古論クリス ホラー古論クリスというアイドルは非常に海に詳しい奴だ。
この海にどんな生き物がいるか、などの基本的なことから何年何月のある魚の漁獲量と言った詳しいデータ的なところまで、聞けば即座に答えてくれる。
そんな調子だから俺たちは事務所みんなで、海に少しでも関わることなら古論クリスに聞いた。本人も、その生き「海字引き」のような扱いに不満を覚えるどころか、大好きな分野で皆さんのお役に立てるのが嬉しいと喜んでいた。
ある日、俺が休日に事務所で書類を整理していると、テレビからある浜辺でまだ幼い子供が溺死したというニュースが流れてきた。
親はちゃんと見てなかったのかよ......と顔も知らない他人の育児事情に勝手なことを思いかけ、頭を振る。
そこにクリスが通りかかった。
「もしかしてここって溺れやすい海流とかなのかな」
何の気なしに聞いてみた。すると、
「この海では溺れていません。〇〇市〇〇町x-xx-xxx号室の浴室の水の中で父親に頭を押さえつけられ、苦しみもがきながらしかし力で叶うはずもなく肺にどんどん水が溜まり呼吸ができず窒息死したあと、この海に流されました」
ギョッとしてクリスの方を見る。
誰もいない。......そんなはずはない。デカくて金髪の髪を揺らして歩く存在感のある彼を見間違えるはずがない。
ましてや、自分の担当アイドルだ。
スマートフォンから電子音がしてビクッと反応してしまう。
クリスからだった。
恐る恐るメッセージアプリを開くと、水族館の写真だった。
「本日は新オープンの水族館に行ってきました!展示が充実しています。ぜひ、プロデューサーさんや雨彦、想楽たちとも伺いたいです!」
そうだった。
そもそも、古論クリスは——というか、今日は自分以外全員オフだ。
この事務所には自分しか来ていない。
自分で鍵を開け、不審者が入らないよう鍵を閉めていた。
そうだった。