さわりおおよそ3年は持つだろうと言われたそれは、長らくしないうちに3年が経った。
メンテナンスをこまめにし、ゆっくりと過ぎていく日々の中でまだ生きていられるのかと言う実感と、ゲームでいうボーナスタイムのようなものかと思いながら、セラフは九月になってもいまだに茹だるような暑さを残すこの日に口を開くことにした。
もう決心はついているものの、これがいつ終わるボーナスタイムなのかもセラフには判別も判断もつかないものだった。なのでゆっくりと、絡まった糸を解くように強く引っ張らないように言葉を選ぶことにした。
ひとえに、自身がした人助けによる決断が間違ってはいなかったこと。
そして、それによって起きる弊害に対する謝罪のような、そんな気持ちがふと湧いてきたのだ。
きっと許してくれるだろうと信じて黙っていたけれども、いつ終わるかわからない刹那的な感情を持て余すのもどうかと思ったのも一つだった。
雑居ビルの階段を登り、蒸し暑さと薄暗さを抱え込むような空気をゆっくりと吸い込む。じっとりとした肌の感触は自分がまだ生きていることを理解するのには十分なほどだ。しかしながら、この体はもう機械になって数年経っていた。
唐突に意識がなくなって。また説明もないままに自身が機械の体になったとすればあの相棒はおそらく生身がどうなっているかを調べるだろう。
それでもよかったのだが、自身の決断を踏み躙られたくなかったのも一つだったのかもしれない。
そもそも、あの時だって自分が生きていたのは正直ボーナスタイムと同様なものだったのだ。それが明確に、曖昧に期限が決まっただけの話だったのだ。
ゆっくりと頭の中で会話をシュミレーションしていく。本来であれば必要のないプロセスなのに、いざ扉を目の前にすればやはり必要だと思い短いやり取りを何パターンも繰り返す。
深呼吸
冷たいドアノブを開けたのはおおよそ同時だったのやもしれない。
「なに、ドアの前で突っ立ってんのさ。」
「いや、特に意味もなく」
「アイスコーヒー淹れたけど飲む?」
「ほしーかも」
「じゃあ早くドア閉めた閉めた」
何度も考えた会話のプロットが悉く音を立てて崩れていく。どうしたものかと思いながら、促されるようにソファに座る。
もう随分と使い古したなと感慨深くなる分、この時間の有限性に何だか心が痛くなるような感覚がセラフを苛んだ。