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    TokumeiP_2

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    雨彦と古論クリスが雰囲気悪くなる話です 健全です

    雨彦と古論クリスがガチ喧嘩する話想楽は、ユニットメンバーの二人と、プロデューサーを楽屋に待たせていた。Legenders三人でのショートドラマの撮影だったが、終わりがけに想楽だけが監督に呼び出されていた。演技の方向性について、一対一でのちょっとした話し合いを求められていたのだ。
    楽屋に着くと、困り果てた様子のプロデューサーが手持ち無沙汰に扉の前に立っていた。
    「あ......北村、お疲れ。」
    「やっと終わったよー、お疲れさまー。あれ?どうしたのー?雨彦さんたちは......」
    「えっと......どうやらあの二人、機嫌が悪いみたいでさ、先に出てよう。......今日は奢るからさ」
    「......機嫌が悪いー?雨彦さんと、クリスさんがー?」
    想楽は訝しんだ。レジェンダーズといえば、ビジネスライクでお互いがお互いをうまく尊重しあった関係で成り立ってるユニットだ。特に、年齢も三十路のあの二人は、不機嫌な態度など他人の前であからさまにはしないはずだ。
    プロデューサーは、想楽の不思議そうな顔を一瞥し、そして今出てきた楽屋の中をそっと覗く。小さなため息。
    「とにかく、今日は俺たちだけで帰ろう。二人もそうして欲しそうだし」
    そういう彼は、すでに手に想楽の荷物を持ってきていた。
    「ありがとー。気が利くねー、ふふっ。」
    想楽が荷物を受け取り、コートを羽織り、帽子を被るとプロデューサーも上着を着た。
    「......それでー?わざわざなんでもない日に一緒にご飯のお誘いってことは、何があったか説明してくれるんだよねー?」
    「......ああ、勿論だよ。というか、聞いてくれ......」
    想楽は少しだけ自分より背の高いプロデューサーの顔をチラリと見上げた。心底疲れきっているというかのような目元のクマ。いつもより老けて見えるほど、心労を負ったのだろうか。歩きながら、特に会話もないが、時々プロデューサーがはああ、と重そうなため息をつく。
    「プロデューサーさん、大丈夫ー?」
    「......あ、すまん。ため息、うるさかったよな」
    「そういうことじゃないんだけどー。そんなにややこしいことがあったのー?僕のことを待ってた数十分でー?」
    「そうだな......詳しい話は店で。ファミレスだけど、完全個室の珍しいお店なんだ」
    「へえー。プロデューサーさんがそんな気の利いたところを知ってるなんて意外だなー」
    「ははっ、その通りだよ。この間知り合った他事務所の先輩プロデューサーの方から紹介してもらったんだ。込み入った話がしたいけど、予算がないってときにいいぞってな。アイドルを自宅に招くのはなんだかんだ問題になるからな......」
    「そうなんだー。......あ、あの店かなー」
    かくして想楽とプロデューサーの二人は完全個室ファミリーレストランに入った。

    「え、ケンカ......?」
    想楽は運ばれてきた安っぽい生ハムをつつきながら、信じられないという顔をした。プロデューサーはノンアルコールのワイン風ドリンクの入ったグラスを傾け、ため息と共に「そうだ」と返す。
    「喧嘩、って。雨彦さんとクリスさんがー?信じられないなー。」
    「俺も信じられないよ。なんであんなことになったのか......」
    そしてプロデューサーは事の経緯を語り出した。


    話は撮影終了直後に戻る。前述のように、想楽は監督から呼び出されていたが、それ以外の二人のアイドルと担当プロデューサーは先に楽屋に戻って待っていることにした。監督は主要な役を演じる想楽と二人だけ話をしたがってしたし、想楽も「先に帰ってていいよー」と言っていたからだ。

    想楽の言葉に甘え、三人は先にスタジオから楽屋に向かっていた。しかし、その道中。雨彦が珍しくよろけて倒れかけたのだ。
    「おっと......」
    「雨彦!」
    「葛之葉さん!」
    クリスの方が反応が早かった。サッと雨彦を受け止める。
    「......ああ、悪いな」
    「いえ。......それよりも雨彦。最近眠れているのですか?」
    何気なく、彼を心配してかけたであろうセリフ。クリスのこの発言が発端だったと思える。プロデューサーは、たしかに最近雨彦がぼんやりとしていることが多いと感じていた。
    事務所での打ち合わせ中、休憩中、移動中。しかし、プライベートに踏み込ませない雰囲気を持つ彼にうまくお節介を働けず、「無理しないでください」と当たり障りのない気の使い方しかできていなかった。その言葉にも、雨彦はいつもの掴みどころのない笑顔で「問題ないさ」と返すだけだった。
    だから、こうやってクリスが単刀直入に切り込んだ言葉を投げかけた時、プロデューサーはゴクリと息を呑んでしまった。そしてその緊張感は、雨彦とクリスの二人にも走ったようだ。その場が凍りつく。普段なら「ああ、お前さんが心配することじゃないさ」とでも言って軽く躱してしまう雨彦が、スッとクリスの手を突き放した。
    「......それはお前さんには関係ない。だろ?」
    声はいつものどこか揶揄うような、真剣でないような調子だった。だが、これ以上立ちいられたくない、という拒絶も感じた。いつもは雨彦の言葉から、明確な拒絶を感じることなどない。彼は、拒絶や苦痛さえも煙に巻いてしまう。
    「......関係ないという言い方はどうかと思いますよ、雨彦。私たちは......ユニットなんですから」
    手をそっけなく振り解かれたクリスも、いつもの快活と柔和が入り混じる好青年の態度が剥がれかけている。冷たく、見る相手を刺すような瞳に淡々とした声色。明らかに、雨彦を咎めていた。
    二人の間に静寂が流れる。プロデューサーは二歩ほど後ろで固まって、冷や汗を流した。
    (なんだ......二人とも、雰囲気が......)
    しかし、一瞬の無言の後、雨彦は楽屋へとスタスタ歩き出した。クリスもそれに続く。空気に呑まれていたプロデューサーは、慌てて後を追った。

