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    陽野あたる

    堺裏若頭推し。
    たまにもそもそ小説書いたりラクガキしたり。
    堺、鬼辺りに贔屓キャラが固まってます。

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    陽野あたる

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    以前書いてたもの一本に纏めていこうと思います。

    #二次創作
    secondaryCreation
    #鉄朱
    redIronOxide

    夜明け前が一番昏い① カアアー……ッ、ァアー!
     鈍色の空の下を無数の鴉が飛び交っている。
     つんざくような耳障りな鳴き声は、縄張りへ無断で侵入されたが故の威嚇か、獲物を横取りされそうな怒り故か、刺々しい敵意に満ちていた。
    「兄貴、こっちです」
     朱の盆が部下に案内されたのは、堺の郊外の中でも一際國境の山に近い外れた場所だった。
     街道からも奥まっているため、滅多なことでは他の者も足を踏み入れないだろう。市民から鴉の集団が騒いでいる、何かあったのではと通報がなければ、きっとまだ誰も気づかなかったに違いない。
    「…………こいつぁ、酷えな」
     思わず舌打ちと共に顔を顰める。
     朱の盆の視線の先には、大量に打ち捨てられた夜泣き石の残骸が転がっていた。
     そのいずれもが、わざと傷をつけて罅や欠けを入れられた無残な状態だ。中には粉々にされている者もいる。
     それだけならばまだ、彼らを捕食対象とする妖怪なり怨霊なりに喰われたのやもと思えなくもなかったが、一匹残らず両の目玉を抉られており、そちらの方が目的であったのは火を見るよりも明らかであった。
     夜泣き石の涙は魔除け効果が非常に高い稀少な材料で、なかなかの高値で取引がされている代物だ。散々痛めつけて泣かされた挙句に、弱った者はさらに希少価値の高い目玉を奪われ処分されたのだろう。
     堺ノ國ではこうしたツクモ神は捕獲に関して厳重な規制が敷かれており、猟場も決まっているはずである。が、それを知らぬ余所者が入った、と言う情報は今のところ煙羅煙羅の網にかかっていない。
    「兄貴……こいつも例の……」
    「…………だろうな。とりあえず、他に手がかりがないか探すぞ」
    「うっす」
     このところ、堺ノ國ではこうした事例が多発していた。
     昔から密猟を行う輩がいないではなかったが、その量はあくまでも個人や小さな仲間内集団、と言った範囲を出はしなかったのだ。
     勿論、だからと言ってそれが許されるはずもなく、裏の情報網から逃れられる者はいなかったし、検挙後の厳しい訊問と刑罰を味わって再犯するような愚か者もいなかった。
    ーーこれだけの数は一人じゃ運べねえ……仮にオレが抱えるにしても五匹くれえが限度だ……他の剛力な種族、にしてもそう大差ねえ……何度も往復すりゃ目立つ……
     現場付近にはいくつも足跡があったことから考えても、それなりに人数がいただろう。
     そして、犯人たちが所持している夜泣き石がこれで全てでないならば、かなり大規模な組織である可能性も高かった。販売経路や何やらも考えれば、かなり面倒なことになるかもしれない。
     真夏でなかったこと、そして夜泣き石が鉱物に近い生体系であることが幸いして今回の現場はまだマシだったが、先日の福助猫の時は散々であった。腐乱した屍肉に虫が集り、辺りは鼻が曲がりそうなほどの臭いが立ち込めていたせいで、怖い者知らずで通る部下たちでも堪え切れずに嘔吐する者が続出して大変だったのだ。
    ーー同じ命には変わりねえけどな……
     せめて埋葬して土に還してやるか、と鍬を手にした朱の盆の元へ、一人部下が駆け寄って来る。
    「兄貴、ちょっと……これ見てくだせえ」
    「ぁんだよ、どうした?」
     部下が差し出したのは、夜泣き石の破片だ。
     片方は墨のように真っ黒でパキッとした断面であるのに対し、もう片方は赤茶色に白が時折混ざったざらざらした断面である。
    「別の種類……?」
    「ええ……しかもこいつはどっちも堺の夜泣き石じゃねえんす。勿論遺棄されてた殆どはうちの領地の産まれなんですが……」
    「他國でも同じような真似をしてる可能性もあるってことか」
     再度舌打ちをこぼす朱の盆に、部下は深刻な顔で小さく首肯した。
     もしそれが真実ならば大問題だ。
     下手をすれば、せっかく最近友好的な関係を築けている各國へ、諍いの火種をばら撒くことになる。
    「解った……お館様へはオレが報告する。お前はうちの産まれじゃねえ奴の欠片を持ち帰って、調査班で解析してもらえ」
    「承知しました!」
    ーー後手に回ってる……早く捕まえねえと、もっとやべえことになるんじゃ……
     しかし、部下たちの前で不安そうな顔はしていられない。込み上げる懸念をどうにか押し込めて、朱の盆は鍬の柄を握り締めた。


