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    陽野あたる

    堺裏若頭推し。
    たまにもそもそ小説書いたりラクガキしたり。
    堺、鬼辺りに贔屓キャラが固まってます。

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    陽野あたる

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    #二次創作
    secondaryCreation
    #鉄朱
    redIronOxide

    夜明けの前が一番昏い③ 煙羅煙羅から情報を掴んだと言う知らせが入ったのは、それから数日後のことであった。
    「大通りの南の方にある料亭なんですが……『和久井屋』と言う名前の」
    「他國からの客も多い店だな。結構賑わっていたように記憶しているが」
     他所からの出入りが多い、と言うことは不定の輩も入りやすい、と言うことだ。勿論堺にはそうした店が星の数ほどある。それでもいくつかは『客』と呼ぶには些か胡散臭い者たちの出入りが多いとして、裏では絶えず監視をつけている場所があるのだ。
     名前が上がった和久井屋も、そうした店の一つであった。
    「あれからしばらく見張っていたのですが、入った客の数と出た客の数が合わない日が幾度かありました」
    「……それって、」
    「和久井屋は宿泊出来るほどの施設はなかったな? 少なくとも許可は出してなかった」
     如何に個室があろうとも、きちんとした設備がなければ堺では宿泊施設としての認可が降りない。つまり何者かが一部屋占領しているのであれば、どんな事情があろうと然るべき措置が取られると言うことだ。
    「ええ……そこであたしが侵入してみたところ、個室に留まっている輩はいませんでしたが、」
    「じゃあ、一体どこに消えたって……」
     先走って声を上げる朱の盆にやれやれと言いたそうな視線を向けたものの、煙羅煙羅はこほんと咳払いをしただけで続きを口にした。
    「いませんでしたが、一番奥の個室に、地下道へ抜ける隠し扉があるのを見つけました。少し長いようでしたので、行先を突き止めることは叶わなかったのですが……」
    「ふむ……」
     避難用だと言い逃れされても、ならば隠す必要はなかろうと強引に調べることも出来なくはないが、それで本当に何でもないところへ繋がっていたら目も当てられない。
     せめてどこへの地下道なのか把握してからでなければ、店主を訊問するのも難しいだろう。
    「お館様、オレが調べて来ます」
    「…………いや、お前は面が割れているだろう。行けばすぐバレて警戒される。誰か適任の部下はいないか?」
    「……なら、茎と鈨と三郎丸の三人で」
     不満そうに口を尖らせはしたものの、朱の盆はすぐに名を上げた。意外な選抜にぬらりひょんが思わず目を丸くすると、
    「茎は古株で調査の経験も豊富なんで、現場に残って見張りを。店員に怪しまれても切り抜けられる。鈨は腕が立ちますし、罠や仕掛けがあっても騙されない目端が利くヤツです。三郎丸は……入ったばっかなんで、経験積ませてやりたくて」
    「……成程」
     おまけに同族の三人ならば、父親をもてなそうとする兄弟と言う設定が違和感なく使えるだろう。朱の盆がそこまで考えての人選をしたかどうかは解らないが、その無意識の嗅覚にぬらりひょんは重きを置いているのだ。
    「解った、ではその三人で明日早速向かわせてくれ」
    「承知しました」
     ぺこり、と頭を下げてから、朱の盆は早速部下たちが待機している一室へ向かった。
     折りよく茎と三郎丸はそこにいた。鈨は道場だと言うので別の者を呼びにやって、自室へと戻る。
     三人が揃ったところで、かくかくしかじかと任務の説明を手短にすませた。
    「……と言う訳で、お前らに和久井屋の調査を頼みたい。任せていいか?」
     朱の盆からの任命に、茎と鈨はすぐに「承知しました、お任せを」と頷いたものの、三郎丸は思ってもみない大抜擢にぶるぶると身体を震わせた。裏へ入って数ヶ月、本格的に仕事を振られるのは初めてと言っても過言ではない。
     緊張で強張る顔が今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、自信のなさそうな声で口を開く。
    「何でオイラなんですか、若頭……」
    「何情けねえ面してんだ、三郎丸。店ん中調べて来るだけだ、ビビるようなこたぁねえよ」
    「で、でも……」
    「いいか、三郎丸」
     すすす、と下がってしまう顔を窘めるように、朱の盆はその頭をわしわしと撫でると、視線を合わせて力強い笑みを浮かべた。
    「誰だって最初は怖えよ。失敗したらどうしようとか、間違えたらどうしようとか、考え出したらキリがねぇ」
    「…………」
    「いいんだよ、失敗しても間違えても。そのために一人じゃなくて茎と鈨も一緒に行くんだ。二人のやり方じっくり見て、勉強しろ」
    「オイラに……出来ますか?」
    「大丈夫だ! それにずっと二の足踏んでたら、お前はいつまで経っても一人前になれやしねえだろうが。一気に何もかも出来るようにならなくていい。とりあえず、現場出て男を上げて来い」
    「はい!」
     支度して来ます、と駆け出した少年の背中を見やって、茎と鈨がにやにやと揶揄するような笑みを浮かべる。
    「若頭も仰るようになりましたなぁ」
    「ホントに。部下を鼓舞するなんて、昔じゃ考えられねえや」
     二人はまだ不慣れな『若頭』だった頃の朱の盆を知っているものだから、しみじみとしたような顔で頷いている。
    「うるせえな……とにかくそう言う訳だから、お前らは二重の意味で頼むぜ」
    「ええ、大丈夫です」
    「任せといてください!」
     心強い言葉で頷いてくれた二人に事の次第を任せ、朱の盆は通常の任務を回すべく部屋を後にする。一刻も早く彼らを見つけて止めなければならない。堺で暮らす妖怪たちにこれ以上の災厄が降りかかる前に。

    * * *

    →続く
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