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    だいたい清則まとめとかじじいのえろ練習置き場

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    ワードパレットより
    頂いたお題:
    メンヘラ審神者×加州
    A-10「冗談のふり」

    「何それ、お洒落だね」
    通りすがった加州に目を留めて、兄弟と談笑していた信濃は思わず声をかけた。年長組とはいえ懐っこい粟田口の一団は、あっという間に獲物を囲う。
    可愛くありたい初期刀が普段から顕現時の装束と異なる格好をしていることが多いのは知っていたが、今日はまた一段と風変わりな格好である。
    色味は戦闘服と同じ黒に赤を基調としているが、機能性はよくなさそうだ。血や死骸を模したおどろおどろしい柄については敵への威嚇に使えそうなのでいいだろう。形状に難がある。
    身を覆う部分が所々妙に裂けたり穴を開けたようになっているにもかかわらず、仮留めに使えるはずの安全ピンやベルトがぶら下がっているのは、そういう破損をわざと避けたような一枚布部分だ。そのくせ裾や袖周りへは明らかに装飾でしかない布や紐がたっぷりと添付され、補強材であるはずの鋲もあちこちへと無秩序に散さられている。サイズも上着はだぼっと大きく下衣の方はピチピチで、どちらも体に合っていない。当たり前ではあるが、防具も一切見あたらない。
    つまり、どう見てもそれは、完全に着飾る為だけの衣装に間違いなかった。
    「ん……おお、似合ってるぜ旦那。そりゃああれだな?図書館の雑誌で見たぞ、あー、んー、なんたらぱん……菓子パンみたいな、名前の、あれだろう」
    「ねえそれゴスパンのこと言ってる?」
    思わず正解を叩きつけた乱が、首をひねっていた薬研を信じらんないとじっとり見た。「ああそれだそれ」笑いながらスッキリした顔の彼に悪気がないのは明らかなのだが、キッと尖った視線は和らがない。厚は生ぬるい笑いを浮かべ、まあまあ、後半だけでも合っているなら上々だろうと仕方なしに間に入ってやった。
    そのやりとりをよそに、へー格好いいなあと感心した様子の後藤も交え、加州への衣装チェックは続いていた。
    「アクセサリーも凝ってるな」
    「篭手より重そうだね」
    「視点そこか?」
    「その首の、南泉さんも似てるのつけてるよね」
    加州のいつもは赤い爪の先が、今日はマットに黒く染められている。指や手首には燻し加工を施されたいかつい銀色の輪がはまり、ふだん襟巻で隠されている鎖骨周辺は大きく開いた襟周りから惜しげもなく晒され、白い肌が際立った。
    細い首筋だけが、ぬるりと黒光りする革の質感に被われてよく見えない。
    取り付けられたレザーの深い色あいは鎧にも似ていた。こっくりとした黒に、磨き上げられたゴールドの金具。後藤と信濃のちょうど目線の先で、バックルにぶら下がった小さな錠前が照明を反射してキラリと光った。
    「へえ、首輪か?」
    「もうお前黙ってろよ」
    「ボク知ってるよ、それ、チョーカーって言うんだよねっ」
    暢気な薬研と慌てる厚を無視し、気を取り直して腕に抱きつく乱が似合ってる!と誉めれば、加州はどーも、と笑ってウインクをして見せた。

