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    最悪の自傷癖があるカ゛イア先輩の話です、なんでも許せる方どうぞ!わたしは低体温症をいいように使おうと思ったけどうまく書けなくて結局薬に頼っている悲しい人間です

    悪癖「はぁ、疲れた…」
    歩きながらぼやきと溜息を吐いても、返す人はいない。溜まっていた書類を片付けただけなのでそこまで大変な仕事でもなかったが、いかんせん最近忙しくて酒場に顔を出せていなかったのが痛い。血管に酒が流れているとよく揶揄われるガイアは、三日と空けずに酒を飲まないと生きていられないのだ。なにしろ貧血になってしまうので。
    カランカランと酒場のベルが鳴り、入ってきた人物をみとめた赤髪のバーテンダーは明らかに嫌そうな顔をした。
    「久しぶりだな、ディルックの旦那。それ客に向ける顔じゃないぜ」
    「久しぶり。前回も君を見たのは錯覚だったかな」
    「そのとおり。午後の死でよろしくな」
    ガイアはいつも通りの笑顔を浮かべたままカウンター席に座る。酒場は今夜も騒々しく、月はとうに上ったが静かな夜はまだやってこない。ガイアはシェイカーを振るディルックを見ながら、一つ欠伸をした。
    「そういえば、つまみのレパートリーは増やしてくれたか?」
    「酒場には酒を飲みにくるものだろう」
    「酒にはつまみが必要なんだよ。鹿狩りに行って視察でもしたらどうだ?」
    「必要ない」
    「簡単なのでいいんだぜ?ハッシュドポテトとか」
    「…」
    ガイアはカウンターに頬杖をつく。ディルックの返事はなかった。どうやら早々に面倒になったらしい。この2人の間ではこんな風に突然会話が打ち切られることはよくあることだ。ガイアが返事をしないことだって時々はあるし、まぁ、今更心を痛めることもない。今日はそこそこご機嫌斜めだな、とだけ思って、ガイアは酒の味に集中することにした。
    「…ガイアさん、もう帰ったらどうだ」
    「おいおい、流石に早くないか?もう少し寛大な心を持ってくれよ」
    口を開いたと思ったらこれだ。見たくない顔がカウンターにあるからといって、一杯目で追い出すのはバーテンダーとしていただけない。ディルックの圧を意にも介さず、ガイアは二杯目をオーダーした。
    「疲れた顔をしている。酒なんか飲んでいないで帰って寝ろと言ってるんだ」
    ガイアはぱちりと瞬いた。随分と珍しい発言である。そんなのまるで、気遣われているみたいだ。
    「…そうか?でもなぁ、酒が休息みたいなもんなんだよ」
    「ジンが、君がなかなか休みを取らないと言って困っていた」
    その言葉に逸りかけた心が一瞬で冷める。優しい彼は、かわいい元後輩がいろいろ抱え込んで溜めまくった心労を少しは軽くしてやりたいと思っているんだろう。初めからそう言ってくれればいいのに、些細な発言に一喜一憂するのはきっとこっちだけだ。
    「なんだ、旦那が俺のことを心配してるのかと思ったぜ」
    「なぜ僕が君の心配をしなければいけないんだ」
    「なぜって…」
    その先を言葉にするのは憚られた。ディルックの言っていることの方がよっぽど正論だ。いつもだったら、こんな話を振ったりしなかったのに。こうしてあしらわれることは目に見えていた。すこし飲みすぎたかもしれない。ガイアは視線を彷徨わせてから、笑顔を崩さず言った。
    「金払いのいい常連客の体ぐらい、心配してくれるだろ?」
    ディルックは一瞬動きを止めて、ガイアと視線を合わせた。それから、「そうだな」とだけ呟く。言葉選びを間違えたな、と思った。今のは笑って流すべきタイミングだった。なんだよ、随分と辛辣だな、なんて言えばディルックはいつも通りに不機嫌そうな顔をこちらに向けて、それで終わりだったはずだ。そもそも俺は多分そんなに金払い良くない。違う、そんなことじゃなくて…今日はだめだ。調子が悪い。ディルックとうまく言葉を掛け合える気がしなくて、ガイアは珍しく黙り込んだ。それ以外何の関係もないと分かっているはずなのに、いつもどこかで期待してしまう自分がいる。空っぽになったグラスの中で、氷が溶けて空虚な音が響いた。



