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    aruna_anzr

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    aruna_anzr

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    雪原先生お誕生日おめでとうございます!!
    雪原先生って◯◯っぽいなと思ったお話。

    雪メイ『優しい夜明け』 雪原先生のせいではもちろんないのだが、先生の誕生日はタイミングが悪い。歌舞輝町のクリスマスはカオスを極め、事務所にいても救急車のサイレンが一晩中聞こえてきた。一番街医院にも相当な患者が搬送されたものと思われる。
     しかも今年のクリスマスはちょうど土日に被っていたから、例年以上の忙しさなんじゃないかと事務所の面々が渋い表情で言っていた。
     そして祭りが終わって喧騒が去った十二月二十六日、いつもの歌舞輝町を歩いて私は一番街医院へと向かう。
    「お疲れ様です、これ皆さんでよろしければ……」
     心なしか屈強な看護師さんたちの表情にも陰りが見える。心ばかりの差し入れとしてゼリー飲料をお渡しして、先生のいる診察室へと足を向けた。
     
    「クリスマスの対応、お疲れ様でした。すみません、まだお忙しいところにお伺いしてしまって」
    「いや、定期診察なんだから気を遣わなくていい。むしろきちんとこちらの提示した周期を守ってくれて感謝する」
     そうして、いつも通りの問診を済ませていく。記憶の戻る気配はまだないが、こうして定期的に診てもらえるのは有難いことだと思う。自分では気付かないような変化にも、先生は気付いてくれるから。
    「体の状態は問題ないし、睡眠も十分取れているようで何よりだ。何か気になることがあれば聞くが」
    「気になることではありませんが、お渡ししたいものがあります。お誕生日おめでとうございます、雪原先生」
     
     荷物置きに置いていた紙袋を、先生へと渡す。プレゼントは先程看護師さんにも渡したゼリー飲料と、二連のフォトフレーム。中の写真を見た先生が僅かに目を見開いた。
    「これは……」
    「コマ劇前のいつものメンバーです。私はまだ見分けがつかないので、すみませんがどの子が写っているか教えていただけますか?」
     片方には、雪原先生が別格だというコマ劇前の鳩たちを入れた。写真を見た先生は次々と鳩たちの名前を挙げていく。動いていない状態でも違いをしっかりと把握しているのは流石の観察力だと思う。
     それに、彼らの話をしている時の先生は、柔らかい顔をするから。少しでも気が休まるきっかけになってくれたら嬉しいと思う。
    「もう片方には何も入っていないようだが」
    「そちらには先生の好きな写真を入れてください。多肉植物でも、お気に入りの景色でも。先生が元気になれるものを」
    「それなら……君がいい。写真を撮ってもいいだろうか?」
     
     すると備品の補充に来ていた看護師さんが食い気味に話しかけてきた。
    「それなら七篠さんだけじゃなくて先生も写りましょうよ! 私撮りますから! 先生のスマホ貸してください」
     半ば奪い去られるように先生の手からスマホが移動する。サクサクと端末を操作して、看護師さんがニコニコしながら指示を出してきた。
    「じゃあ二人とも寄ってください~先生ちょっと屈んでくださいね~」
     私も先生も言われるがままに従い、カシャカシャと数パターンの写真が撮られた。
    「先生! 後でちゃんと七篠さんにも写真送ってあげてくださいね! 後でプリントしますからまたスマホ貸してください!」
     そう言って慌ただしく診察室を去って行った。去り際に『皆に報告しないと』と言っていたようだったが何か気になることがあったのだろうか。
    「では、お大事に。写真は後でFINEで送る」
    「はい。お手数ですがよろしくお願いします」
     そうして、穏やかに十二月二十六日は終了した。
     
     それから幾ばくかの時が過ぎ、そして今日も私は先生の元へ赴く。
     どうしてこの世界はこんなにも理不尽なのだろう。〝何故自分が〟〝何故私の大事なあの人が〟この世界には、そんな声が至るところに溢れている。
     雪原先生は、その理不尽な世界の中でも凛と揺るぎない覚悟をもって、決して灯を絶やさない灯台のような人だと思う。どんなに空と海が荒れようと、海原を征く全ての船の光の導となるような、そんな存在だと。
     どうか君が、道に迷わないように。そう言って見守ってくれている気がするのだ。
    「雪原先生、ただいま戻りました」
    「病院に〝ただいま〟と言って来るのもどうかと思うが」
    「いえ。病院にではなく、あなたのところへです」
     星空が朝日に溶け始める、夜と朝の狭間の時間に白む空の暁色は、きっと痛いぐらいに眩しくて、あなたの瞳のような色をしているだろうから。
    「先生。返事を、聞かせてはもらえませんか?」
    「ん、ああ……おかえり?」
     その眩しく優しい夜明けの色を目印に、私は迷わずここへ戻って来ることができるのです。
     
    「いつも俺は送り出す側だから、迎えるというのは不思議な気分だな。医者としては患者を送り出した後は経過確認の再診以外では戻ってきて欲しくないんだが」
     少し視線を外して瞼を伏せるように微笑む先生に、つい目が奪われる。冬が苦手な先生は、度々雪花のように儚く笑うから。そして視線を戻した先生と、パチリと目が合った。
    「ただ君には……そうだな。君に〝ただいま〟と言われるのは悪くない。君の居場所になれた気がして」
     先程までの笑みとはまた違う、春風のように穏やかに笑うあなたに、今度は心が奪われてしまいそうになった。もしかしたら、知らぬ内にもう奪われているのかもしれない。
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