    「ただいまー、……主?」
    ノックもせず執務室に踏み入った加州は、いかにも待ち構えた様子で卓袱台についている審神者に目をやり少しばかり気まずげな顔を見せた。
    顎の下で手を組み、頬杖を立てたポーズからはいかにも由々しき問題が起こりましたと言わんばかりで、加州、と彼を呼ぶ声もわざとらしく固い。
    「ちょっとこっちに座りなさい」
    「なーに」
    素知らぬ顔で審神者の向かい側に座ろうとしたところで、手をこまねかれた。加州専用の座布団が仰々しく差し出されたのは、審神者の手を伸ばしてすぐの場所だ。
    抗う訳にもいかず、彼は僅かな躊躇いを隠して仕方なしに主の前へ腰を下ろす。普段と違って正座をしたのは、何となく。膝を突き合わせたそこにいるのは、いつもと変わらない己の審神者である。
    「どこ行ってたの?」
    「んー、少し、さんぽ」
    低く作った声で訊ねるひとに、首を傾げて答える姿には愛らしい媚びがあった。ぱちぱちと瞬きをする宝石の瞳は無邪気さを装う。
    汗を含んで肉厚な審神者の指が、すいと伸ばされて加州のこめかみに触れた。労るように、指の腹が優しく滑って耳朶の周りを愛撫する。表情が強張りを見せぬよう、食いしばらない程度に力を案配していた事はバレていたらしい。身で受けた甘い仕草に、加州はほんのりと頬をすり寄せて見せた。
    「起きたらいないから、どこ行ったかと思っちゃった」
    咎める色は薄いが、まだ声には不満足が表されている。
    おもむろに、もみあげに当てられていた親指が小作りな顔の輪郭をなぞり、おとがいをきゅうとつまむと上へ押し上げる。は、と小さく息をつく音。動きに合わせ首元で金属音がして、やっぱり、と審神者は滑らかな喉笛に巻かれた装身具に嘆息した。
    「こんなのつけたまま、部屋の外に出てたの」
    こんなの、と呼ばれたものは、飾りではない錠が下りているため、加州には外すことができない。
    ぐん、と普段ではない乱暴さで、顎を押さえられているままだというのにうなじへ引き倒さんばかりの圧がかかる。頚椎が軋み、襟足の髪を巻き込んで千切りながら、皮膚に鞣し革が食い込んだ。
    「マフラーもしないでさ、完全にわざとじゃん」
    チョーカーに似てこじゃれた首輪を留める南京錠は、そうして無理やり摘まみ上げて引っ張られても微塵も外れる様子はなかった。てかりと冷たく光って首に嵌まりきっている。
    ていねいに仕立てられた本革は美しい。無駄な遊びを作らず締め上げられ、シミ一つない白磁の首に大変良く映える。夕べは戯れの中で擦れる肌を赤く侵していたが、一晩経ってすっかり馴染んだのか記憶の跡形もない。
    矯めつ眇めつ、じっくり鑑賞される強制的に反り返った頸部の、男性を主張するゆるやかなふくらみが、嚥下をなして控えめに上下する。
    「……似合ってるって褒められちゃった」
    「え、誰から?」
    「大将組」
    「あれ、短刀ちゃん達に会ったの。何か言われなかった?」
    「別に……ああ、この服は物珍しかったみたい」
    「そっか、良かったねバレなくて」
    「俺は教えてもいいけど」
    「加州」
    悠長な会話の最中、突然牽引から解放された体は後ろに傾ごうと倒れ始める。反射でバランスを取り直そうと背面に伸ばした手は後頭部に走った痛みに思わず空を掻いた。先程千切れた分量とは違い、地肌ごと持って行かれそうな範囲の頭皮に全体重が乗っている。
    原因は探さずとも知れた。審神者が手綱を持ち替えたらしい。いつの間に手に取られたのか、加州が胸元に流していた艶やかな黒髪の一房が、今はリードのように二人の間を繋いでいる。
    「いっ、た」
    「あー、ごめん」
    改めて手を突いて体勢を整え、ようやく漏れた感想に、審神者はあっさりと謝罪を述べながらも掴んだ絹糸は放さなかった。
    手中に垂れる毛先をくるりくるりと弄びながら、動きづらそうに脚を崩して座り直した加州のデコルテ上部にまた視線を這わせる。
    「いや、うん、ほんと似合ってる」
    「自画自賛?」
    「選んだ俺の腕じゃなくて加州が何でも似合いすぎるんだよなあ」
    「可愛い?」
    「うん、どこにもいかないよう、仕舞っちゃおうかなってくらい」
    薄く生じた笑顔。言葉に混ざる愉楽の色。クン、と尾を手繰られる痛み。より側へと望まれたのを察知して、加州は逆らわずに頭を寄せた。抜けた後れ毛が首輪に絡まり、背を撫でている。不愉快な悪寒が掻き立てられるのが煩わしい。まだ眠気のにおいを漂わせる眼前の主に集中したいのに。焦れた。かしゅう。呼び声が近い。かかる息を吸い込んで、滲んだ熱い唾液を胃に落とそうとすれば、喉仏にゆすられてチリリと掛けっぱなしの錠が鳴った。
    暗がりでは見つからなかった鍵穴に、起きたら外してあげるからねと囁いた、困り笑いを含む闇夜のかすれ声。
    夜半のじゃれ合いがまざまざと脳裏によみがえって加州の心鉄をくすぐる。
    「そうして」
    「うん?」
    「俺があるじのモノなんだって、てっていてきに、もっとして」
    寝乱れたままの襟元に唇を寄せ、鼻先を首のしわに埋める。汗の匂いがした。そのまま口に出せば、動揺した手付きが髪伝いに届く。素直なひと。俺だけになら。
    可愛い愛刀の、ぐりぐりと肩口を捏ねる小さな頭がくすぐったい。抱き付いてきた背中に腕を回して、審神者は懐の小さな鍵を無くさないよう、ひとまずどこに片付けるべきか思案する。
    本日中に“しるし”を取り上げる気にはなれそうになかった。だが、我慢しかねて押し付けた、あからさまな所有欲を恥じる気持ちもあった。
    せめて明日には枷を諦め、いつもの襟巻きに戻してほしいが。浮かれ始めた頭では、説得できるような代替案が吸い跡を散らす位しか思い浮かばないのが、目下の大問題だ。


    write2021/6/8
    メンヘラ審神者×加州
    A-10「冗談のふり」
    艶やかな黒髪/チョーカー/仕舞っちゃおうか
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