    結局、その日は早々にエンジェルズシェアを後にした。いつの間にか降り出していた雨が石畳を強く叩いている。傘なんか持ってないぞ、とガイアは舌打ちをして身体の周りに氷元素を纏わせる。凍った雨粒が頭や肩に当たって冷たいが、ずぶ濡れになるよりはましだろう。こんな時炎元素の使い手ならばすべて蒸発させてしまえるんだろうか。手に乗った氷の粒をぼんやりと眺めてから、彼のすべてに憧れていたけどなんだって彼のようにはなれなかったことを嘆いてみる。気分が沈む日に限って雨だ。それとも雨だから気分が沈むのか。出口を失った思考に沈んだまま、家への道を辿る。本当に疲れているのかもしれない。今日はもう寝ようと思いながら階段を登って後ろ手に扉を閉める。ぼたぼたと全身から水滴が滴り落ちる。窓に雨粒が叩きつけられる音がうるさい。寒気が背筋を走った。寒い。あたためてほしい。誰に?そこまで考えて、ガイアははっと唇に手を当てた。
    「…罪人が、何を望んでるんだ…」
    安らかな日々など、与えられればまた苦しくなるだけだ。分かっているのに恋しくなってしまう。酔いは寒さで吹き飛んでしまい、残ったのは中途半端にくらくらする意識だけだった。ベッドサイドのテーブルに転がっている瓶から薬をひとつ。ふらつく足取りで風呂場へ駆け込むと、小さく息を吐いて右手を胸に当てた。初めにこの非生産的な行為に手を出したのはいつだったか、もう覚えていない。ひとときの救いを喉から手が出るほどに欲していた。ジンあたりに知られたら反省室で終身刑を言い渡されるくらい怒られそうだが、どうせ長く生きられる身でもない。与えられた使命は果たすが、その後など知ったことではなかった。
    氷元素の力が体を巡っていく。そのまま冷やして、冷やして、もっと。神からの贈り物を冒涜的に消費するのはガイアの特技だった。指先が引き攣ってまともに動かなくなる。ドラゴンスパインを彷彿とさせる冷気に肺を膨らませ、止まりそうな息をかろうじて吐き出す。肌が凍りつき、思考が散らばっていく。まだだ。漏れ出した元素で室温が下がり、震える息が白く染まる。時間の感覚がおかしくなり、ぷつぷつと意識が途切れはじめる。吐き気までしてきたがこっちは恐らく薬の副作用だ。
    「っは、ぁ………」
    まだ、まだ。まだ許されない。背筋を伸ばしていることすらできず、額が床に擦れる。助けて。お前の手で裁かれたい。だめだ。許されていない。まだ、もう少し。
    「ガイア?」
    凛とした声が聞こえて、ふ、とガイアは顔を上げた。ふわふわと笑顔を浮かべる、視線の先には義兄が立っている。こんなに冷えてどうしたんだ、と眉を下げるディルックは、もともと童顔だがより幼い顔だちをしている。ガイアがいちばん幸せだったときだ。あのころ、今となっては何度願っても届かない全てが手中にあった。いくら罪の意識に苛まれていようと、彼がいれば恐ろしくはなかった。
    ディルックの手がガイアの頬を包む。
    「…冷たい。なにか飲み物をいれるから少し待ってて」
    ディルックが風呂場の扉に手をかける。待ってくれ、と言いながら裾を引くと、ディルックは困ったような顔をして振り返った。
    「なに?」
    「…俺のこと、家族だと思ってくれてるか?」
    「…またそんなこと心配してるの。ガイアは僕の大事な家族で、かわいい弟だよ」
    満点。ガイアは「ありがとう」と言って唇を歪めた。回答なんて分かりきっているのに、作り上げた幻覚で毎回舞い上がってしまえる自分があまりにも救えない。俯いてしまったガイアを見て、ディルックはその肩を掴んだ。
    「…どうしたの」
    「…」
    「何か嫌なことがあった?教えて」
    「何もないさ」
    「そんなわけない。こんなに泣きそうな顔をして」
    涙も出ていないのにディルックが柔らかく目の下を擦るので、それに反応してじわりと視界が滲む。義兄さん、と呼んだ声は馬鹿みたいに揺れている。
    「うん」
    「疲れた」
    がんばったね、と言ってディルックはガイアの頭を撫でる。その胸に縋ってみると、心臓の音が聞こえてきて思わず笑ってしまった。我ながらよくできている。彼の姿が一瞬ブレて、悪癖の時間の終わりを悟った。瞬きの間隔がゆっくりになっている自覚はあるが、眠気に抗うことができない。
    いつの間にか少し意識が飛んでいたようで、次に目を開けた時には彼の姿はなかった。床や壁に張っていた氷もすっかり解けて、凍りついて傷ついた肌からは血液が滲んでいる。自分の中にも彼と同じ色が流れているのだと思うと、少し滑稽だった。
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