撚り合うこころふと視線を遊ばせて、そこにアルベールがいると何でもないのにとても嬉しい。幼子が母か、あるいは父を見つけた時、花の咲くように笑って駆けていくことがある。長らく私はその感情を理解できずにいたけれど、きっとああいう子どもたちの心にはこの暖かな喜びが広がっているのだろう。安寧を得られる者の傍にいるということは、たったそれだけのことのようでいてとても難しい。そして、途方もなく幸福なことだ。
「なぁ、アルベール」
「ん」
書類を眺めている友は、私の視線にとっくに気が付いているはずだった。流石は騎士と言うべきか、紅眼は人の気配に敏感だ。手元ばかりを見ているようでいて、あどけない大きな瞳は恐らく部屋の全てを見渡している。
2516