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    陽野あたる

    堺裏若頭推し。
    たまにもそもそ小説書いたりラクガキしたり。
    堺、鬼辺りに贔屓キャラが固まってます。

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    陽野あたる

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    夏休み出張版のワンライワンドロ企画に投げたヤツ

    #二次創作
    secondaryCreation

    暑さに負けず! ひゅ、と鋭く突き出される切っ先を躱し、ガラ空きの胴へ蹴りを叩き込む。身体を折り曲げて内を庇うように下がった肩口へ一撃。
    「ぐ……っ!」
    「はい、お前今死んだ。次!!」
    「お願いしあすっ!」
    「声が小せえ、気合い入れろこらぁっ!」
    「はい、お願いします!!」
     後ろに控えていた部下を促すと、だっと飛び込んで来るのを迎え討つ。
     ここ、堺裏の稽古場では、今日もうだるような暑さにも関わらず多くの面子が訓練に勤しんでいた。
     窓も扉も全開にしているとは言え、今年の夏は特に気温が高い。入って来る風も決して涼しくなどなく、却って蒸し風呂のような熱気を高めて行くようだ。いくら陽射しがないだけマシとは言え、扇風機も役には立たずほとんどの男は上着を脱ぎ捨て汗だくになっている始末だった。
     毎度実戦を想定しての立ち合いは得物だけに留まらず、急所狙いから殴る蹴る、飛び道具まで何でもありと言うのが唯一の決まり事である。試合に用いる『道』の精神ではなく、死ぬか殺すかの紙一重を常に身につけるためだ。
     容赦ない一撃を浴びて床を転がる部下に、朱の盆は小さく吐息をこぼす。
    「びびんな、腰引けてんぞ」
    「すみません!」
     まだ日が浅い者にとっては、この覚悟を決めるのも一苦労なのだと言うことはよく解っている。実際命の瀬戸際に立ったことがあるか否かと言うのは大きな差だ。
     けれど常に前線で刃を振るうことを求められるこの仕事において、一人でも部下を死なせずすむように朱の盆はその厳しさを緩める訳には行かない。ぬらりひょんに任されているから、と言うのも勿論だが、せっかく志を抱いて門を叩いてくれた大切な仲間を失いたくはないからだ。
    「おし、次!」
    「兄貴、そろそろ休憩挟みませんか? さっきからぶっ通しで俺たち相手にしてるでしょう」
    「ぁあん? ナメんじゃねえわ、このくらいどうってことねえ」
    「おやまあ、じゃあアンタは西瓜要らないんだね、朱の盆」
    「え、煙羅煙羅……」
     いつの間にか切った西瓜を載せた皿を手に佇んでいた姉貴分の涼やかな声に、思わずぎょっと朱の盆は顔を強ばらせる。幼い頃から面倒を見てくれた彼女には、さすがに頭が上がらないのだ。
    「過酷な訓練するのもいいけど、みんながみんなアンタみたいに頑丈じゃあないんだよ」
    「解ぁったよ、ほら全員休憩! 差し入れありがたく食えよ!」
    「姐さん、あざーっす!!」
     わっとむさ苦しい男たちが小さな皿に群がる。山盛りあった西瓜はあっと言う間になくなった。
    「まだあるから落ち着いて食べな!」
     井戸水でキンキンに冷えた瑞々しい果実は、疲労困憊だった身体へ優しい甘さを届けてくれる。
    「それにしたって、ここは本当に暑いね……氷柱置くとか何とかしたらどうだい?」
     そう言う煙羅煙羅は体質的に汗一つかいていないものの、やはり暑いとは感じるものらしい。がぶりと手にした西瓜へ噛みついて咀嚼していた朱の盆は、珍しく考え込むような顔をしながら答えた。
    「それも一応考えたけどな」
    「狭くなるかぃ?」
    「いや……オレたちが助けに行かなきゃならねえ場所ってよぉ、ほとんどろくでもない環境な訳だろ」
     火事場であったり、崖が崩落した場であったり、雪山であったり、誰かが助けを求める時は災害や事故、妖力の暴走、など普段では考えられない状況になっていることが多い。
     それでもその中で戦い、誰かを守り、己の限界ギリギリでの活動を求められる。
     武でこの國を支える、と言うのはそう言うことだ。
    「だからあんまり快適な状態で訓練してもなぁ……って思ってよ」
    「まあ、それはもっともだけど無理するんじゃあないよ」
     変なところで生真面目な男なのである。
     だからこそ、部下も彼を信じて着いて来るのだろうが。
    「解ぁってるよ。ごちそーさん」
     ぐい、と口元を拭う頃にはもう視線は一息ついた部下たちの方を向いていて、煙羅煙羅はやれやれと呆れて苦笑を浮かべるしかなかった。
    「おーし、最後一本行くぞ!」
    「「押忍!!」」
     災厄はいつ何時訪れるか解らない。
     故に、一人でも多くを救えるよう万全を期しておかねばならない。
     馬鹿がつくほど真っ直ぐにその想いを抱えた者たちによって、今日も堺は平穏無事に回っているのだ。


    以上、完。
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