いつか書くかもココイヌ「ココ、次の月曜日空いてるか?」
メールより電話が楽。なのは相変わらずのようで、乾からの連絡は決まって何コールかの着信だった。段ボールまみれの部屋の真ん中で埃のついた手を払い、ぶんぶんと震えたスマホを取る。耳馴染みのいい声を聞いたら、自然と頬が緩むのは不可抗力だった。
「空いてるよ。事務所の整理も終わったし、あとは新居の片付けくれぇ。なんならイヌピーが手伝ってくれると嬉しいんだけど」
「いやだ」
オレから誘ってんのに。電話の向こうで口を尖らせているのが丸分かりで、こちらはヘラヘラしてしまう。
乾からの誘いはめずらしい。記憶のなかでも数えるほどしかないから、空いてる? の言葉は九井にとって棚から牡丹餅だった。つまらない軽口で彼の機嫌を損ねるのも本意では無いし、素直に冗談だと謝罪する。それに、この牡丹餅はもう何年と口にしていない代物だったから。
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