「12月25日」クリスマスを一月程前に控えたある日、兄さんからアドベントカレンダーを貰った。
木で出来たクリスマスツリー形のその二十五個の日付の書かれた小さな引き出しの中には外側のクリスマスツリーを飾るオーナメントが入っているらしい。
待ちに待ったスタートの十二月一日。
最初の一の扉を開けると中にはクリスマスツリーのてっぺんに飾る為の星が入っていたので、いそいそと、それをてっぺんに乗せた。
まだまだ未完成のクリスマスツリー。
各引き出しには小さな取っ手がついていてそこにオーナメントの紐を飾る仕組みになっている。
それを毎日一つずつ開けては飾っていくのが僕の毎朝の楽しみになった。
雪だるまにくるみ割り人形、キャンディ・ケインにジンジャークッキー、多種多様なオーナメントを飾る度にクリスマスが近づいてくる。
最近ではクリスマス自体にも興味が湧いて、ALKALOIDの皆でクリスマスマーケットに行ってノンアルコールのホットワインを飲んだり、桃李くんに誘われてサンタクロースのおじいさんに手紙を書いたり、椎名さんにひなたくんと共にジンジャークッキーの作り方を教えて貰ったりと、初めて経験する事がたくさんあって、それらは全て最初に僕にアドベントカレンダーを与えてくれた兄さんのお陰だ。
だからお礼と僕からのクリスマスプレゼントを兼ねて、クリスマスマーケットでふわふわとした毛並みのテディベアを購入した。
店員さんによって綺麗にラッピングされたくまは僕の机の引き出しの中に隠され、兄さんに渡される日を待っている。
そんなクリスマス当日の朝、最後の二十五番目の引き出しを開けると中には待望のサンタクロースのオーナメントが入っていたのだけれど、
「あれ?これは……」
サンタクロースの帽子にはシルバーリングが引っかかっていた。
くすみも傷もない新品のシルバーリングは綺麗で、思わず手に取ってしげしげと眺めてしまったけれど、もしかしてこれは、お店でアドベントカレンダーが売られていた際に誰かが商品を悪戯でここに入れてしまったのかもしれない。
どうしようと悩んで、まずはプレゼントしてくれた兄さんに事態を相談しようと、まだ早朝の星奏館の階段を昇る。
303号室の扉を控えめにノックしてから、ドアノブを握ると鍵は開いていて、そっと室内に入った。
部屋の中には巴先輩や奏汰先輩の姿は無く、ベッドで眠っている兄さん一人きりのようだった。
気持ちよさそうに眠っている所悪いけれど、ゆさゆさと身体を揺する。
「んん……っ、一彩……?ってまだ、四時じゃねェかよ」
眠そうに目を擦りながら、僕を見た後、スマホで時間を確認した兄さんは非難するようにそう呟く。
「早朝に起こしてしまってすまない。けれど、緊急事態で、兄さんから貰ったアドベントカレンダーの中に指輪が混入していたんだ」
謝ってから、端的に早朝訪れた理由を説明すると、兄さんは何だか気まずそうに口ごもってから、
「……それ俺からお前へのクリスマスプレゼント。クラフトモンスターで凛月ちゃんからシルバー作りのやり方教えて貰って作ったンだよ」
そう真実を教えてくれた。
「っ!これは兄さんが僕の為に作ってくれたんだね!あまりに綺麗だから売り物が間違って入ってしまっていたのかと勘違いしてしまったよ」
まさか、兄さんが僕の為に作ってくれただなんて!兄さんから与えられる物は何だって嬉しいけれど、それが更に僕の集めているシルバー製品で、きっとそれをわざわざ覚えていてくれた兄さんからのお手製の品。
あまりに嬉し過ぎて興奮を隠せなくなってしまった僕を宥めるように兄さんは頭をくしゃくしゃと撫でてから、
「馬ァ鹿、褒めすぎ。けど、お前が素直に喜ぶ姿が見られたのが一番嬉しいクリスマスプレゼントだなァ」
そう笑って僕が握りしめていたシルバーリングを救い出し、左手の薬指にはめてくれた。
そこは都会の恋人同士には特別な意味を持つ大切な指だ。
更に赤く、熱くなってしまった頬を兄さんの頬に擦り付けながら勢い良く抱きつく。
「ありがとう兄さん!それからメリークリスマス!」
兄さんは突然のスキンシップに驚いたように目を見開いていたけれど、苦笑しつつ身体を許し、更に背中を撫でてくれた。
急いでいて部屋に置き去りにしてしまった僕からのクリスマスプレゼントであるくまは後で兄さんに渡すとして、今はただ、こうして兄さんと触れ合っている幸せな時間を堪能したかった。