3.くちなし ゆっくり、お誘い、甘い香り 東北新幹線と上越新幹線 かつてこの国には、高速鉄道の化身となる存在を選抜するための教育機関が存在した。そこに在籍する者は候補生と呼ばれ、鉄道の歴史や運行に関する知識はもちろん、国の顔ともいえる高速鉄道として必要となる教養まで広く学び身に着ける能力が求められていた。
ダンスはその中で重要なカリキュラムの一つとされており、得意不得意が明確に現れる分野だ。
座学実技ともにずば抜けた頭角を現し東北新幹線となった男にも不得意なことはあるもので、最初の大きな仕事である関係各所へのお披露目パーティが、彼にとって目下の悩みのタネだった。
業務で着用する黒い詰襟ではなく特別に支給されたタキシードに身を包み憂鬱そうな東北の背中に、聴き慣れた声が掛けられる。
920