🎋「アイクはさ、僕と1年に1回しか会えなかったらどうする?」
夕食を終えて食器を片付けている時、シンクで洗い物をしているシュウが話しかけてきた。突拍子もない質問に僕は不思議に思って首を傾げていると、シュウは皿から目を離して僕の方を見た。
「今日ってさ、七夕でしょ。日本では織姫と彦星は一年に一回しか会えないらしいからさ、聞いてみただけ」
「あぁ…そういうことか」
七夕の話。織姫と彦星は元々夫婦だったが仕事をせずに遊んでいたせいで天帝の手によって離れ離れになってしまい、会えるに1年に1回だけと制限されてしまった話。毎年7月7日はその織姫と彦星が会う日と言われている。急にシュウが質問したのにも納得がいった。
「1年に1回しか会えないなんて無理だよ。考えられない。君を僕の家に縛って出さないようにするかな」
「わお。君ってたまにすごい発言するよね」
「そうかなぁ?僕は本心を言ったまでだけど」
シュウは僕の回答に驚いたようだけど、僕は結構本気である。こんなに毎日シュウと会って会話して愛し合っているのに、仕事で何日か会えない時は無性にシュウが足りなくなるだ。部屋のベッドに閉じ込めてずっとその部屋で暮らしてほしいと思う時もある。そんな事は彼が望んでいないからするつもりはないんだけど…。悶々と考えているうちに洗い物を終えたシュウはタオルで手を拭き、何かを考えているのか動きが止まる。
「もし、もしだよ?…1年に1回しか会えなかったら君は僕のことを忘れてしまうかな?」
眉尻を下げて僕をみるシュウ。七夕で想像してしまったのだろう、もし1年後に会えた時自分のことを忘れてしまっていたら。彼が1番恐れている“自分を忘れられる”という事を想像して不安になったのだろう。僕は彼を安心させるように胸の前で彼の両手を握りしめる。そしてしっかりと目を見つめて宣言した。
「忘れるわけないよ。君と会えない時間はずっとシュウのことを考えている」
「…アイク」
不安そうだったシュウの表情が少し和らぐ。僕はさらに手に込める力を強めた。
「それにこの頃と違って僕たちにはインターネットがあるからね。毎日電話をかけて毎日好きだと伝える。君と一緒に住む前と一緒だよ。もし電話もできないのなら君への気持ちを募らせて、会える1日で全て君に捧げるよ」
真剣な僕の表情に呆気に取られるシュウ。目を見開いてただただ真っ直ぐに僕を見つめる。彼の手を口元に持っていき、ちゅっと軽く唇を落として笑みを浮かべる。
「全部全部ぶつけるから、…全て受け取ってくれる」
僕の問いかけに固まっていた彼の表情がどんどんと和らぎ、いつもの優しい笑顔を取り戻された。彼が一歩距離を縮めて肩に頭を乗せた。彼から手を離し、珍しく素直に甘えてきたシュウの頭を撫でるとシュウから笑い声が聞こえてきた。
「ん、ふへへ。アイクの気持ち、全部受け取るのに1日以上かかりそうだね」
「365日かかるよ。受け取ってくれるまで返さないから」
「おわ、それは大変だ。じゃあさ、アイクの気持ち受け取ったら次は僕の気持ち受け取ってくれる?」
「勿論だよ。何日かかるかな?」
「365日」
「余裕すぎ。じゃあそのあとは僕がまたシュウに愛を捧げるからね」
2人見つめあうとお互いぷっと吹き出してお腹を抱えて笑い出した。笑いがおさまり、僕はじっとシュウを見つめているとシュウはどうしたの、と言った表情で首を傾げて僕を同じように見つめてきた。
「ねぇ、今日は七夕だよね?」
「ん?そうだよ?だからこの話題を出したわけで…」
「じゃあ、今日は僕の愛を受け取ってくれるよね?」
するっとシュウの頬を撫でる。意味を理解したシュウが少し頬を赤らめ、目を細めて笑うと僕の手に自分の手を重ねた。僕の手に頬を擦り寄せてアイク、と僕の名を呼ぶ。
「…、僕を離さないようにたくさん愛してね」
幸せそうに笑うシュウがあまりにも綺麗で愛おしくて堪らない。こつんと額同士をくっつけては“愛してるよ”と簡潔に伝えて唇を重ねた。僕を受け入れるかのように彼は腕を背中に回して抱きしめてくれる。僕も腰に手を回してシュウを引き寄せた。長い長い夜の始まり。僕は彼の服の中に手を入れた。