    楽屋に着くなり、クリスは雨彦に歩み寄った。
    「......雨彦。最近、眠れていないのではないですか?私の目から見ても、あなたは最近おかしいです。典型的な睡眠不足の症状があります。」
    「......さあな。それに、言ったろう?お前でもには関係ない。必要以上にプライベートに干渉されるのは、古論。いくらお前でも、迷惑だってことくらいわからねえか」
    プロデューサーはこの時点ではっきりと異常を感じた。雨彦の発言が刺々しい。普段ならプライベートに踏み入られそうになっても、うまくかわすだけの彼なのに。ただの気遣いとも取れるクリスの言葉に、必要以上に反発しすぎだ。
    また、冷や汗が一筋頰をつたう。
    「......迷惑、ですか。それは承知しています。あなたがプライベートに干渉されることを好まないことも、もちろん承知していますよ。しかし.....先程、ふらついていましたよね?......何かを無理しているのでは?」
    「......古論。お前に言えることは何もないぜ。ただ、俺のことは放っておいてくれ。これまでも、これからもな。なあに、ずっとそうやってLegenders(俺たち)は続いてきたじゃないか。それに、今日の撮影はどうだ?なあ、お前さん!」
    「おっ?え、はい......えっと......」
    突然、椅子越しに後ろを向いた雨彦が大きな声でプロデューサーに語りかけた。プロデューサーは驚き言葉に詰まる。
    「今日の俺の撮影はどうだった?と聞いたんだ。プロデューサーとしてのお前さんの意見を古論にも聞かせてやれ」
    「えっ......あっ、そうですね、あの......申し訳ないですけど、完璧だったと思いますよ」
    プロデューサーの返答を聞くと、雨彦は得意げに振り向き直る。
    「だ、そうだ。古論」
    たしかに、ここ最近の雨彦は誰がどう見ても「疲れて」いた。だが、その片鱗を見せるのは休憩時間や移動時間、事務所での軽い打ち合わせの時などのみに留まる。つまり、アイドルとしての仕事はまったく以前と変わらなく、しっかりこなしていたのだ。だからこそ、プロデューサーも、踏み込んだことが言えなかった。
    クリスは引き下がらないようだった。
    「今日までは、そうですね。しかし、幸いなことに明日以降も、我々には仕事がたくさんあります。こなしきれるのですか?」
    「......何が言いたい?」
    「先ほど廊下で倒れかけていたのは、あなたの心より先に体が限界を訴えているのではないですか?今までは、こんなことはなかった。なので、今言うべきだと思ったのです。」
    クリスは追及の手を緩めない。あくまでも冷静に、しかし厳しい声で雨彦を責めるような言葉を並べる。
    雨彦は大きくため息を吐き、立ち上がった。
    「古論」
    雨彦が立ち上がったことで物理的な距離が縮み、クリスの表情が険しくなった。
    「何度言ったらわかる?お前には関係ない」
    少し離れたところから見ていたプロデューサーは、そう吐き捨てた雨彦の鋭い視線に鬼気迫るようなものを感じゾッとした。それと同時に、あの雨彦とごく至近距離で相対しているのにもかかわらず眉一つ動かさず相手を睨みつけるクリスの胆力にも尊敬を通り越し気味の悪さすら感じてしまっていた。
    プロデューサーとして止めに入るべきだろうか、と考えないわけではない。ただ、険悪なムードの中に睨み合う二人が恐ろしすぎて声も出ないだけだった。187cmと191cmと、高身長の二人は並んで立つだけでも十分に迫力がある。そんな二人が、滅多にしないような不快感をあらわにした鋭い目つきで互いを睨んで牽制しあっている状況は、ただの1プロデューサーである彼にはどうしようもないほど風格を放っていた。
    「古論、俺はお前より1年も多く生きてるんだ。四季の一巡がどれだけ永い時間か、海に焦がれるお前さんならわからないはずもないだろ?」
    「いいえ」
    クリスは冷たく鋭い視線を雨彦に刺す。
    「11ヶ月と10日です。残念ながら、あなたと私の人生経験には1年もの差はないのですよ。雨彦」
    その声も凍りついたかのように冷淡で厳しかった。この温和な人間が、ここまで相手を責めるような口調を使うことはまずなかった。
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