    * * *


    ーーこれはタヌキ、タヌキ、これも、猫又……オレ、裏へ……これも、タヌキ、猫又、こっちは……任せたら時間かかるか、オレ……タヌキ……
     毎日鉄鼠の一日は、机の上に山と積まれた書簡や書類を分別するところから始まる。
     報告書や稟議書、申請、企画、その他相談事まで多岐に渡る内容を即断で振り分けて行くのはなかなか手間ではあったが、他にやれる者はいないのだから仕方がない。
     上司である隠神刑部はとかくこの手の作業をやりたがらないし、猫又もぎりぎりまで後回しにするタイプだ。かと言って部下に任せれば、いちいち確認に来られるのが効率的でない、と言う理由で致し方なくやっているのである。
    ーーとは言え、最近増え過ぎだな……
     親しみやすい妖主を目指してるんだよねえ、と言う刑部の言葉通り、些細なことでも疑問や要望を拾い上げようとする姿勢は立派だと思う。それをちゃんと自分で実行するならば、と言う言葉を顔面に叩きつけたい気持ちは膨れ上がる一方ではあるが。
     次は市場価格を確認し、流通の具合を確認し、流行り物や季節的に大きく動きそうなものを確認し、と枚挙にいとまがない。決済権限のあるものには判を押し、裏へ渡す資料を纏めている内に、鉄鼠はふとあることに気がついた。
    「隠神刑部様……ちょっとよろしいでしょうか?」
    「鉄鼠、どうしたんだい?」
    「これを」
     あまり気の進まなさそうな顔をしている刑部へ差し出したのは、失せ物の類いの届出であった。
     いずれも目が飛び出るほど高価な品、と言う訳ではない。どちらかと言えばいろいろな店で取り扱われる安価な既製品で、いくつも同じものが出回っているような代物だ。
    「草履の片方が二件、着流しに小物入れ、帯留め……これ、小物入れはともかくみんな一体どうやって帰ったんだろうね」
    「笑い事じゃありませんよ。気がつかれませんか?」
    「……皆同じ犯人なら、ほぼ一式新しい仕立てになるってことかい?」
    「ええ……何か引っかかります」
    「でもこれは……探したところで見つからないだろうなぁ……名前でも書いてれば別だけど。こんなのも裏へ渡すのかい?」
    「そりゃあ、受けた以上オレの手で捨てる訳にも行きませんから。あちらがどう判断するかは知りませんが」
     とは言え、いずれもなくなった場所が銭湯であったり道場の支度場所であったり、絶対的に「盗まれた!」と断言出来ないところが巧妙で狡猾だ。草履など間違えた、と言われてしまえばそれまでである。
    「少し気をつけておくよう伝えておきます。それと、各所に注意書きでも貼らせましょう」
    「そうだね……味をしめたら、別のデカいものを取りに来るかもしれない」
     何か掴んでいるかもしれない朱の盆たちにみすみす情報を渡すのはいささか癪ではあったが、何か起こってからでは遅いのだ。
     鉄鼠は己のこうした危機感知と言うか虫の知らせと言うか、嫌な予感と言うものを決して軽視したりはしない。何も起こらず取り越し苦労であるならよし、それで危ない場面をあわやで救われたことも多いからだ。打った布石はいつか別の場面で役に立つこともある。
    「……それにしても、もう一つおかしい点が」
    「何だい?」
    「いろんなものが値段爆上がりしてます」
    「…………それはよくないな……具体的な品目は解るかい?」
    「ええ……まあ、日常的に絶対必要かと言われるとそうでもないので、そこまで大きな混乱になることはないと思うんですが……」
     一覧表を渡しながら、それでも不信感は拭えない。
     余程急を要する需要がなければ、買い控えで品数が戻り次第落ち着くだろうと言う程度のものではある。が、二人の耳には不作であったと言う報告は入っていないし、それほど大量消費が見込まれるものでもないはずだ。
     故に、鉄鼠の本能が警鐘を鳴らしている。
     同時期にいつもと違うことが、妙だと己の神経を逆立てる類のものがいくつもあると言うのは決して偶然ではない、と。
    ーー何か……引っかかる……この組合わせ、以前どこかで目にしたような……
     随分昔に一目見ただけだとすれば、さすがに詳細は覚えていないしこれだと断言も出来ない。
    「とりあえず、出荷してくれる村に訊いてみてくれるかい? 他國の分はボクが確認しよう」
    「承知しました、よろしくお願いします」
     ぺこりと一礼して自分の机に戻る。
     手帳を取り出して、個人的に訊いた朱の盆の予定に目を通せば、今日は珍しく午後からなら城にいるようだ。
    ーー言付けてもいいですが……まあ、このくらいなら持って行くか……
     懸念を伝えておくにしても、的確に明確に言葉にしないと朱の盆には伝わらない。この辺のコツは鉄鼠もようやく最近掴んで来たところで、他人へ預けるよりも直接出向いた方がいいだろう。
     決して、しばらく逢っていないから顔を見に行くためではない。
     そこはかとなく部下の機嫌が上向きになったことに隠神刑部は気づいたものの、そこはさすがに黙っておいた。要らぬ口を挟んで自慢の尻尾を毟られでもしたら大変だからだ。


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