に何度も一緒に入った仲だ。私の下着事情なんてとうの昔に知られている。
    なんなら新しい下着は見せ合ったりする、例えそれがスポブラだろうと「見て硝子ー!新しいヤツ!脇のサポートがしっかりしてて全然ズレないの!」とはしゃいで見せていた自分が少し恥ずかしくなった。

    「そうだな、無難に上下セットでレースが多めとかで良いんじゃない?」
    「セット!そっか、普段のスポブラだと下はブランド揃えるぐらいだったもんな……」

    言われるまで気付かなかった、スポブラと同じメーカーで揃えているボクサーショーツも“そういう事”には向いてないかも、硝子が居なかったら気付かなかったかもしれない。やっぱり頼るべきは硝子、かけがえのない女友達なのだ。

    「じゃあ、こういうのとか?」
    「シンプルすぎない?もっとレースとかリボンがドバっとついたヤツにしときなよ」
    「ドバっと……」
    「そうだなー、これとか、あとこれも似合いそう」
    カチャカチャとハンガーを鳴らしながら、硝子が見繕ってくれる、その手にはピンクや水色の可愛らしい色合いで、レースやリボンがたっぷりと使われたブラジャー。
    「あ、まって硝子、黒のブラが良くって……」
    「は?なんで黒?」
    「それは、その……」
    そして私は冒頭の数ヶ月前の男子たちのやり取りを説明した。
    何故かツボにハマった硝子がゲラゲラと、付き合う前のそんな話覚えてたのかよ、と笑う。
    「笑い事じゃないのー!」
    「あははっウケるー、分かった、分かったから。そこまで情報あるなら、自分で選べるよ」
    「うーん、でも初めてこういう可愛いブラ買うから正解が分かんなくて……」
    「分かった、じゃあアンタが選んだヤツがOKかどうか見てあげるから」
    「うわ〜ん、ありがとう硝子ぉ〜!」
    「ホラホラ選んで、良いのなかったら別の下着屋もハシゴするから」
    散々笑われたけど、なんだかんだ最後には私に優しくしてくれる硝子に何度もお礼を言って、吟味に吟味を重ねた結果、結局三件も下着屋をハシゴしてしまった。

    「めちゃめちゃダメ出しされた……」
    「そりゃ勝負下着にワンポイントのリボンが付いてるだけのTシャツブラとか論外でしょ」
    「うぅ……」

    硝子が「ま、夏油ならスポブラでも勃つだろうけどね。」と考えながらストローで食後のアイスティーを啜っている事などつゆ知らず、週末のお泊まりにむけて選んだ、カップ全面にふんだんにレースがあしらわれていて、中央にはラインストーンと大きめのリボンがついたブラジャーと、同じリボンがショーツの横に伸びる紐パンのセットが包まれた手提げ袋を祈るような気持ちで見つめた。




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    babinet

    DONE2024年7月13〜15日開催のホンライwebオンリー(ホラ夏)展示小説②

    ※現パロ

    【ネップリ番号】
    50741374
    セブンイレブンにて小冊子印刷(右綴じ設定)で同時公開の「黒い箱」と一冊の小冊子に印刷できます。
    お手元に残したい方はどうぞ。
    期限は7月20日中。
    赤い箱それは、久々に休みの合ったホンゴウと出かけた帰りだった。所謂デートってヤツ。
    お互い中々休みが合わない。夜に飯だけ、家で呑んで泊まるだけ。そんな日々が続いた中で、久しぶりに丸一日を使った外出だった。

    梅雨の頃合いの筈なのに妙に暑い今日。
    ショッピングモールで買い物。映画。美術館。水族館。プラネタリウム。出た案の後半は、男同士のデートにはロマンチックすぎるから、おれたちはショッピングモールで一日を過ごした。
    お互いの夏服を選び、おれのサンダルを買い、休憩におれがアイス、ホンゴウがクレープを食い、本屋でホンゴウがいつも通り小難しそうな本を買い込んだ。
    なんの疑問もなく、日が暮れた頃に自然な流れでおれの家の最寄駅に向かい、馴染みの焼き鳥屋の暖簾をくぐった。涼しい場所で一日を過ごした筈なのに、サウナの後みたいに冷えたビールが喉を通って行くのが心地良かった。
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