雨の音さえ本屋を出ると、曇っていた空から雨が降ってきていた。天気予報、一日曇りだったのにな。念のため持って来ていた傘を拡げる。
そういえば、真次、そろそろ泊まり出張から戻るんじゃねえの。
そう思ってスマホを見ると、もうすぐ駅に着きます、と着信が入っていたので帰らず駅まで足を伸ばすことにした。
「お帰り、お疲れ。」
「はい、ただいまもどりました。」
改札で会い、階段を降りると、
「私が持ちます。」
傘に手を差し出される。
折畳み傘くらい持ってるんじゃねえの、とか、一週間泊の手荷物の上に傘もかよ、と思ったが口に出さなかった。どうせああだこうだ言われて傘を手渡すことになるから。
「ほい。」
急な雨のせいか、人通りが少ない。傘に雨があたる音がパツパツと響く。
「友一君。」
「ん?」
「お迎え、ありがとうございます。」
呼ばれて顔をあげたところで、不意打ちでキスが降って来た。
「ちょっ……」
こんな、ところで。顔に血が昇る。
「傘で、見えないですよ、安心してください。」
「そういう意味じゃなくて………」
「どういう意味ですか?」
言ったらどうなるか分かってる。
俺から誘ったってことになる。絶対。
「友一君?」
顔を覗きこむようにされ、ふわりと香るいつものグリーンシトラスの匂い。身体の奥からぞくりとした。もうヤだ、こいつの隣り。
「………なくなるから……」
「え?」
「我慢できなくなるからっ」
細い目が、眩しそうにさらに細められた。
大通りから住宅街に入ったところで腕を引っ張られる。
「こっち、来て。」
ああ、やっぱりそうなるよな。
「ちょっと……痛い。」
路地の塀に押し付けられ、すぐさま奪うように乱暴なキスをされた。傘で隠れるたって、何してるかバレバレだよな。
「…ん………」
口を開け、押し入って来ようとする熱い舌を自ら迎えにいった。触れた瞬間、背に震えが走る。思いきり絡め、疼いた身体を押し付ける。お前だって、我慢できなくなればいい。
犯してくる濡れた粘膜に集中すれば、もう何も聞こえない___
《雨の音さえ / 終》
この後、ズボン越しに後ろいじられイかされちゃってマジ切れする友一に、家まで傘禁止お前も濡れろ!と言われるお兄さん。お風呂で仲直りしてね。